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186:起動せよ


「イリヤさん、こちらです」


 モンドがカンテラを照らしながら、自分とは反対側にいるイリヤを手招きする。


「い、今行きます…」


 カンテラの影から出ないように気をつけながらイリヤは角から身を出して、子猫のように足早に移動する。


 外では喧騒が聞こえる。

 パミュラが陽動として騎士団と一緒に天畔教の教徒と戦っている。


 失意から立ち直れていなかった最中にリヴェンが消え、集落が襲われ、傷つく人達を見て、イリヤは否が応でも立ち上がった。

 王になったのにも関わらず、自分がめそめそと虚の中で泣いていては示しがつかない。そう、誰に言われる事なく立ち上がった。


 現在はモンドの力を借りて、王城へと潜入している。世間ではイリヤ王女はルドウィン教の凶刃に撃たれたとされている。が、それが虚言であることを世に知らしめれば、天畔教の思惑は瓦解するはずだと、イリヤは考えた。


 冠を奪われたのを奪い返す。


 それが家族であった者であってもだ。


 イリヤの決断で騎士であるパミュラとバンキッシュ、そしてモンド、ウィン、ウォン、ミストルティアナも応えた。


 ウィンとウォンは市中で陽動として離れ、市中内に潜んでいたイリヤ派のギルド員と騎士団員と共同戦線を取ってから、ヴィヴィアンに乗って王城までやってきた。


 ヴィヴィアンとパミュラは王城前で離脱した。


 そして王城内に潜入し、ダントがいるであろう王の間へと向かっていた。


「そこを右です」


 先行しているモンドにイリヤの背後にいるバンキッシュが小声で言った。


 城に入ってからは魔遺物のおかげか誰とも出会わなかった。そのせいで考えていた時間よりも早く、王の間へと到着した。


 扉の前で全員がいる事を確かめ合い、音を立てずにドアのノブに手をかけた。


「開いているよ」


 ダントの神妙な声に驚いたのはミストルティアナだけだった。


 イリヤはドアノブを押して筆頭切って中に入った。


 中では玉座に座りながらダントが頬杖ついて待っていた。

 イリヤとダント達の間には映像が映し出されていた。映像には王都の様子と、王都外の様子が映し出されていた。


 その様は内紛と災害。

 どちらの映像も目も当てられない悲劇。

 それをダントは天畔教の司祭服を着て、いつものように済ました顔で見ていた。


「ダント!もう悪行は終わりです!その椅子を、その座を返してもらいますよ!」


「返す?イリヤ•グラベル•メラディシアンは死んだ。返す鞘がなければどうにもならない」


 ダントがまだ少しでもイリヤを慮る気持ちがあるのだと信じていた。

 心のどこかでまだ家族として付き合える者だ思っていた。だけど、ダントの聞いたこともない声音と発言にその想いは消え去った。


「私はまだここに健在です」


「そうなのか?」


「イリヤさん!」


 バンキッシュがイリヤよりも前に出て魔遺物を起動し、銃身で振り下ろされた刀を受け止めた。


「モモ……」


「ッチ!」


 互いに蹴り合って一旦距離を取る。


「一撃でやる。ではなかったのか?」


「五月蝿い。あれは一筋縄ではいかない。巻き込まれたくなかったら下がってろ」


「これ以上は下がらん。私は大司祭なのでな」


「ッチ…」


 舌打ちをしてモモは刀を鞘に収めて、柄を握る。

 モモは暗殺ギルド員の中でも新米だ。だから端役のような仕事を回されることがある。今回はダントの護衛であり、恩人であるユララからの指令でもあった。


「モモさんって、あのバンキッシュさんの妹さんの!?」


「顔や体格は似ていますが、性格が全くと言って違います。たとえモモ本人だとしても、イリヤさんに刃を向けるなら容赦はしません」


 記憶喪失なのかもしれない。だが自分の主人である者に仇なすものはねじ伏せる。それがバンキッシュの使命でもあった。


「でも……いえ、そうですね。目的を見失っては駄目ですよね」


「邪魔者は排除する。

 いいぞイリヤ。それでこそ王だ。それが王道だ。

 だがな、そんな王は見飽きた」


「ダント!貴方の目的は何なんですか!どうして国民同士で争わせるんですか!」


「後半の説明をしたところで頷くはずもなければ理解されることもないだろう。

 理解していれば既にお前達はこちら側にいるはずなのだからな。

 目的――まぁ今教えたところで支障は出ない。

 私の目的は理を掌握し、天畔教を唯一絶対無二のものにすることだ。

 そのために必要なものは三つ、一つはメラディシアン王国そのもの。一つは異教徒の排除。そして最後の一つが、理の鍵となる者の抹殺」


 イリヤは考えを巡らせ、最後の一つが誰に値するか理解する。


「私?」


「お利口さんだ。

 この城は元魔王城と同じ見取り図で作られた。

 何故か?それは魔王城の玉座の間で理が生まれたからだ。

 そう、まさにこの場所で生まれた。

 その場所にいた者達の魂を糧として理は働き続けている。あのゴフェルアーキマンの倅はそれを理解していた。だから理の贄となっている魂を集めていたのだろうな。

 だが、それだけでは理を見つけ、把握することはできない。

 理は常に存在し、常に存在しない。それを見つけるには贄となった者の血を引き、理を作った神の至高のスキルを持つ者が必要。イリヤ、お前は言うならば理の発見器。だからこそ丁重に保護し、丁重に気が熟すのを待った。

 あの洞窟に、リヴェン•ゾディアックに辿り着いてくれて、本当に良かった。これは心からの言葉だ。ありがとう」


 全員が黙った。

 当事者であるイリヤでさえも言葉を発する事ができなかった。

 最初から、リヴェンとの出会いさえもがダント、いや天畔教…その最上級にいるワタ=シィの掌の上だったとしたら?

 薄ら寒かった。


「そして理を見出すには、その理が生まれた場所で、その力を持った者の魂が必要である!

 だから既に成った。

 ここがその場所で、イリヤがここにいる。もう既に遅いのだよ」


「だから私はまだ生きています!それに私には幸運スキルがあります!」


「関係ない。運が良かろうが、悪かろうが、ここにいる時点で終わりなのだよ。

 ずっと、メラディシアン王国ができる前から私達は準備してきたのだからな。

 不思議に思わなかったか?たかが壁に魔遺物の機能が備わっていること、城を中心にパイプが血脈のように伸びているのが。

 天から見下し、見下ろしているのかを。普通過ぎたか?魔遺物がある世界が。極大魔術を使った時に破壊しておくべきだったな」


 その言葉で全員がようやく理解する。したところでもう遅かった。

 ダントの言う通り、既にことわ終わっていたのだった。


「この王都そのものが魔遺物で出来ている。

 そしてここがコアだ。頂くとしようか、燃料をな!起動せよ!世の理よ!」


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