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189:神と神

「おおおおおおおおおお!」


 邪魔だ!


 眼前の猫型の獣を裂く。


 邪魔だ!


 蜥蜴のような獣を薙ぐ。


 邪魔だ!


 覆いかぶさろうとする豚を突き破る。


「邪魔を!するなぁ!」


 前方。僅か五十メートル程の前方にいる魔王。

 この世界の魔王になったリヴェン•ゾディアック。

 楽しそうに薄ら笑いを作っている男リヴェン•ゾディアック。

 その男まで到達するにはもはや肉の壁に近い魔族の亡者共を片付けなくてはいけない。


 刀は血油がつき、刃こぼれし、使い物にならないと思えばあの現代の勇者と謳われていた男のスキルで空間から取り出して、新品の刀で切り裂いていく。


 僅かな隙さえも作ってはならない。

 僅かなミスさえも犯してはならない。

 一挙一動最善最高の動きをしたとしても、人数と巨躯の差で傷を負う。


 負ったとしても、前メラディシアン王が所持していた流転するフロウエッジで傷は治っていき、近場の生き物に与えられる。

 こういった乱戦では有用なスキルだが、傷をつけられた瞬間は痛みがある。


「ん?」


 巨人の足首を斬ろうとして、攻撃がすっぽ抜けた。

 素早い齧歯類の獣に持っていかれた右腕が再生していなかった。


 巨人の攻撃が直撃するのはまずい。

 この再生のしなささからして、くらえば立ち上がることはない。ここで喰われる。


 眼力で威力を抑えようとするも、それさえも威力が落ちているようだ。

 なるほど、リヴェン•ゾディアックの新たな力か。


「邪魔だ!木偶の坊が!」


 突然目の前にいた巨人族に青白い光線が当たったかと思うと、時間差で当たった頭部が弾け飛んだ。


「はっ!なんだお前ら、どうして前線なんかにいる?大将は本陣ででんと構えておけと教えなかったか?」


 背後にいたのは日出国主君織田信定。それに信千代に信延。俺の息子達であった。


「俺は父上の為に出陣したわけではない。俺は奴を打ち滅ぼす為に出陣したのだ。

 征服ではなく、敬服。かつての奴が言った言葉だ。俺はその言葉通りの人間でありたいのだ」


「随分と惚れ込んでるんだな」


「皆リヴェン殿は嫌いでありまするが、好いてるのいるのでありますよ。父上もそうでありましょう?」


「かっかっかっか!違いない。信久はどうした?」


「信久兄様は巨大な鳥と戦っておりますので、ここはこられません。・・・では参りましょう。一度きりの共同戦線でありまする」


 俺の子らは俺が生きていた事を当たり前のように驚きもせず日常会話をする。肝の座った子等よ。 交わることのない親子の絆か。二度とないと思っていたが、やはり血というのは良きものだ。


