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185:悔いのある人生にしてすまなかった


 織田信長には略奪略座セイブザワンセイブザオールというスキルが備わっていた。

 略奪略座は相手のスキルを奪うスキルである。だがその条件は重く、まず相手のスキルを自分に対して受ける必要がある。そして間接的でも、直接的でもスキルの持ち主を殺さないと奪うことができない。


 暗殺ギルド員のスキルが信長の元にあるのは既に全員から一撃を貰っていて、そのギルド員が死亡した事を意味している。暗殺ギルド員は自身の配下なので、間接的に殺害したことになる。


 配下が死ぬのは確かに辛い出来事かもしれないが、今の信長は暗殺ギルド員のことを配下というよりも、使い捨ての雑兵と考えていた。だから悲しむこともなく、手駒が落ちたか程度にしか考えていなかった。


 略奪略座で奪えないスキルは無い。

 信長は既にこの場にいる全員のスキルを奪える準備を終えていた。

 あとは巨人ドルツァーリと、忌み子カイをこの手で屠れば、ゲームをより有利に進めることが出来た。


 信長はカイが聖遺物であるグランべライザーを振われる事を予想していた訳ではないが、聖遺物のダメージを受けてもいいように対策をとっていた。それが着込んでいる甲冑である。


 この甲冑は通常の攻撃を防ぐ役目もあるが、聖遺物の神の性質だけを吸収する役目もあった。

 これはワタ=シィを殺し、天神の力を奪って、その力と延命長寿を掛け合わせて作った代物。


 延命長寿。

 このスキルは単純に寿命を伸ばすスキルであった。であったが、信長の嫡男達が持つスキルは母体が持っていたスキルと配合され、母胎の中にいた時に共に生まれるはずであった兄弟達の命を奪い、奪った子がそのスキルを持って生まれてくると変化した。


 信長は信定が齢四十を超えた頃に敢えて衰弱死と見せかけて死んだふりをした。

 実際に自分の寿命五十年を切っているのを実感してきたので、世代交代と考えていたので、一国の主として終わるのは本望であった。


 火葬される瞬間にワタ=シィのスキルで入れ替わり、次のゲームに挑む為に三百年費やした最後の灯火を燃やそうとしているのであった。


 ここにはいるのは織田信長であるが、何もかもを捨て去り、ゲームの勝利者になりたいという貪欲差だけが残った男がいるだけ。たた己の矜持を突き通す男。


 信長はグランべライザーの攻撃を甲冑に吸収させた。

 それでも波動は受けることになったが、そこは己の力量で刀を使って受け流した。


 受け流した力は防御姿勢を取っていたドルツァーリの顔面に直撃する。

 仰け反ったドルツァーリの胸板を蹴って、カイの方へと向かう。


 信長は聖剣グランべライザーの攻撃を一度ならず何度も見ていた。

 勇者グランベルとの戦い、勇者の子孫イリヤとの邂逅時。勇者グランベルは使いこなしていたが、子孫のイリヤは初めて使ったのか一撃放つだけで息切れを起こしていた。


 では複製したとしても、勇者の素質がない者が使用した場合はどうなるか?


 カイは勇者の力を借りてグランべライザーを使用したが、勇者の力を借り受けられるのはグランべライザーを召喚した時だけである。この波動を振るうのには自分の気力と体力を削がれる。


 一撃必殺の技。


 一撃を必中させ、殺害せねば手痛い返しが返ってくる。


 全て準備してきた。

 カイ•マンダイン•フェルナンデス•ゴフェルアーキマンと織田信長の差は年季の差。準備してきた年季の差であった。


 信長の刀がカイの胸部を貫いた。


 信長の予想通りに一撃を放ったカイは避ける力は残っていなかった。


「貰い受けるぜ」


 カイは口から血を吐いて、震える手で手が切れようとも刀を握った。これがカイが出来る精一杯の抵抗。これ以上差し込まれても、抜かれてしまえば、即死する。だから最後の力で掴んだ。


