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30/202

27:招かれた男

 本日の天候は雨。昨日のカラッとした晴天から一転して、しとしとと降水し地を濡らす天からの恵みは、森の木々達を成長させていく。

 隠者の森はそうやって三百年の年月を積み重ねて魔王城や城下町の跡に出来上がったんだろう。


 拠点としている洞窟から隠者の森を東へと歩いて行くとヨーグジャ墓地がある。

 ヨーグジャ墓地は隠者の森の部族、集落、全ての亡くなった人間が埋葬されているらしく、全ての人間が眠る場所なので皮肉な事に抗争をした相手が隣に眠っている場合もあるらしい。

 それを聞いてこの森ではなるべく機能停止しないように努めようと思うのであった。


 ヨーグジャ墓地は神聖なる場所で――墓地なので一般常識的に当たり前なのだけども。一切の戦闘を許可されていない。

 誰の許可かと言われると、誰の許可でもない。誰かが決めた昔からの仕来りであるらしい。破れば墓地に墓が増えるとかなんとか。もはや誓約よりも呪いの類だ。


 墓地を超えて、成人男性の歩行スピードで半日かけてようやく木々が切れて広い土地が現れる。

 魔物避けの堀に壁、その奥には黒や紫の煙を上らせる煙突が沢山立った、街程の大きさの集落があった。


 つい先日ガラルド達の元へとやってきたヨーグジャ部族の長、ドズ・ズールから招待状が俺宛に届いた。

 招待状の内容を噛み砕いて読むと、貴方をヨーグジャの集落へと招待します。お話ししましょうね。しなければ怒ります。怒れば何が起こるかは予想できますね?との事。

 こちらの人数も指定してないので俺一人で出向かうことにした。そもそも俺宛の招待状だ。


 バンキッシュとイリヤに反対されたが、まだ全快とは言えないバンキッシュはイリヤの守りに置いた。イリヤも危険地域に連れて行けないとガラルドからの通告。ヨーグジャの人間に奇跡スキルの事をバレたくないようで。


 イリヤが王族だと聞かされては、いくら奇跡スキル持ちだとしても、敵になりうる輩の本拠地に連れて行くのは少し億劫になる。

 イリヤはジョーカーになりえるので、俺としても今は手元にあるより、山札にいてくれた方がいい。


 バンキッシュには俺との戦闘時に使用していた拳銃型魔遺物を渡しておいたので、かなりの戦力にはなるはずだ。だから心配はしていない。

 むしろ俺が自分の身を心配した方がいい。戦闘向きの魔遺物が少なく、戦闘になれば魔力吸収に意識を裂きつつ、敵の攻撃を対処しなければいけない。

 前回のように本気を出して相手を傷つけた後に体を治すなんて行為は人数が多すぎて出来ないだろうから気を使わなければいけない。敵だと言っても命は奪いたくないんだよな。後々面倒くさい事になるのが目に見えて分かる。

 今はまだ、俺としては今後もこのヨーグジャ部族と付き合っていきたい。


 ここまで来るまで道案内は道々に隠された魔結晶がしてくれた。有事の際に魔力補填拠点としてヨーグジャ部族が設置しているようで、おかげでこちらの有事の際にも使えることが分かった。