「リヴェン殿のスキルを抑制する力は私がなんとかしまする。

 父上と兄上等は私を信じて突っ込んでください」


「信千代!」


「な、なんでありましょう?」


 俺の大きな呼びかけに信千代は戸惑いの声を上げる。だからうんと音が優しくなるように言ってやった。


「よき将軍になったな」


 そう言ってから俺は子らに背中を任せて再び前進する。


 魔王よ。リヴェンよ。人も魔族も血が全てよ。濃い血程に縁が濃くなり、信頼さえも出来上がる。無償の信頼がな。

 お前にはあるのか?血縁が。これ程までに尽くせる信頼が。


「おおおおおおお!」


 信延の放った超高熱波動砲が全てをなぎ払い道を開く。熱して発熱する地面を踏んで道を行く。


 三百年前の勇者との戦争とは違う。

 それ以前の現世にいた時の戦とも違う。長篠、姉川、桶狭間、清州。初陣は吉良大浜か。どれもこれも同じ形をした者を相手にし、同じ思いで戦に赴いていた。


 だが今目の前にいるのはただの亡者だ。

 歴史から抹消され、道具に堕ちた亡者共。

 それが地獄の魔王。第六天魔王の号令で蘇った。こんなにも、血湧く戦は初めてである。楽しませてくれリヴェン•ゾディアック。


 生毛までもが沸き踊り、血飛沫を浴びては喜びへたる。


 スキルという託宣。

 ユララや他の奴らの全てのスキルを奪って、物とし、領分として、力として行使する。


 スキルが及ばなくても、亡者に対しては行動を停止できる。

 奴らも無限に湧いてくる訳ではない。奴が取り込んだ分だけ湧いてくるはずだ。

 それにこのスキルか魔法かは知らんが、スキルの効果を抑えている何か。これは消費が激しいだろう。なんらかの消費をしているはずだ。


 亡者を叩いていけば奴に辿り着く。

 亡者共を殺していけば奴の心臓に刃を突き立てられる。俺以外にもそう考えている奴もいる。


 だから戦いをやめない。


 あいつに向かっている。


 この場の全員の怨敵と成り上がったあいつを殺す為に人類が一丸となっている。


 これは、聖戦だ。


「父上!」


 亡者の中からあり得ないほどの魔力反応を感知した瞬間に俺の再生仕掛けていた右腕が肩から無くなった。


 一瞬見えたのは紫色の液体が俺の肩をかすめて飛んで行ったのだけ。


「父上!信延兄様が!」


 俺が視認しかできなく、対応ができなかった。

 背後ということは子らが代わりに受けたという事。


 背後では紫の液体の中で溶けていく信延をどうにかして解放しようとしている信千代がいた。




「うっわ、引くわ~。過去では一度会っているのに、ギースを使うのは引くね。

 ま、でも、そこの線引きをしていられないんだろうね。随分と様変わりというか、様になったというか。感心するよリヴェン。そこまでして、自分を殺してまでリーチファルトとの約束を守りたいかい?」


 白龍の上にある複数のモニターの光を眼鏡に反射させながらシークォは映画の感想かのように呟く。




「あれは、ギース=アシッドライム=ベガルタか」


 魔王軍四天王で最強の戦士を前にして信定等は足を一瞬だけ止めてしまう。

 唯一信長は脚を止めず、振り向かず向かっていく。


「いけい、俺はここで逝く……徒花散らしてな……」


 身体が溶けながらも、グズグズになった脚で信延は立ち上がる。


「あ、兄様」


「信延………逝け」


「おう、逝くわ」


 織田家が持つスキル延命長寿はただ寿命を長くするだけではない。長く生きる程スキルに生命エネルギーが溜まり、それを自身の力として扱える。これは兄弟を取り込んだ分だけでも総量が違う。


