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193:リーチファルト・ゾディアック

「ふっ、お前達は顔を合わせればいつもそうだな」


「これが普通だ」


「そう、これがノーマル」


 俺達のやり取りを見てリーチファルトは懐かしそうに笑う。


「父上を!よくも父上を!」


 ギースを二人で退けていたが余力のあった信千代が勇足になり、俺たちに向かって突撃してくる。

 信定は声で止めているが、ギースとの戦闘で身体が言うことを効かないらしい。


「信久兄様直伝!下弦裂き!」


 その攻撃は俺ではなくシークォへと向けられた攻撃。

 信千代は肌で、直感でシークォが全ての元凶であると感じ取っての感情的な行動。

 その行動は信長の思いを踏みにじった。親の気持ち子知らず。


「かはっ」


 斬られたのは信千代だった。

 シークォはその場に立って動いていない。

 信千代の攻撃は見事にシークォに命中した。だがまるで下弦の月のように下から掻っ捌かれたのは信千代だった。


 深い傷を負って信千代は血溜まりを作ってその場に倒れ伏す。


「人間如きが私とリーチファルトの時間を邪魔をするな」


 信千代が身体を震わせ痙攣している。

 反射と言うか痛み分けだな。

 信千代だけが斬られたように見えたが、シークォも斬られている。しかし再生したようにも見えない。


「うーん。お前達は本当に血気盛んだな」


 リーチファルトが信千代の前で屈み、傷口に手を当てる。


「なっ、リーチファルト!何を!」


 シークォは信じられないような光景を見たように驚いていた。


 俺もまた信じ難い光景ではあった。

 リーチファルトが信千代の傷を己の魔力で治したのだ。致命傷だった傷は応急処置で生存できるほどの傷になった。


 あの魔王であるリーチファルトが死にかけの人間を治療した。

 人助けをしたのだ。


「慈悲の心?おかしいね。

 おかしいね!リヴェン!

 リーチファルトは人間にそんな心を持ち合わせていなかったよね!!

 考えられるのは君の中で存在していたリーチファルトが君の影響を大いに受けたってことだ!  

 ねぇ、ねぇ!どうしてくれるのさ。どう責任を取るのさ!!!」


 シークォがいつもの敵対心剥き出しの剣幕で迫ってくる。

 あぁこいつの目的は昔から変わっていなかった。徹底してずっと背中を追っていた。その背中が振り向くことはなかったがな。


 シークォの目的はリーチファルトの復活。

 リーチファルトが俺の中でボォクやネロのように生き続けていたのなら、俺がこう成る事を予め予期し、予想――いや、こいつ自身が三百年前から手を下していたのなら合点がいくのだ。

 だが、だがどうやって?


「俺の中にいることさえも、俺自身が知らないんだし、どう責任を取ることもできないだろう」


「いいや!君は気づいていた!気づかないふりをしていた!

 リーチファルトは君が危機に陥ったり、心が壊れそうな時に寄り添ってくれていた!ずっと観てきた!ずっと観測してきた!

 そして、やっとここまで辿り着けた!なのにだ!なのに…またやり直すのは酷ってものじゃないか」


「やり直す?今、やり直すって言ったのか?」


「はっはっは!リヴェンでも分からないとそんな顔するんだね!

 どうせもうここには用はないし話そうか、あれはね」


「いやいい。お前の境遇など興味がない」


 この返しに流石のシークォも予想外だったようで、語り口のまま固まった。


 シークォがなんの為にリーチファルトを蘇らせた、どうやって?

