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35:魔窟探索・急

「お前がやったのか?」


 バビンスキーは冷静差が欠けた声でクルルに訊ねた。


「ぼ、ぼ、ぼ、僕が探しに来た時には倒れていた。本当だ、信じて!」


 殺人現場の第一発見者は必ずと言って重要参考人物なのでバビンスキーのクルルへ対する疑惑は頷ける。


「そりゃあ都合が良すぎねぇかよ」


 クルルの胸倉に掴みかかろうとしたバビンスキーをワワが割って入る前に俺が止める。


「ねぇバビンスキー。エリンコは便座派なの?」


「は?何言ってんだ?状況解ってんのか?」


 俺の質問が突拍子もなく感じたのか、素っ頓狂な声を上げて眉を顰めた。


「大事な質問なんだ。答えて」


 真剣な目で見つめるとバビンスキーは答えてくれた。


「・・・野郎の下事情を事細かくは知らねぇが、俺と来た時はそこで用を足してた。腹は痛そうにしていなかったがな」


 そこ、と言うのは便座がある個室ではなく、壁掛けトイレ。


 とりあえずエリンコの死体の観察をしていた。それで気が付いたことが色々とある。


「そう。ありがとう。じゃあクルルが言っているのは概ね正しいよ」


「あ?」


「腰のあたりよく見てみて」


 俺の誘導でワワ、バビンスキー、クルルの順で死体の腰を見た。

 腰には服を貫くいたのか、小さな穴ができていた。


「服が破れていますね」


「これがなんだって言うんだ?」


 二人が覗き込むように見ても答えを見つけ出せなかった。唯一ワワが小さく頷いていた。


「この下には裂傷があった。確認してみるといいよ」


 裂傷となっている部分の皮膚は青く変色していて、血も紫色を混じらせながら裂傷部の表面で凝血していた。

 小さいお子様のイリヤや。グロテスクなのが苦手な人にはキツイ状態だと思う。

 イリヤには外で待てとジェスチャーで指示しておく。


「毒か」


 裂傷部を確認したワワが呟く。


「それも裂傷部を見る限り遅効性のある毒。

 つまり彼はこのトイレに入る前から致命的な攻撃を受けていた」


 毒の種類は一角土竜ユニコールのような痺れのある毒と、遅効性のある劇毒が混ぜられていると思われる。

 毒性学は勇者を毒殺した時くらいにしか知識としてつけなかったから、あまり広くはない。


「エリンコの背後にいた人間なんて少ないだろ。この休憩室に入る時も最後尾だったぞ。

 一番近くにいたとなれば」


 遅れて入ってきたジュリへとバビンスキーが振り返る。


「なによ。あーしがやったって言うの?そいつを?はっ笑える」


 一連の流れが外まで聞こえていて、察したジュリは鼻で笑った。


「俺は仲間を殺されてんだ。笑えねぇんだよ」


「すまん。口が過ぎた謝る。ジュリ、お前も謝罪しろ」


 保護者兼リーダーであるワワが頭を下げるも、ジュリは反骨心を剥き出しにして。


「はぁ!?あーしが人殺し扱いされたことは聞かなかったことにして謝れって?意味わかんねーし。 どーせ魔物の毒くらってたの気づかなかっただけっしょ」


「お前みたいな小娘殺すのも訳ないぞ」


「へぇやるってんだ。あーし、言ってなかったけど、賞金首狩りだから」


「喧嘩するのもいいけどさ、もっとハッキリしておかないといけないことがあるんじゃない?」


 殺人現場で剣と短剣を抜いて争う五秒前の人道も倫理も無い二人に水を差して悪いが、発言した。 二人共殺気だけで俺に反応する。残りの四人は俺に注目した。


「殺害犯は確かに見つけなればならないが、殺害目的も明確にしなければならないか」


「正解。誰が犯人にせよ、どうしてエリンコを死ななければならなかったのか」


 鋭いワワに答えを返す。

 まぁこれどうみても殺人なんだよね。

 服は貫かれているけど、傷口は裂傷。矛盾が発生している。

 魔物が切り裂いたとなれば服も裂傷痕のように裂かれていなければならない。


 この破損部と裂傷部は人為的だ。

 指先程の穴を開けて服を破って侵入し、中で指を弾く様に切り裂いた。あとは抜くだけ。

 それができた人間は全員に等しいだろう。無論俺とイリヤは除外する。


「因みに、カンロヅキさんは一番殺人を行えたけど、こんな卑怯な手は使わない性格だよ。人と対峙する時は真正面からやるでしょ?

