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34:魔窟探索・破

 魔窟の入り口は砦の裏にあり、入り口は厳重にシャッターが何重にも降ろされていた。

 バビンスキーが指紋と眼球を認証させてシャッターを開いて行く。本当に何の魔遺物なのか気になる。


 魔窟内での隊列は自然に出来上がっていた。

 最前列にワワとバビンスキー。直線通路になっている魔窟内では横からの襲撃には会いにくいため、最前列には最も力のある者を置くのが定石。

 その後ろにクルル、ハジメ、イリヤ、俺。おっかなびっくりしているイリヤは俺の隣にいる。

 最後尾はジュリとエリンコ。通り過ぎた分かれ道からの強襲なんてもあるので、殿は必要。

 そのエリンコがバビンスキーと同じように指紋と眼球を認証させて扉を閉めた。この二人のどちらかがいないと、ここから出られないのか。


 前と後ろに敵味方どちらでもない者達に挟まれながら、急な階段を下りていく。三十段程降りると、平たい一本通路になった。

 そこからは俺達が拠点にしていた空気が微妙に薄い洞窟なんて可愛く感じる程に、澱み、濁った空気が視覚化された空間が広がっている。  


 イリヤの小さい手が震えながら、俺の服の裾を握った。歩きにくそうだが、慣れるまでこうしておいてあげよう。

 しかし手を繋ぐのは恥ずかしいから嫌らしい。


 魔窟内の漂う魔力を魔力吸収しようにも、周りにいる人物の魔遺物の魔力まで持っていってしまうので軽々しくできない。なので俺は戦闘には基本的には参加しないつもりでいる。

 前と後ろに精鋭がいるし、出来るだけ手の内を見せたくない。その上、相手の手の内は見ておきたい。


「ねぇゲイザーさんはどれくらい強いの?」


 二分程度直進してから誰も口を開かないので、親睦会を開く為に俺がワワに話を振った。


「ここ近年の評価はA-だな。心配か?」


 ワワは前を向きながら答えた。


 ギルドの依頼を熟すと様々な評価方式で加点されていき、自分が持つランクが上がる仕組み。

 一番下がE-で一番上がS++。その中でA-はかなり上の方だと言っていい。

 ま、強さといっても一概であり、力が強いだけではA-は付けられないだろうから、ワワは敵に回すとかなり厄介。比べるならば宿屋で出会った時のバンキッシュと同じくらい厄介。