 結論からして信延は内に秘める生命エネルギーを解放して、亡者共を道連れにするつもりであった。


「俺は!織田家八男織田信延だ!」


 黄色の光と共に爆発して信延は消え失せた。


 爆風を追い風として突貫し、信長がギースの横を通り抜ける。

 ギースが俺に追い討ちをかける前に信定がギースの動きを止めていた。


 前に立つ。


 魔王と魔王が対峙する。


 神と神が対峙する。


 どちらかがどちらかを退治する。


「そうだ。それが人間だ。

 血を縁を犠牲にして、糧として前へと進んでくる。

 俺が望む醜くも美しい人間だ。

 楽しんでいるかい?楽しめているかい?俺は楽しい。楽しむつもり。楽しませてくれるのだろう?」


「その問いに返す言葉無し!」


「・・・いいね」


 極集中魔光砲の砲身が信長へと突きつけられるも、発射に至るまでに信長が砲身を斬ってしまう。


 ぐりっと俺の腹に銃口をあてがわられる。

 ガン!ガン!ガン!と火縄銃ではあり得ない三連射と射撃音。腹にポッカリと空いた穴は瞬く間に修復する。神を屠る力を載せていても今の俺には微量では通用しない。


 カイのスキルと奪った諸々のスキルで以前の俺の様な戦い方をする信長。

 俺と違うのはそこに武術を極めていること、戦闘における経験値があること。


 それがなんだ。


 それらのアドバンテージを無にするほどの魔力の差。

 神の力を載せても俺の身体を破壊するには至らない。

 再生の方が早く、どこを破壊しても俺は修復する。


 化け物。


 出撃時にアマネが漏らした言葉。


 俺は人でもない。

 魔族でもない。

 そして魔遺物でもない。

 今はただの化け物になった。魔王の冠を被った化け物だ。


 笑える。


「どてっぱらに風穴開けられて楽しいのか!」


「楽しいね!楽しみなよ!最後の祭りだよ!」


「お前をあの世に送る祭りだがな!」


「それはそれは、とても楽しめそうだね!」


 信長が地面を強く踏みしめた。

 同時に地面から槍が俺を貫くも液体化して抜け、信長の前へと移動して左腕を掴む。


「おおおおおおお!」


 筋を浮かべて抵抗するものの、膂力が違う。振り解くことはできない。

 触れている部分から俺の魔力を送り込む。


 神の性質を持った俺の莫大で純粋な魔力は誰に対しても猛毒。

 注入されれば身体が負荷に耐えれずに壊れる。


「があああっ!」


 足の先に刀を作り出して脚で掴んでいる部分事斬り裂いてしまう。そのまま俺の心臓目掛けて刀を突き刺そうとしたので、匡影を胸から生やして受け止める。


 一歩、二歩と、背後へと移動して信長は距離を取る。


「腕が二本無くなったね」


「腕なぞ生えてくる。それよか、まだ脚が二本あって、俺の心臓が鼓動たてて、俺がここに立っているだろうがよ」


 その言葉を待っていたのかもしれない。


 嬉しくて、楽しくて、笑顔が溢れてしまう。


 だが信長は相反していた。深く、落ち着く様に息をついた。


「先を見たかったが、観賞会は終いだな。俺は子に託す事にする。

 いや、今までも、そうしてきた。そうしてきたからこその光秀の行動だったんだろうな。

 しかし、この世界には奴らはいない。いるのは我が子。我が子らが支配した国。なんの後腐れもない。なにも思い残すことはない。だから俺は躊躇なくこれが使える」


 信長が取り出したのは戒律の札と聖遺物。

 戒律の札は二番。二番は確か融合。あの手に持つ聖遺物からはワタ=シィの臭いが漂ってくる。肉体を失っても、我を失ってでも、ユララ•マックス•ドゥ•ラインハルトは嘲笑っている。天から見下ろしながら行末を嗤いながら見ている。


「それを使えばお前も後戻りは出来ないぞ。俺と同じになるぞ」


「人は人を超えなければ、超人にならなければ化け物退治なぞ到底出来ないんだよ。

 俺は頼公や晴明にはなれん。俺は織田信長だからな」


 止めはしない。人間であることを辞めると言うなら矜恃は終わり。ただの消耗戦になるだけだ。

 化け物と化け物のお伽話のような、前代未聞の消耗戦になるだけ。


 ネックレスの聖遺物を首から掲げて、戒律の札を貼る。

 呪文など必要なく、ネックレスは身体の中に埋まっていく。


「つまらないことをしたね」


 魔力球を作り出して信長の顔面を狙い、弾く。

 ドパッと信長の頭が弾け飛んだ。トマトを握りつぶしたかのように血と脳症が飛び散るはずだった。

 飛び散ったのは羽だった。漂白されたかのように真っ白な羽。絵を、色を塗りたくなるキャンバスのような羽。

 羽が空中に舞った。


 同時に俺の顔面も失った。


 羽が意思を持って俺の顔面を破壊した。

 聖遺物を、この世に残る最後のワタ=シィの身体を取り込んだ事により、信長は完成した。


 天神の使いに成った。


 化け物に堕ちた。


 お互いの顔面が修復と再生する。


 互いに五体満足。たが性質が違う。


「俺は魔を喰らう化け物。信長、お前は生を奪う化け物だ」


評価にブックマークありがとうございます!

生きる糧とやる気になって続けられています!

お手間でしょうが、感想もお待ちしております!


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