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32:集束

 ウィン・ヴィーゼルとウォン・ヴィーゼルは次の興行地である王都メラディシアンを弟ウォンが操縦するレンタル馬車に乗って目指していた。


 馬車内には音楽を奏でる遺物と物販用品と生活用品諸々が後ろの方に敷き詰められていた。

 その隙間にスペースを見つけて座っていたウィンは操縦しているウォンの背中に語りかけた。


「エルゴンの人々はノリめっちゃ良かったなぁ」


 ウィンの語りかけにウォンは淡白に返す。


「そやな」


「でもよぉ、もう一曲くらいやらせてくれてもよかったよなぁ」


 二曲目が終わり、身体も温まってきたところでギルド商会の人間に演奏中止命令を出された苦い記憶を思い出す。


「そやな」


「そやな、ばっかりやん。にいちゃんの話ちゃんと聞いとる?」


「そやな」


「聞いてへんのかい!

 なぁ構ってぇ、にいちゃん寂しんボーイなの知っとるやろ?

 構ってくれへんと目ぇ赤く腫らしてまうで?泣いてまうで?」


 御者席にいるウォンの肩を揺らすも、ウォンは動じずに答える。


「元から目は赤いやん」


「っはぁ、にいちゃん貶す時だけちゃんと喋るやん。

 あれか?兄ちゃんだけ黄色い声援もろてたから嫉妬しとるんか?

 そやったら玉が小っこい弟やで。兄ちゃんみたいにドレッドヘアにし、辮髪やからあかんねん」


 辮髪をさわさわと触った後にウォンの視界に入るように己のドレッドヘアを見せつける。


あんちゃん。辮髪馬鹿にしたらアカン。辮髪は世界に誇れる髪型や、あんちゃんのイケてるツーブロドレッドも最高やけど、辮髪は至高なんや。これは譲れへん」


 視線だけでウィンに語ると、ウィンは目を大きく開いて笑顔に変わる。


にいちゃんの髪型最高って思うてくれてたんか!」


あんちゃんが最高じゃない訳ないやん?」


「おぉ!弟よ!」


あんちゃん!」


 お互い抱き合って背中を叩き合う、そして友好の証としてお互いの拳を重ね合わせる。

 との茶番を一時間に一回は繰り返していた。

 その行為を毎回拍手をして讃える同乗者が一人いた。


 肩までかかった短い碧髪、整った顔立ちに、仏のような柔和な笑顔。

 砂埃が多少ついたマントを羽織っており。一見すれば旅人か冒険者なのだが、荷物は一切持っておらず、それはそれは不思議な男であった。

 しかし兄弟は気にもしない。


「素晴らしい兄弟愛です」


「おおきにおおきに。

 あんさんを退屈させたら芸人の名折れやからな。

 どや?そろそろ名前教えてくれへんか?秘密にされると気になって気になってしゃーないねん」


「ふふふ。秘密ですよ。

 私は通りすがりの名無し。なんとでもお呼びください」


「しつこいあんちゃんに気を悪くせんといてな」


「気を悪くなんてそんな。

 通りすがりの私を同乗させていただいている心優しい方々に気を悪くすることなんてありませんよ」


「優しいやって、あんま言われたことないから照れるわ~」


「せやな。心あったまるわ」


 ウォンが呟いた瞬間に手綱を大きく引いて馬を街道から大きく逸らせた。


「むち打ちになるやんけ、危ないなぁ。どないしたんや?」


 ウィンが御者席へと顔を覗かすと、街道のど真ん中で「王都まで」と書かれた木の板を掲げた男が立っていた。

 ウィンとウォンは顔を見合わせる。

 旅は道連れ世は情け。彼等の信条である。


 男が近寄ってきて同乗を申し出た。

 それを快く二つ返事し、互いに自己紹介をする。


 こうして兄弟は名無しとヒッチハイカーを同乗者にして、王都まで馬を走らせるのであった。



   _________________________________________________________



「よぉ、お前も参加してたんだな」


 わらわらと群れになっている軍人の中から見覚えのある屈強な図体をしたジャガロニを見つけて肩を叩いた。


「あぁお前もか」


 組んでいた腕を解かずに首だけ横にしてマルコに返事をする。


「サマティッシは?」


「さぁな。魔結晶屋の息子と喧嘩してから謹慎中だから会っていない」


「俺もだ。

 あのザバの言う通り、リヴェンが仕掛けたのか?あんなに良い人だったのに」


「表面上はそうなだけだろ。よくあることだ。

 俺達にも他の目的で近づいてきたかもしれないんだからな」


「というかお前も金目当てなのか?

