183:戦うな
「俺はお前に何も与えやしねぇよ」
「かっかっか!与えるなんて面白くもねぇ。
物ってのはな獲って、盗って、取ってなんぼなんだよ。
俺はそうやって生きてきた。そうやって生き抜いてきた。それが武士だからな」
白龍の背を蹴って信長はカイへと駆け出す。鎧が音を鳴らし、三歩、二歩と距離を縮めてくる。
カイの背後で精霊が叫んだ。
その叫びはカイには届かなく、カイはスキルで出した魔遺物を起動する。
ユララから複製したガンヴァルスの魔遺物。拳の速さと頑強差は元々の魔遺物と同じ、その拳の加減に手を加えることなく放つ。
拳は信長に直撃する。頭部はひしゃげ、前進を続けていた下半身が空中に浮く。
「!」
精霊に忠告されてカイは咄嗟に魔遺物を解いて、リヴェンから複製させてもらった反射板を腕に装備して、背後からの奇襲を防いだ。
背後からは信長が甲冑の中から黒い物体を刃状にしたのを複数出して斬りかかった。
盾での防御に間に合い、防御した部分の刃状の物は信長本人へと襲いかかる。
信長は甲冑の中でその黒い物体を操作したのか、元の髪の毛へと戻って、反射した攻撃はなかったことになった。
「ここじゃ狭すぎる、降りるぞ」
次の一手はまたもや背後からだった。
殴って静止したはずの信長である物体がカイの生態感知と魔力感知を抜けて、足払いをする。
精霊さえも気がつかない攻撃に、見事にくらい、白龍の上から落下する。落下する際にオーレが見下すように見つめてから五指を動かして嘲笑いながら手を振っていた。
落ちながらも今の攻撃を考える。
足払いしてきたのは紛れもなく生命体ではなかった。信長の持つスキルだ。殴った部分に緑色の毒性の液体がついているのも証拠になる。
あの髪が伸びて刃のようになるのも魔遺物ではなくスキル。
織田信長は複数のスキルを持っている。
ただ延命長寿だけを持っていた三百年前とは明らかに違う。精霊達はそう叫ぶ。
だったら何だ?加護を受けただけでそこまでスキルを所持できる物なのか?移動スキルを持ち、勇者の子孫であるイリヤが体ごと吹き飛ばしても再生したとも言う。
こいつからはリヴェンやボォクやオーレと同じような気を感じる。
だったらこいつも同様に神の力を持っている。加護ではなく、力そのものを持っている。
そう推測した方が合点がいく。…いくが、悪い方向過ぎるな。
「お前のスキル、それは眼から作り出しているな。使う時に眼が少しだけ神性を帯びている」
仁王立ちでカイより上で落下している織田信長が言った。
風で聴き取れないとかは無く、互いにスキルで聞き取っていた。
「お前のスキルも沢山あるこった」
「あぁ、いいスキル達だろ?」
たった一言二言を交わしている内に地上が近づいてきた。
カイは落下傘を起動し、信長は風を纏ってそのまま地上にゆっくりと降り立った。
線を切ってから三点着地を決めて信長の方を向く。
既に眼前までに信長が迫り、腰に携えている刀を抜く瞬間であった。
反動を生成する魔遺物を靴裏に作り出して信長へと向かう。信長が刀を抜くよりも早くに間合いへと入って刀の頭を足裏で押さえつける。
するりと刀の柄を握っていた手がカイの足首を掴み、半回転して上空へと放り投げる。
空中で体勢を整えて追撃の警戒をする。しかし信長は地上にはいなかった。首を動かして視界を移動させようとしたが、身体が石のように固まって動かなかった。
勝手に自分の手が首へと伸びてくる。
一瞬で察する。光を生み出す魔遺物を出して、最大出力で発光する。
自分の影が消えて、そこから信長が現れた。
カイは事前に聞いていた暗殺ギルドのスキルを思い出していた。そしてまたパズルのピースがハマるように合点がいく。
織田信長は暗殺ギルド員達のスキルを使用している。他人のスキルを模倣する。そんなことが可能なのかはいざ知らず。やってのけているのだから、可能なのだ。その真相を見抜く必要は――ない。
「眩しい男だっ」
織田信長が前へと踏み出そうとした時に、巨大な触手が信長を叩き潰した。
二人はクラーケンが進行している場所へと降りたち、眩い光を取り払う為に触手を乱打していたクラーケンの攻撃に当たってしまった。
「カイ!お前何をしているんだ!今のは!織田信長か!?」
そこにはキュプレイナやアッシュがおり、クラーケンの足止めをしていた。
織田信長との対決はあっけない終わりを迎えた。
そう受け取る事が容易にできないのは自分が心配性だからではなく、自分の感覚がビンビンに危険を伝えているからである。
「おーいキュプレイナ!全員邪魔だから、移動させるわ」
「はい?お前何を言って」
カイがギルドの腕章に手を当てた。
すると、ギルド員の腕章が呼応するように光り始める。その光はギルド員達を包み、暫くするとその場には誰もいなくなった。
カイは事前にギルド員全員の腕章に緊急事態用の脱出装置として空間転移できる魔力を地道に年月をかけて込めていた。それを自分の腕章を起動装置としてしようし、ギルド員全員を王都へと転移させたのだった。
「昔その力があったら、等たらればを言うのは老いと思うか?」
触手の下から声がした。その声が終わると同時に触手が切り刻まれ、クラーケンが柵状に斬られた。
クラーケンの血が破裂した水風船のように地上に流れる。
触手の下からでてきた織田信長の右腕が骨が皮膚を突き抜け肥大化し、筋肉繊維が鎧と同化した得体もしれない化け物ような腕に変化していた。
「いやお前は爺だろ。隠居しろ隠居」
「かっかっか!隠居は呆けが始まってからだな!」
二人がまた戦いを始めようとした時に、巨大な影ができて、黄色い瞳が二人を獲物として捉えていた。「シーッ」と音を鳴らし、赤い舌を出して威嚇する。
伝説の魔物ジャバウォック。
「なぁ爺さん、少し相談なんだがな」
「相談なんていらねぇ、お前の意思は伝わっている」
「嘘つけ、頭の中読むスキルは持ってねぇだろ」
「かっかっか。あるかもしれねぇだろうに。
まぁここは言葉にしておいてやる。続きはこのデカブツ共を片付けてからだな」
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