 それでバビンスキーさんは二番目にやりやすいね。仲間だからこそ、相手は油断しているし、そういう小手先の技が好みだからね。

 俺から観ればどっちも怪しいな」


 正直な話全員怪しいので、一人一人消去法で犯人候補から消していかなければならない。


「だからなんで俺が――」


「そう。なんで誰かが殺さなければならなかったかって言っているでしょ?」


 それがわかれば犯人はわかったようなものだけども、世の中そうとんとん拍子に上手くいかないのである。


 ズン!と地が響いた。


 ぐらぐらぐら。


 地が揺れ、天が揺れ、壁が揺れる。

 トイレに入るのを躊躇っていたイリヤが俺の方へと飛ぶように隣へやってきた。


 全員が身構えて、揺れが治まるのを待った。

 揺れは十秒ほどで治まって、休憩所に風を齎してから静けさを取り戻す。


「地震ですよね?って何しているんですか!?」


 怖がるイリヤを放っておいて、エリンコの死体を表に向ける。

 そして犯人の目的を理解する。


「な、なんですか、それ」


 イリヤの顔が引き攣っていく。

 エリンコは幸せそうに目を瞑って死んでいた。

 その左目と右目を開いてみると、眼球はなく、そこには凝血した血の塊が綺麗に収まっていた。

 更には腹部の服の中に入れらていた左手の人差し指は切り取られて無くなっていた。


 犯人の目的は俺達を魔窟の中へと閉じ込めることだと判明した。


 死体を弄ぶ趣味なのか、それとも用意周到なのか、どっちにしてもこの犯人は人殺しのプロ。

 遅効性の毒を使い、時間差で殺害。

 その後眼球と指を切り取って、同じ毒で凝血させ、止血。

 眼球と指を顔色変えずに所持している。何食わぬ顔をして、この場に立っている。


「もう戻りましょうよ!この中に人殺しがいるんですよ!」


「そ、そうです。一度引き返して報告した方がいいです」


 クルルが声を荒げて叫んだ。それに同調するハジメ。

 この流れは断ち切っておかなければいけいので、立ち上がり反論する。


「駄目。深層へ行くべきだ」


「な、なんでです!あ、貴方が殺人犯だからですか!」


「俺だと疑うのは構わない。戻るのが駄目な理由だけ言っておくね。

 犯人は入り口を爆破した。さっきの地震はその余波で起こった地震だよ。

 戻っている間にも犯人が殺人を繰り返し、最後に入口にまで辿り着くのは・・・ね」


「そ、そんなの貴方の勝手な言い分じゃないですか。

 さっきの地震が入り口を爆破した余波だなんて証拠ないじゃないですか。あるんですか証拠」


 ハジメは切迫すると強気になるらしく、まくし立ててくる。


 うーん。全員が助かる確率が高い道は深層へ行くしかないので、とりあえず不安を煽っても、まだ信頼度が足りなかったようだ。


「ないよ。あるって言っても信じないだろうから。ない」


「ほ、ほら。この人は信じられない!」


 ハジメはこの場にいる全員に見せつけるように俺を悪者だと指差した。


「まぁ、俺の言い分は聞かなくてもいいけど、俺とイリヤは深層に行かせてもらうよ。

 付いてくるのも、来ないのも君達次第だ」


「待て待て、二人で行って帰って来られると思っているのか?

 深層は上級の魔物がいる可能性もあるんだぞ?そこへ子供を連れて素人が入って行くなど。

 お、おい!」


 ワワの諭す声も聞かずにイリヤの手を引いて休憩所から出る。

 ハジメとクルルは俺を避け、ジュリも止めようとはしなかった。


「あ、ああいうのが次に死ぬんだ。それがセオリーだ」


 そんなハジメの呟きが聞こえた。


 余計なお世話だ。


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