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27/202

25:命名

 洞窟の壁の中に隠していた玉座を掘り出して座る。たった半日程なのに、久しぶりに座った気がした。


 背中の穴にチューブが接続された。


『接続。接続完了しました。接続状況100%。お帰りなさいませ、ご主人。

 続いて情報を更新します。・・・更新中・・・更新中。・・・更新完了。収得したスキルが三つあります。確認しますか?』


 ただいま。スキルの確認と俺と総合活動限界時間を頼む。


『スキル名、紅蓮刃。形態変化狼人。紅蓮蛇腹刃を検知しました。

 検索。提示。解答。解除後の活動限界時間は二十八日飛んで三十一分。総合活動限界時間は三十三日十七時間五十二分です』


 人間や魔結晶からかなりの魔力を吸収したおかげか約一ヵ月は稼働していられるようだ。

 これでタスク化した目標の一つが終わったと言える。定期的な補給源はモンドということにしておきたいが、魔遺物が日常となった社会だ、魔力補給もそうも簡単にはいかないだろうな。


 俺が清で魔力を最大限に手に集めて殴る場合、体外に放出される魔力の消費量はどのくらいだ?


『検証。提示。解答。十五時間です』


 やはり相当なリスクある行為だな。

 追加されたスキルの内容と、一時間使用した場合の消費量を頼む。


『検証。・・・終了。検査。・・・終了。結果。提示。解答。

 紅蓮蛇腹刃。腕から炎を宿した刃を出現させます。刃の部分が蛇腹剣のように伸びます。破損欠損は配慮せずに二時間三十分十九秒。

 紅蓮刃。腕から炎を宿した三日月型の刃を出現させます。破損欠損は配慮せず二時間八秒。

 形態変化狼人。身体を狼から狼人ウェアウルフまで変化させられます。狼型なら十五分。狼人型なら三十分』


 狼になれる?試してみるか。形態変化狼人。


 ポンと軽い音がなったと同時に薄い煙が俺を包む。

 煙はすぐに晴れ、俺の視点はかなり低いものになっていた。

 チューブは繋がったまま、俺は四足歩行の毛むくじゃらに変化していた。鼻も出ているし、肉球もある。おぉちゃんと狼になっている。


「リヴェン様、なのですよね?」


「そうだぞ。どう?格好いい狼に見える?」


「えっ、はい、狼に見えます」


 なんでそんな戸惑いの表情を隠せずに言うのかな。


「ここに鏡はないから忌憚の無い意見が欲しいな」


「そう、ですよね。鏡でしたらあります。どうぞ」


 自分で確認しろと言う事だ。

 モンドは俺の前まで手鏡を持ってきてくれて、その鏡に映った自分を見る。


 くりくりした眼に黒くて大きな鼻。ピコピコと動く三角な耳。ずんぐりむっくりとした体形。もふもふで大きな尻尾。笑った顔がとてもキュート。

 これ、サモエドじゃねぇか!これではモンドが胸張って狼と言いにくい理由もわかる。


『解答。スピッツ系なので狼です』


 分類適当過ぎないか?もっと狼に近いハスキーとかいるだろう。

 これ狼人化したらどうなるんだよ。サモエド風の狼人になるのか?試してみるのが怖いが、これからの為にも試しておかないといけない。


 またポンと軽い音が鳴ってから今度は通常の視点よりも高くなる。モンドの持つ手鏡を見下ろす形になった。


 人族基準で見れば剛腕剛脚な長い手足に肌触りはそれ程良くない毛並み。普通に狼型の獣人に変わっていた。

 どうして狼型になる時だけサモエドなんだよ・・・。呟いても答えは返って来ず。


「王国では見なかったが、他の国で獣人って街を歩いていたりする?」


「いたら捕獲対象かと」


「だよねぇ」


 常々見かけないという事はそういう事だしな。

 はたまた軽い音が鳴ってから俺は元に戻った。狼人型は戦闘向けとして使えそうだけど、サモエド型は・・・まぁ使い道は直ぐにでもあるが、気乗りがしない。


 モンドは手鏡を直した後に涙を拭った。


「どうした?」


「いえ、高祖母の言った通りの玉座に座るリヴェン様が燦爛たる様で、感動してしまいました」


 俺がキラキラ光って見えていたの?と、冗談を言えるような空気の読めなさを持ち合わせていない。ここ笑うところ。


『破顔』


 気遣われて笑われるのが一番悲しいから止めて。


「リヴェン様の説明ですと、その玉座には意志があるのですよね?」


「機械的ではあるけどあるよ」


「名はないのですか?」


「ない。やっぱりつけた方がいいと思う?」


「魔王様とリヴェン様の御子のようなものですよ。名は合った方が良いかと」


 何その考え方斬新。

 ただ俺の魔力とあいつの魔力が合わさっただけだし、子供って言うのは・・・穏当か。それだけで意志を持つのも可笑しな話なんだけどな。


 モンドの言い分も一理あるのは確かだ。お前やら玉座やらと統一性のない呼称で呼ぶのも味気ない。

 実は一応名前は考えてあるんだけど、名付けてもいいのか?