 興味がない。全ては終わりに向かっている。間に何があったとして、事情がなんであれ、最終地点に到着するだけだ。

 それにさっき、リーチファルトは言ったのだ。自分が引導を渡すと。


「シークォ。私のせいで苦労させたな」


「労いなんか要らない!私は、私は!リーチファルトを救いたかった。なのに……」


 リーチファルトの最後の隣にいたのは俺だった。

 リーチファルトの地獄を救ったのは俺だった。長年連れ添ったシークォではなく、俺であった。


「私はリヴェンの奴が好きだ。

 だから封印して次世代の魔王になる為に生きながらえてもらった。

 私の魔分子修復の魔遺物がリヴェンに食べられなければ、こうはならなかった。

 これを手配したのはシークォ、お前なんだろう?」


「あぁ、そうさ。この国の博物館から盗み、捨てた。

 それがあの勇者の子孫に渡って、リヴェンにまで行くのは低い賭けだけどね」


 結局顛末を聞いてしまった。


「そのおかげでリヴェンの中に宿ることができ、こうして肉体を持って復活できた。

 シークォ、お前のおかげだ」


 リーチファルトは両手を広げて胸の中にシークォを迎え入れる準備をした。

 その動作にシークォは吸い込まれるように入っていく。


 死体だらけの血生臭い場所で二人は抱き合った。

 存在を確認するように、互いを確かめ合うかのように抱き合った。


 そしてリーチファルトはシークォの心臓を貫いた。


「がっはっ、えっ?リーチファルト?」


 本当に、心底意味がわからないような顔をしてリーチファルトを見つめる。

 リーチファルトは宝石のような瞳にシークォを入れながら、倒れるシークォを抱きしめた。


「シークォ、そのリーチファルトは残穢だ。

 俺の中に残った魂の残穢。

 お前をこの場に降ろして、お前にトドメを刺す為に、俺が演出した」


 信長との戦から、全て演出。

 こうなることは未来予見で確定していたのだから、作り上げるのは簡単だった。

 シークォのリーチファルトへの思いを利用させてもらった。


「はっ、ははっ、嘘だ。

 魂の残穢にしては会話が成り立っている。本物だよ。これはリーチファルトだ」


「お前にはそう見えるだろうな。

 俺もそう思ってしまう程に似ている。

 だがな、そいつは玉座で、俺の相棒のネロ・ギェアだ」


 出発直前、シンクロウの魔遺物を捕食した瞬間にネロは蘇った。

 そして全てを理解して、この計画を思い立った。

 ネロはリーチファルトの魔力を貰っているので、俺の反魔告天道で出現した時にリーチファルトの魂の残穢を被って出現した。


 見る者全て、振る舞いさえもリーチファルトそのものだが、それは元から持っていた過去の記憶から得た情報だ。


 だからシークォは騙された。


「何回、何千回やり直したと思っている。

 この結末は認めない。私は、リーチファルトを救って、ずっと一緒に!」


「シークォ、お前はよくやった。だから、もう休め」


 ネロであるリーチファルトは優しくシークォの額を撫でた。


「…?ネロ?」


 こんな行動は計画していないので俺は訝しんで名前を呼ぶ。


「シークォの方が見る目はあったという事だな、リヴェン。

 お前も私に騙されているんだよ」


 その一言はネロのものではないと理解できた。


 待て。待て待て。だとすれば、この目の前にいるのは正しくリーチファルト?いや、魂の残穢だ。ネロの悪い冗談だ。


 悪い冗談を好み、横暴な性格。都合が悪くなれば黙って、一人で抱え込む。

 ……ネロは、ネロは初めからリーチファルトだった?


「お前にもかけた呪いを解く。

 お前も私の為ではなく、自分のために生きろ。

 それが私の最後願いだ。本当だぞ」


 リーチファルトは悪戯っぽく笑っていった。

 俺もシークォのように、現実を受け入れがたかった。


 だって、この後にネロは……消える。

 リーチファルトの魂の残穢に引きずられて、本当に死んでしまう。


 まだ俺は何も、お前に言えていないのに。


「私は最低最悪の魔王だからな。

 こんな幕引きしかできん……リヴェンも、シークォも、よくやった。

 いつか、また、皆で茶会でもしような」


 パリンと魔遺物であったシークォの心臓であるコアが割れる。

 そして粉々に砕けると同時に、その言葉を残してリーチファルトは消え去った。


 頬を涙で濡らすシークォの抜け殻が地面に落ちた音がひどく俺の感情を揺さぶった。


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