 じめじめとした湿気を感じながら集落の門を見ると、門は橋で閉ざされていた。

 門の隣にある窓口が開いて、窓口の奥の人間と目が合った。


「誰だ。ここがヨーグジャ部族の集落と知ってきたのか」


 敵意剥き出しの声にフード付きのローブのフードを取って顔を晒す。


「俺の名前はリヴェン。この場所が君の言う場所と知っていて遥々来たよ。

 これ、そちらの族長さんからの招待状」


「っ、お前が」


 名乗ると明らかに門番が警戒した。そりゃあ彼らの仲間を四人撃退しているから、噂にはなっているよね。


「少し待っていろ」


 そう言われて俺は待ちぼうけにされる。

 足元を見るとぬかるんだ地面に大中、複数の足跡があった。足跡は深く残っていて、そこに泥の水溜まりが出来上がっていた。

 足跡は大体十五人か。自分の足跡の大きさと比べてみると、俺の足跡よりも数十センチ程大きいのが一つだけあった。推定三十五センチ。巨人族とは言わないが大きいな。


 堀を覗き込むと、深緑色の水が溜まっており、底は肉眼ではみることが出来ない程深かった。


「入れ。妙な真似はするなよ」


 足元を注視していると門番は帰ってきた。

 その言葉に応えるように両手を上げておとぼけたような表情をつくる。門番の苛立ちが伝わった。


 ガコンと何かが起動する音が聞えると、騒音レベルの音をあげて橋が堀の上に降りてきた。ガラルドの集落に合った門と同じ仕組みなのだろう。

 橋はかかり、地面に固定された。

 橋の上にはやはり泥の跡があったが、乾いている車輪跡もあった。その足跡と車輪跡に倣うかのように俺はヨーグジャ部族の集落へと足を踏み入れたのであった。


 まず目に入ったのは俺と同じくらいの大きさの細長く黒いモニュメント。それが二つ立っていた。 今は何も感じないが、恐らくは防衛目手の魔遺物なのは言わずもがな。


 モニュメントの奥には帰還を労うかのように食べ物が陳列された商店が並んでいた。


「おい」


 橋が上がって門が閉じられた音がした直後に隣から声をかけられた。

 横を向くと、見覚えのある男が門番の隣に立っていた。ボサボサ頭に飢えるような目。この男はあれだ、斧を持って俺に襲い掛かってきた奴だ。


「俺が案内する。付いてこい」


 男は傘もささずに、レインコートも着ずに、雨ざらしのまま歩き始める。俺は濡れるのが嫌なのでフードを被りなおす。


 砂利と土でできた通路を男の背後に付いて歩いて行いると、店内や、すれ違う住民たちがヒソヒソと俺を観察しながら何か話していた。

 「あれが」とか「あいつが遺物人間」とか「見た目は普通だな」とか。まぁ物珍しい奴を見る感じであった。その誰とも視線を合わせずに、集落を観察し続ける。


 商店が並ぶ通りを抜けると、石造りの民家が立ち並ぶ。どこかにしっかりとした石切場があるのであろう。それに腕が確かな建築家もいるはずだ、一つ一つがかなり綺麗な作りであった。


「ねぇ。君の名前はなんていうの?」


 暇だったし、前回の件の和解を込めて話しかける。

 しかし男は返事をしてくれなかった。雨音と泥濘を踏みしめる足音と、腰に付けた斧が絹に擦れる音だけが、俺の問いかけの返事として受け取っておこう。


 更に奥へと行くと煙突がついた工場のようなものが現れた。

 ゴウンゴウンと音をあげて中で何かが稼働している。工場の横から地中へと繋がっているパイプの中からは魔力反応を感じられた。


「あれは何を作っているの?名産品?」


 質問しても返って来ない事は承知の上で言葉を話す。相手が折れるか、俺が折れるかの根気勝負。


「確か魔力反応が大きすぎると仕事にならないって言っていたよね?つまり魔力に関わる何かを作っているんだね。例えば魔遺物とか」


 俺に気取られない様に元に戻したけど、男の歩く歩調が変わった。


「魔遺物の工場ってどんなのかな?俺どうやって魔遺物が作られているか知らないんだよね。

 面談が終わったら工場見学させてもらえるかな?どう思う?」


 男は苛立ちを隠せてないようで少し勇み足になり、肩の振り方が変わる。


「ドズ・ズールってどんな人かな?ガラルドが言うには自分勝手で好戦的だって。

 また俺何か変な事を言って襲われちゃったら嫌だからさ、良い付き合い方を教えてよ」


「族長は俺みたいな我慢できない人間じゃねぇよ」


「おぉ自分の言葉で喋れるんだ。てっきり言われた事しか言えないのかと思っていたよ」


 強めの舌打ちをされて睨まれた。人を無視するのが悪いんだぞ。


 楽しい雰囲気のまま砦のような建物の前まで連れてこられる。

 見たところ四階建てで、各階層の間に窪みがあり、そこには小型の魔遺物が設置されて、俺を狙っていた。前にいる男がいるおかげで蜂の巣にはされずに通り抜ける。

 男が鉄製のような砦の堅固な扉の前にある魔遺物に瞳をかざす。男の瞳が魔遺物に読み取られて、扉が一人でに開いた。技術の進歩が凄い。


 靴の泥を扉の前で払ってから中へと入る。

 外のじめじめとした寒さよりも、湿気が集まったむわっとした生温さが肌に触って気持ち悪かった。


 砦の中には兵隊のような恰好をした男達が数人いた。

 そいつらが品定めするように俺を観察する。どいつも、こいつも武器になる魔遺物を携帯していて物騒で、品定めする目付きも外にいた住民よりも厭らしかった。


 備え付けられた階段を上がり、会議室。と看板が掲げられた扉の前で男は足を止めた。


「招待客を連れて参りました!」


 男は扉をノックしてから声を張り上げた。扉の奥にいる人物が声を返した。


「入れ」


 低くしゃがれた声であった。これが素の声であれば見た目が想像できてしまうのが、俺の良いところであり、悪いところでもある。


 扉を開いた男に顎で先に入れと指示されて入室する。

 会議室には縦に長い石造りのテーブルが一つあり、俺の対面にある玉座よりも大き目な椅子に巨体が身を預けていた。


「よぉ。疲れただろ、まぁ座れや」


 この集落の王であるドズ・ズールは俺を見下しながらそう言った。

 さぁ、口喧嘩の始まりである。


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