「初魔窟探索のうちのお姫様が怖がっちゃってね」


「こ、怖がってないです」


「震えているけど?」


「武者震いです。う、うおー」


 震えた拳を握りしめて両手を上げるイリヤを見てワワは笑みを溢した。

 全体的に空気が緩んだ。


「ははは、表層にいる魔物くらいなら俺だけでも何とかなるからな、安心していいぞ。

 なんなら、いざとなれば後ろにいるジュリお姉ちゃんが助けてくれる」


「は、はい。ありがとうございます」


 苦手意識が芽生えているジュリの方をイリヤが向くと、面倒くさそうに髪をかき上げながら。


「はぁ?なんであーしが、勝手に仕事押し付けてくんな。ただでさえ足手まといがいるんだから」


 その冷ややかな目線はハジメを意識していて、自分が言われていると分かったハジメは脇を閉めて体を縮めた。


「どうしてタカラダさんに強く当たるの?何かされた?」


「は?あんたには関係ないっしょ」


 攻撃対象を俺へと変えさせる。

 ジュリの言葉の強さは同じに聞こえるけど、怒りの含み方が違う。今の俺には攻撃性がある怒り、ハジメには継続的な怒りがある。


 イリヤは気まずそうに成り行きを見ているが、止めたそうにもしている。


「関係ないから気になってね」


「だったら黙ってて」


「タカラダさんに性的な嫌がらせをされた。うん、これはないね。けど近い。

 もっと偶発的な事かな?」


「あんた」


「じゃあタカラダさんに偶然、性的な行為をされた。

 しかもそれが偶然だと自分でも理解しているから、本気で怒れていない。

 なんなら負い目を――」


 俺の右肩の上にジュリの剣が乗った。

 この中で一番手を出すのが早いから煽ったのではない。単純にジュリとハジメの関係が気になっていて。その関係性のせいで、こちらも気まずくなる状況が辟易とし始めていた。

 イリヤも怖がっているしね。


「あんまズカズカと人ん中に入ってくると、痛い目みるって知ってる?」


「何度かはあっているよ。でもやめない。俺は弱い者虐めは見過ごせない性格でね」


「ッ!」


 剣が今まさに動こうとした時にワワが小さく呟いた。


「それ以上は分かっているな?」


 年齢から、見た目から、内に秘める力からの圧。その圧は言葉に乗り、ジュリへと届いた。

 ジュリは舌打ちをしてから剣を治めて俺から距離を取る。

 ワワの言葉はもちろん俺にもしっかりと届いた。


「終わったか?じゃあ警戒してくれ。いるぞ」


 前を歩くバビンスキーが忠告すると全員が臨戦態勢に切り替わる。

 通路の奥に影が八つ。額から一角を生やしたモグラの群れ。

 あれは一角土竜ユニコールか、酢漬けにすると美味しいんだよなぁ。

 おっと、食べ物として見てはいけないな。討伐対象だ。


 土を掘る為に進化した爪は太く長く、更には爪には毒を分泌できる神経が通っている。

 あれに引掻かれれば、通常の人間であれば三十分は行動できなくなる。

 その間に止めをさせられて、巣へと持って帰られる。

 ギルドのようにランク付けをするならD+とかだっけか?三百年前から変わっていなければ、その程度の弱さ。


 魔物との戦いはやり過ごした方が色々と消耗せずに済むが、まだ殆ど一本道なので引き返す事でしか事なきを得られない。

 なので前進するなら、戦うしか選択肢はない。


 一角土竜達はこちらに気づいておらずに、前進してくる。

 遠距離からの奇襲が一番手っ取り早い対処方法。

 まずバビンスキーが腕輪型の魔遺物を回してから、短剣型の魔遺物を起動させた。


 逆手に短剣を持って一本投擲する。

 前方にいる一角土竜の急所である背中の一点を貫き、突然の攻撃に狼狽する一角土竜を見るや否や、次々と手の内から現れる短剣を素早く七体の背中に投擲した。

 二呼吸の間に見事に八体の一角土竜は討伐された。


「おぉ凄い手際の良さだね」


 俺が拍手をするとバビンスキーは、それ程でも?と得意げに笑って一角土竜の死骸を蹴って端に寄せて前進を再開する。


 それから鶏蛇コカトリス蝙蝠蜘蛛スパイバットといった魔物達を狩ったり、やり過ごしたりしながら、黙々と歩いて二時間ほどが経過した。


 今は魔窟内の各所に作られた簡易休憩所で休憩している。

 この休憩所を出て、暫く行くと未開拓地である、魔窟深層に入るらしい。だから最初で最後の心休める休憩と言える。


 休憩中クルルが刷毛型魔遺物で全員の装備を保護していく。

 バビンスキーとエリンコはトイレへ。

 ワワはその二人の観察がてら近場の壁に背中を預け、ジュリは丸椅子に座って剣の手入れをし、ハジメは必死に本に何かを記入していた。


「これってやっぱり資格とかいるんだよね?」


 俺の服に耐魔を施してくれているクルルへ訊ねる。


「上位の魔遺物なら要りますけど、僕がやる程度のものなら、やろうと思えば誰でも出来ますよ。

 この刷毛型の魔遺物に自分の魔力を流すんです。

 流すと言っても刷毛型の魔遺物が吸収しているだけなんですけどね。

 あとはムラの無いように塗るだけです。ね、簡単でしょう?」


 喋りながら淡々と終わらせてしまったクルル。

 専門職の人間が言う簡単は、専門外の人間からすれば複雑極まりないだろう。

 だが、これに関して言えば簡単そうだ。魔遺物が補助してくれているので、俺でも獲得すればできる。


「刷毛型魔遺物初めて見ます!」


 俺の次はイリヤの番で目を輝かせながら両手を広げる。


「あれ?おかしいな」


 クルルは首を傾げながら何度もイリヤの服を塗りなおす。


「うーん?リヴェンさんちょっと失礼しますね」


「どうぞ」


 ペタペタと俺の服には耐魔が付与された液体塗料のようなものが塗られる。

 しかしイリヤにだけは液体塗料が出てこなかった。


「故障じゃあないですね。イリヤさん、もう一度いいですか?」


「です」


「やっぱり出ない。何でだろう?」


「俺がやってみてもいい?」


「構いませんよ。持って起動して、塗るだけですから」 


「オッケー」


 クルルから刷毛型魔遺物を借りて、起動する。

 刷毛型魔遺物へと魔力が移動しているのが感じられる。

 そのままイリヤの服へと塗ると、なんら変わりなく塗れた。


「あれー?どういうことですかね?」


 顎に手を当てて困惑した様子のクルルを他所に、とりあえずムラなく、塗り忘れなくイリヤの服を塗ってやった。


「はい、返すよ。確かに簡単だったね」


「え、えぇ。ありがとうございます。塗り忘れもありませんようですし、次に行きますね」


 クルルは疑問を解消できずに次の耐魔塗装の相手である、まだトイレから戻らないエリンコを探しに行く。


「私が悪いんでしょうか?」


「良いか悪いかで言うと、イリヤは悪くないと思うけど」


「思うって。何か思い当たることが?」


「勘だね」


「勘ですか。どういった勘です?秘密は良くないですよ」


「言ってもいいけど、イリヤは楽しくなくなるよ」


「な、なんですか。脅かそうたって、そうはいきませんよ」


 イリヤがどうしても聞きたそうなので言おうと息を吸った瞬間の事だった。


「うわああああああああ!!!」


 トイレの方からクルルの悲鳴が簡易休憩所に響き渡った。


「ほら、楽しくなくなったでしょ?」


 只事ではない悲鳴を聞いて青ざめているイリヤにそう言ってから、ワワとバビンスキーに遅れてトイレに向かった。


 悲鳴の主であるクルルがトイレの前で血相を変えて体を震わせて、個室の中を指差していた。

 個室からは投げ出されたエリンコの脚が出ていた。

 俺は屈んでいるバビンスキーとそれを見ているワワの間に割って入って個室内の状況を確認する。


 個室の中にある便座に寄りかかる様にエリンコが倒れていた。

 バビンスキーは俯せに倒れているエリンコの頸動脈を触ってから、首を横に振った。


 この魔窟探索一筋縄ではいかないと思っていたけど、まさか人死にが出るとは。

 最終的に全員が結託して俺の命を狙ってくるものだと勘違いしていた。

 これは少し慢心していた。考えを改めよう。



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