「ん?」


 信長は刀を引き抜こうとするがピクリとも動かなかった。


 最後の力で刀と自分の運を掴んだ。


「貴方方は運が悪い」


 二人の後ろからようやく追いついたガストがサイコロを手に持ちながらやってきた。


 サイコロを六つ投げる。

 サイコロは弧を描いて信長とカイの間に転がり、面を示した。全て六の目であった。


「そして私は運が良い」


 ガストの声はサイコロからした。

 そう認識した時に信長には亡くなったギルド員から剥いだ腕章が煙となったガストの手で付けられた。


「おいおい、興醒めだぞ」


 そう言い残すと信長はどこかへ転送された。


「大丈夫と訊くのも憚れますね。抜きますか?」


 サイコロに魔力を込めて声を込めた。そして注意を逸らしている間に煙となって信長に近づき腕章をつけた。

 ガストは信長とカイに対して運勢操作を発動し、カイの心臓が貫かれるのを避けていた。カイは運が悪い方の運が良い結果を掴んだのだ。


 ガストは膝を曲げて血を流すカイに訊ねるが、カイは首を振った。


「い、いや、いい。なんとなくこうなる事を予期していた…からな」


「直感で駄目だと思ったギャンブルは下りる物ですよ」


「へっ、お前は下りるのか?」


「……必要であれば……いえ、正直になりましょう。価値の見込みがなくても楽しければ続行ですよ」


「だろうな。それでこそヴォーグマンの生まれ変わりだよ」


「何を仰って?」


「いいか、お前のおかげで即死は避けられて致命傷になったが、死ぬのにも時間がない。

 だから有無は言わせないし、質問も受け付けない。

 ガスト、お前は勇者一行の戦士ヴォーグマンの魂から生まれた魔族だ。

 っかはっ!あとな、俺が死んだら運命操作を使え、そうしたら俺に憑いてる精霊と更新できるだろう。多分。まぁそこはお前の運次第か、はっはっは!がふっ

 …あぁ、まぁ、それと、頼むから、頼むから理を潰してくれ。理はお前が次に行く場所にある。そして勇者達を解放してくれ。って魔族のお前に言うのはおかしいか。

 ま、死人からのお願いだ。俺はお前の運を信じている」


 ガストは何を訊ねようか、何と声をかけよう迷うに迷った挙句、口を開けたり閉じたりするだけだった。

 頭の中には襲ってきた神官の言葉がぐるぐると回っていた。

「可哀そうに。こうまでしても生かされるのですね」

 ガストではなく、神官ならではの力で前の魂に語りかけていた言葉だった。


 だから殺されそうになって、そうしてパミュラを置いて逃げた。忌まわしき、清算された過去。

 それを作り出したのは勇者一行で、その原因となったのは自分だと。

 深く考えれば考える程にドツボに嵌っていく。


 カイの呼吸が小さくなっていく。肩でしていた息が緩やかになっていく。

 そんな弱弱しくなったカイを見続けてガストは初心を思い出した。


「わかりました」

 

 誰であろうと、何者であろうと約束は守る。それがパミュラが教えてくれたことであり、リヴェン達を通して学んだことであった。

 なのでガストは覚悟を決めて続けた。


「色々と腑に落ちませんが、貴方の想いは受け継ぎましょう。

 私なのか、私の前の魂がそう叫んでいるのかは判りませんが、そうするべきだと感じました。

 だから最後に本音を言いなさい。貴方は何かに耐え、仮面を被り、自分を偽って生きてきましたね。隠しているようですが、同じ者である私には分かりますよ」


 カイは子供の頃にみた勇者という光を模倣した。

 だからこそ自由奔放な性格になり、言葉遣いもきちんとせずに、肉体を鍛え、スキルに適応し、当時の勇者なりの身の振り方をした。


 本当のカイは、今もあの地下室で残っているのだろうか。


「ははっ、なぁ、魂は回り回る。だから俺ともまた巡り会える。その時に答えるさ」


 カイは自分の腕章をガストに押し付ける。起動するには軽く押せばいいのだが、強く、力強くガストに託すように押し付けた。

 ガストが何かを言っていたが聞こえる聴力も無く、途中で途切れた雑音になった。


「……うん。うん。

 ……俺は、僕は、外に出られて最高に楽しかったよ。だからこの死に悔いはない!また会おうね」


 精霊に笑顔でそう語りかけるとカイは首と肩を落として動かなくなった。


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生きる糧とやる気になって続けられています!

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