 そんなに困ってそうには見えないけど」


「そうだと思うならそうでいい」


「なんだよ、教えてくれたっていいだろ」


 竹馬の友のように会話をしていると、広場に建てられた壇上にツインテールを揺らしながらユララが上がった。

 その場にいた全員の視線がユララへと集まり、ざわついていた会場もピタリと止んだ。


「皆~おっはよ~ユララちゃん☆だよぉ~。

 今日はね大尉さんが来られないから、変わりに応援隊のユララちゃん☆がお話しするね。

 先日ぅ王都内に現れた凶悪犯がぁ隠者の森付近に隠れているの怖~い。

 だぁかぁらぁ集った皆で隠者の森を征伐するの!凶悪犯を匿っている人達は凶悪犯とも同罪!抵抗してきたら気にしないで撃って斬ってしちゃってね。

 悪者は粛清してこそ秩序を保つからね。皆は秩序の先駆けだよ。

 もし、躊躇しようものならユララちゃん☆が制裁しちゃうぞ。

 ・・・・なーんて冗談だよぉ。騎士団参謀のような最後になりたくないなら、仕事は全うしようね。

 以上、ユララちゃん☆のお話でした~。

 あ、あと、そこの大きな二人はユララちゃん☆のところに来るように」


 皆「制裁する」の部分が本気に聞こえて冷や汗を掻く者や、喉を鳴らす者がいた。

 マルコもジャガロニも頭の悪い喋り方をするユララに委縮した。委縮したついでに、二人はユララに指名されて、お互い怪訝な顔をしながら、言われた通り兵士たちの合間を縫ってユララの元へと向かった。