『返答。お任せいたします』


 うん。じゃあ考えていた名前にするか。


「ネロ・ギェアだな」


「おぉ荘厳たる名です!」


 間髪入れずに拍手して褒めるモンド。絶対思っていないだろう振舞いだけど、表情と言葉が一致している。

 ネロは現代世界の暴君であるとされている皇帝の名から取ってつけた。こいつからは何となく暴君の気質を感じたから。

 ギェアはキングとチェアの造語でもあり、機械的でもあるため、ギアからの引用でもある。

 軍用魔獣の子供に名を付けた時に「ネーミングセンスねぇなお前」と、あいつにからかわれたのを思い出す。


『入力。ネロ・ギェアと命名されました』


 てことで、ネロと呼ぶことにするからな。


『私の名はネロ・ギェア。改めてよろしくお願いしますご主人』


 こちらこそ、よろしく。これからも苦楽を共にしていくぞ。


「さて、イリヤの後を追うとするか。モンドが来るとややこしくなるから、彼女の看病をよろしく」


「お任せください」


 モンドは胸に手を当てて軽く頭を下げた。


 接続解除。後にスリープモード。


『接続。解除』


 音を立ててチューブ取れたのを確認してから立ち上がる。

 これで撒き餌も完了したし、ガラルドに叱られに行こう。


「あ、そうだ」


「どうかされました?」


 洞窟を出ようとした足を止めてモンドへと振り返る。


「彼女のフルネームってなんだっけ?自己紹介してくれなかったんだよね」


「バンキッシュ・フォン・キャスタインです」


「ありがとう。すぐ戻ると思うよ」


 洞窟を出ると空が白み始めていた。空に向かってうんと大きく伸びをして、深呼吸をする。

 魔遺物になっても、この行為で生きていると実感できる気がした。

 新しい日に感謝するように歩き始める。何か良いことがありそうだ。


「てめぇぶっ殺すぞ!」


 集落に辿り着くと死に直面した。

 ガラルドが額に血管を浮き上がらせて、俺の頭にマチェットを叩きつけん勢いで怒鳴ってきた。


「ちょっと落ち着こう。ね、イリヤも集落も無事だったんだしさ」


「落ち着く?落ち着いてる。てめぇをぶっ殺す事だけを考えているからな!」


「よくない、人殺しはよくないよ。誰か止めてくれないの?」


 そうは言うも助け船はなく。ダントとベランは腕を組んで、ナゴはイリヤを庇うように見ていた。 イリヤは梅干しのような顔でしょんぼりとしている。短時間で相当絞られたようだ。

 誰も殺人一歩手前の行為を止めようとはせずに、見ているだけだった。彼らもまた怒っているのは承知していた。


「ごめん。ごめんなさい」


 謝っても収拾がつかなそうだけど、心から謝っておく。

 興奮したガラルドの持つマチェットの手が震えている。口で殺すと言っている間は殺さない。本当に殺すと覚悟した人間は黙って武器を振り下ろす。そうだと分かっていても、俺は謝るのだけど。


「てめぇが面倒事を持ってきやがった。あいつ等とは関わり合いたくなかったんだよ。魔遺物の扱い方しか知らねぇ青二才共とはな。

 顔も見たくねぇんだよ。てめぇもあいつらも変わんねぇ馬鹿だ」


 怒ってはいるけど、どこか哀れ気を含んだ言い方であった。

 元々はここにいたであろう住人を気遣っている。もしかしたら殺されていたかもしれないのに。

 イリヤの教育者である、ガラルドはやはり優しい人物だと確認出来て、心の中で微笑んだ。


「俺はこれからも面倒事を持ってくる。王国では指名手配犯だろうし、魔術教会からは命を狙われている。ヨーグジャ部族は俺を保護とういう名目で研究したがっているだろうね。

 ここにいるだけで、既にガラルド達に迷惑をかけている。だからと言ってここから離れるつもりはない」


 火に油なのであんまり口を挟みたくなかったが本音は言っておく。

 おかげでマチェットが無言で振りあがった。


「俺と関わった事で、もうガラルド達は無関係じゃない。

 ここでそのマチェットを振り下ろしても事態は収拾しないよ。むしろ悪化するだけ」


 そんなことは言われなくてもガラルドはわかっている。わなわなと皺くちゃな顔を震わせて言う。


「じゃあどうするってんだ」


 ガラルドのその問いを待っていた。顔には出さずに内心嬉々としてガラルドへと耳打ちをするのであった。

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