191:ギルドの戦士
「リヴェン氏、いやリヴェン•ゾディアック!貴様は人類の敵になるか!」
キュプレイナ達の前には多腕の巨人族がどの軍の兵士かも関係なく殺していた。
その巨人が魔王軍四天王の一人、ガンヴァルスと理解しているのは昔話をされたキュプレイナ一人。
「どうすんだ!戦っても戦っても拉致があかんぞ!」
アッシュに言われても、策を思いつかない。
幸い全員の敵は、この戦の最大の敵は亡者とリヴェンになった。
今まで隣り合って殺し合いをしていた天畔教の奴らや日出軍さえも、共に亡者を殺すことに手を取り合っている。
退けば理を壊される。
リヴェン•ゾディアックはその為にこの地に舞い降りたに違いない。
奴はこの世界の破壊者になったのだ。
退く選択肢はない。
悪いが大人として、人として真っ当に生きる為に指示を出させてもらう。
「聞け!ここで我々が引けば、あの魔王に世界を破壊される!
家族よ!友よ!生きとし生きる人類よ!人間の沽券を愚弄されるな!
我々は何の為に戦う!明日があるから戦うのだろう!
ここを亡者共に突破されれば明日はない!未来はないぞ!進め!進め!進めええええ!」
キュプレイナの叫びで疎だった軍が列を作り、反撃を始める。
落ちた魔遺物を拾い、折れた剣でも抵抗し、武器がなくなっても拳で、身体を使ってでも亡者の進軍を阻止する。
全ては明日の為に。
未来へとつなげる為に。
目の前の邪悪に未来を奪われない為に。
一丸となって、人類として抵抗する。
それでも、そうしても、光は見えない。
眼前にいる多腕の巨人が行手を阻む。
有象無象のように同胞が死んでいく。
キュプレイナの中に残っているスキルは残りカスしかない。これ以上使えば魂を消耗して死んでしまう。
それがなんだ?
シスターは、母は人を蹴落としてでも我が身を守ろうとはしない。
我が身を呈して人を守るのだ。だからこの職についた。
「アッシュ」
「なんだ!」
「すまないが付き合ってくれないか?」
キュプレイナの言葉に含まれた情緒を全て理解したアッシュは亡者を斬り払ってから答える。
「いいだろう。俺より若いやつが行くってんだ手伝わせろ」
「すまないな。ひ孫が生まれたばかりだろう?」
「ひ孫に自慢できる爺として行くだけよ。お前こそ残していいのか?」
「そうだな。煙草も酒もやめて優雅な老後を過ごしたかったよ」
残り一本の煙草に火をつけて、咥える。
やっぱりこの煙草糞不味い。
キュプレイナは走り出す。
動き出しに合わせてアッシュも走る。アッシュが目の前の亡者を薙ぎ蹴散らし道を作って行く。
亡者達の力量は一兵士三人分に値する。
アッシュはどの亡者よりも上に位置しているが、無数に生み出される亡者達を相手取るとなると、三十体程度。
それだけではガンヴァルスにまで辿りつくことはできない。
目測では百を超える亡者達。
老人には御無体な仕打ちであるが、アッシュにとっても数は些細なことであり。
目の前に立ち憚るならば斬るだけ。体が動かなくなるまで、敵を斬るだけ。
自分の死場所など求めてはいないし、若い人間が死ぬよりも、老いて時間のない自分が死ぬのが賢明な判断とも思ってはいない。
出涸らしのような命でも、生命に満ち溢れた命でも平等なのだ。
等しく、死は訪れる。ただ、それが正しいのか、正しくないか。アッシュの死生観はそこに重きを置いていた。
誰が死のうがかまわない。どう死ぬか。
奪われる死。虐げられる死。尊厳のない死。それが許せなかった。
今目の前で行われている行為を容認できない。
どちらも尊厳なく死ぬ。人として、魔族として死んでいない。
その思いが、噴火するように爆発して、底に残った力を引き出した。
おかげでガンヴァルスまでの道が開けた。
一人では到底無理な数を捌ききった。
「アッシュ•ノクスト。また会おう」
アッシュは答えなかった。
最後に立ち憚っていた亡者を斬り捨てて剣を振り下ろした体勢で絶命していた。
彼も逝った。
彼女も逝った。
あいつも、どいつも、こいつも、隣で戦いながら死んでいく。
血の霧に臓物の臭いと糞不味い煙草の味。
手袋を深く深く着けて、命を削ってスキルを発動する。
地面から鎖が伸びてガンヴァルスの全ての腕に手錠が付けられる。
何者もを捕らえるスキル束縛陵墓これに囚われればスキル、魔術が使用不可になる。
更には筋肉にも枷がつけられ通常よりも力が出せなくなる。
ここまで相手に制約をつけさせるので、使用者にもそれなりの負荷がかかる。
負荷として身体の魔力を大幅に失ってから、徐々に失って行く。
魔力がなくなれば今度は寿命を失っていく。それが負荷。
既にキュプレイナの魔力はなく、更にはワタ=シィの加護も薄れてしまい、スキルは色々と脆弱性が目立った。
その一つとして、発動に大幅な寿命を持っていかれた。
「ぐっ!!!」
心臓が急に縮まるように痛みを発生させる。
急速な寿命の低下で心臓が悲鳴を上げているのだ。だがキュプレイナは心臓を押さえることなく歯を食いしばって耐える。
ガンヴァルスを倒せばイブレオやキュレイズが道を開いてくれる。
そう信じている。
そう確信している。
だからここで力尽きるのはあってはならない。
食いしばれ!腰を据えて前を見ろ!私はあの時シスターに守られた命を無駄にしかけた。
ガラルド氏にも大変迷惑をかけた。結局恩は返せなかった。
だからガラルド氏が大切にしたもの。シスターが大切にしたものを守るのだ。
それが。
「それがギルド商会の!私の理念だ!!!」
特大の釘がガンヴァルスの胸の前に出現して、鉄の槌で釘を胸に穿った。
「良き信念だ」
心臓を貫かれたガンヴァルスが倒れ伏す前にそう言ったように聴こえたのは幻聴ではないことをキュプレイナは理解した。
あぁシスター。私はうまく繋げれただろうか?
そのままキュプレイナも地に倒れ伏して、静かになっいく周りの喧騒を子守唄にして目を瞑った。
「ガンヴァルスも、ベリオルも、ギースも、また逝った。
人間と魔族の決着もそろそろだよ。見ものだね」
「……辛いのか?」
「まさか。彼と同じさ。楽しくて仕方ないよ」
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