192:同じ者
ねじれ斬られた腕。
「ははははははは!」
破壊した腕。
「ふはははははは!」
斬られた脚。
「ははははははは!」
捥いだ脚。
「ふはははははは!」
臓器を飛び散らされ、臓器であったものを飛び散らす。
顔面をともに破壊しても、お互いに同じ速度で修復と再生をする。
亡者も、人間も、誰もがこの間に割って入れない。
化物と化物の消耗戦。
互いの肉を削ぎ、互いのコアを狙う。
俺のコアは心臓にある。
信長のコアも心臓にある。
どちらが心臓を貫くかの勝負。
どちらが化物であるかを証明する戦い。
真の憎悪である対象を決める戦いなのだ。
周りで亡者達が消えていくのが分かる。
自分の中にあるスキル達が消えていくのが分かる。
同時に周りの人間の命も消えていく。
その命は全て目の前にいる信長が喰らい、喰らうたびに不死者へとなっていく。
お互いの食らった命を消耗していく。
俺の世界。
信長の世界。
お互いに創造した世界が壊れていく。
お互いに壊してゆく。
ガンヴァルスが死んだ。
ベリオルが死んだ。
ギースが死んだ。
今、シンクロウも死んだ。
亡者もそろそろ出し尽くすようだ。
俺は出し尽くす寸前の亡者を見て、一瞬だけ目を奪われた。
ただの蜥蜴だった。なのにそれは特別な蜥蜴だった。
ジャモラは怯えていた。果敢に勇者に立ち向かって俺の目の前で死んだジャモラの残滓は膝を抱えて、戦意を喪失していた。
良心と常識を捨てきれなかったのか……。
俺の心臓の手前にある匡影を折って信長の刃が刺さった。
「お前は本当に弱いな」
走馬灯というやつだろう。
俺は尻餅をついてリーチファルトを見上げている。
これは魔王軍の幹部になってから、リーチファルトに武術の訓練をつけてもらっていた時の記憶。
「今夜は飲むぞー」
俺は酒臭いリーチファルトに絡まれて満更そうでもない顔をしている。
これは勇者が毒で死んだ日の記憶。
「ギース……なんで……ギース……」
俺はリーチファルトの自室の扉の前に立って、扉の奥から聞こえる啜り泣く声を聞いている。
これは夜な夜な死んだ魔族達が、夢枕に立って寝られない魔鬼の特性を隠しながら毎晩人知れず泣くリーチファルトを初めて見た日の記憶。
「お前の紅茶は暖かいなあ」
俺は自分で淹れた紅茶を目を腫らしたリーチファルトに振る舞っている。
これはリーチファルトの為に定期的に茶会を開くことにした日の記憶。
「お前とは一緒に死んでやらん。お前は生きろ。生きて、魔王として残った魔族を導いてくれ。それが私の願いだ」
俺が玉座に固定されて泣き弱っている。
これは俺が封印される前の記憶。
次に俺が見るのはなんだ?
何を見るんだ?
何を見たんだっけ?
真っ暗で、とても真っ暗で、この先には何もない。
何もなかった。
「本当に手のかかる奴だな。お前は」
誰だ?
「ずっとお前の中にいたよ」
何を言っている?
「私の言葉が呪いになったんだな。
だからシークォも私に固執した。こうなったのは私の責任だ。
だから、私が引導を渡す」
リーチ…ファルト?
走馬灯から帰ってきた俺の目の前、そこには燃えるような赤髪でスラっとした体型の上にマントを羽織って、谷間のできた胸の間から魔力供給機関の角を生やしている女性が信長の刃を受け止めていた。
「あぁ。我が名はリーチファルト•ゾディアック。最低最悪の魔王だ。お前は?」
面をくらった後に、どんな感情を出そうか迷ったが、大きく笑う。
そして答えてやる。
「俺はリヴェン•ゾディアック。最低最悪の化物だ!
だから!織田信長!化物に堕ちたお前を!」
俺の残ったスキル。
魔力感知と遺物吸収。
身動きが取れない信長の心臓に手を突っ込んで心臓を、コアを抜き取った。
そしてそのまま、コアを口に含んで心臓を噛み潰した。
「化物として。同族として屠る……」
口の中に血の味が広がる。
こんな不味いものを食べたのは初めてだ。
しょっぱくて、しょっぱくて、泣きたくなってくる。
「かっかっかっ。なんだ、テメェにもあるんじゃねぇかよ」
心臓を潰された信長は仰向けに倒れて、下半身から徐々に羽根になっていく。
そんな有様でもやりきったかのような笑顔で話す。
「お前じゃ俺を屠れない。
俺にはトドメはさせない。化け物同士では俺を殺せない」
「かっかっかはっ。やってみなきゃ分からんだろうが。
だがな、俺はやった。やりきった。
これで心残しはないな。お前も心残しはやめておけ、辛い思いをするだけだ」
「命を燃やして何になる。
命を使って何になる。
命を尊ぶんでこそ、人間だろうに。君は最後まで嘘つきで、うつけものだ」
「人間の最終形態は化け物だ…内なる化け物に成るだけだ。
お前はその化け物を飼い慣らせて、俺は飼い慣らせなかった。それだけだ。
だがいつまでも飼い慣らせるわけではない。いつか、その化け物に喰われてしまう。お前もいつか」
「うん。いつか身を滅ぼすよ。そう遅くはないさ」
そう言うと信長は乾いた笑いをしてから、大きく息を吐いた。
「おお、信忠か。
……近う寄れ……そうだ……今回の件……誠に…見事で……あった……ぞ
……………褒めて遣わす」
信長は最後にそう言って右手が空を撫でてから羽となって消えていった。
「うん。褒めて遣わす」
上空からの突然の声。
声の主が降り立った事で羽は舞って風にさらされて消えていく。
「ようやく降りてきたか……シークォ」
「ようやく這い上がってきたようだね、リヴェン」
俺とシークォはリーチファルトを挟むようにして睨み合う。
評価にブックマークありがとうございます!
生きる糧とやる気になって続けられています!
お手間でしょうが、感想もお待ちしております!