 広場に設営された簡易テントの前にユララちゃん☆専用と看板が掲げてあり、名を名乗りながらテントに入る。


「ようこそぉ、マルコさん×と、ジャガロニさん×」


 テントに入るやいきなり満面の笑みでユララは二人を迎え入れる。


「俺達の名前をどうして?」


「え~あったり前じゃん。

 日々勤労奉仕している兵士さんの名前はぜ~んぶ憶えているよ。

 ユララちゃん☆アイドルだからね!」


「すげぇ。なぁおいすげぇよ」


 と、嬉しがっているマルコを他所にジャガロニは表情を崩すことなく質問する。


「私達に何の用でしょうか?俺達みたいな下級兵士が何か役に立つとは思えませんが」


 マルコは冷たい水をいきなり背中にかけられたような気がして背筋を伸ばした。

 ジャガロニも休めの姿勢で後ろに組んでいた手を強く握った。

 それ程までにユララの放つ空気が変わったのだった。


「君達の報告書、読ませてもらったよ。廃品回収業者の少女を撃ち、魔結晶屋の馬鹿息子と喧嘩した。取り立て何の変哲もない報告書だったよ。

 でもね、でもでもね、ユララちゃん☆は今から行う仕事と関連性があるって分かっちゃうんだなぁ」


 ユララはリヴェン・ゾディアックと名乗った男と、その男に護られていた赤髪の少女を思い馳せる。

 彼と少女は自分のものだ、自分が最初に唾をつけたのだ。他の誰にも譲る気はない。

 彼と彼女はメインディッシュと食後のデザート。その二つが共に頂けることなど至福な事この上ない。

 あぁ、想像するだけで達しそうである。


「ユララさん?」


 達しそうなところでマルコが話しかける。


「うん?あぁごめんね。考え事しちゃってた。

 君達が撃った少女、君達が接した男。この二人は今回の凶悪犯と関りがあるの。

 だからぁその二人と接点があった君達には、私の部隊と共にヨーグジャの方まで行ってもらいたいの。

 無論、御賃金は弾むし、危険な事があれば私の部隊を頼ってくれればいいから、安心してね。

 どう?引き受けてくれるかな?」


 一瞬の静寂の後にジャガロニが口を開く。


「俺は受けます。お前は?」


「俺?俺は・・・はい。受けます」


 逡巡したマルコは幸せそうな笑顔を自分に向ける家族の顔を思い出した。

 その家族が更に笑顔でいる為には、たとえ燃える火の中水の中でも身を捧げて、金を稼がねばならないと決意した。


 二人の言葉を仮面のように張り付いたいつもの笑顔で聞き入れた。


「オッケー。

 じゃあ軍とは規律行動が違うから、出発は遅れてね。

 よろしくマルコさん×ジャガロニさん○」


   _________________________________________________________



「随分大荷物じゃねぇか」


 三日ぶりに会ったドズが最初に投げかけた言葉はそれであった。

 それもそのはず、前回来た時は手ぶらだった。今回は玉座を背中に背負いながらやってきたのだ。あと、後ろで手を繋いでいるイリヤと身バレをしない為にジャッカルの仮面をかぶったバンキッシュの事も含んでいるだろう。


「まぁね。でも受け入れてくれるんでしょう?契約書には書いてなかったし」


「確かに契約書にはそういったのは書かれていなかったが、書いていないからこそ、受け入れない可能性は考えないのか?」


「俺を蔑ろにして得しないのはそっちでしょ。

 ほらほら、お客様が来たらどうするのさ」


「ふははは、不遜な態度をとる奴だ。

 あれ程の力を持つのだ、貴様はそうではなくてはな。

 いいだろう、貴様らの部屋をこの砦内で与えてやる。おい」


 ドズが呼ぶと顔見知りになったいつもの男がやってきた。

 これもう俺に対しての接客係だろ。


「こいつらを客室に案内してやれ。同室だが構わんよな?」


「旅館は相部屋じゃなきゃね。ねぇ」


 バンキッシュに問うとコクリと頷いた。

 イリヤはいーっと歯を出して嫌悪感剥き出しだった。前は一緒の部屋に泊まったのにどうして嫌がるんだい?


 男に案内されている最中に、前回の帰り道で考えていた男の名前を当てにいく。


「ねぇユザン」


 男に黙殺される。

 違うのか。じゃあもう一つの候補。


「ねぇユジャ」


 ユジャは驚いた表情で俺の方へと振り向く。

 正解したことに俺の口角は両に吊り上がる。


「ユジャか。そっかそっか、二人ともユジャだよ。自己紹介しなきゃね」


「イリヤです」


「ヴィッシュです」


 バンキッシュと呼ぶわけにもいかずに、考えた偽名はヴィッシュであった。

 ユジャは無害な二人に自己紹介をされて、俺への怒りを二人にぶつけるわけにもいかずに、軽く会釈した。


 俺が会話を持ち掛けても無視されるだけで、ユジャは客室へと俺達を案内し終えた。


「ここだ。荷物を置いて族長のいる会議室へ戻るぞ」


「りょーかい」


 三人で部屋に入る。

 ふかふかなベッドが二つに枕元には照明器具型魔遺物が備え付けられて、隣では小さな魔結晶が輝いていた。

 少し高級そうな衣装箪笥に、脚の長い丸テーブルに置かれた瑞々しそうな果実。

 テーブルと同じように脚の長い椅子が二脚あり、その下を上等そうなカーペットが敷かれていた。 王都で泊まった宿屋以上の室内に、少し高揚感を覚える。


 俺がよっこらせ、と年老いた事を口ずさみながら玉座を置いていると、イリヤが部屋の外へと出て行った。

 とりあえず声だけ聴いておこう。


「あ、あの」


「なんだ?」


 怒ったように返されても、身体を緊張させずにイリヤは続けた。


「えっと、お世話になります。よろしくお願いします」


 ペコリと礼儀正しく挨拶をするイリヤ。

 純粋なイリヤに心打たれて絆されたか、ユジャの警戒心が緩んだのがわかった。


 やっぱり俺には持ち合わせていないのをイリヤは持ち合わせているんだよな。


 感心していると、バンキッシュも仮面の奥でイリヤの純粋さに心打たれているようだった。

 俺も欲しいな、純粋な心。


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