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177:海獣墓場で観賞して

 ユララの目が恍惚に染まり、その目がもう二つ増える。

 目だけではなく、ユララ自身が二人に増えた。これはシークォの魔遺物ってところか。

 しかしシークォは現在絶賛稼働中のはずだが…まぁいい、今はガンヴァルスの腕に囚われている状況を打破するか。


 右手親指の指腹から小さな刃を出して、その箇所を傷つける。血は勢い良く飛び出してユララの顔面に吹きかかる。


 血は顔面に到達する前に凝固し無数の刃になる。


 ユララの顔面に突き刺さるも傷口から血の刃と共に灰が出てきて治っていく。


 ただの人間では俺のような遺物人間には到底敵わないのは火を見るより明らかだ。

 だからこそユララは研究していたのであろう。理で新たに生み出された魔遺物を、そしてその中でも格段に強力な魔王軍四天王を基礎として、何年も何年も積み重ねてきた。

 俺のような遺物と戦うことを想定してきて。


 その願いが叶うのだ。

 にやけて、笑って、大笑いしてしまうだろう。

 楽しくて、愉しくて仕方ないのだ。


 自分が丹精込めて育てた実が実り、熟し、好みの味になった。

 収穫し、調理し、食す。これはユララの生活的欲求。ユララにとっては普通のサイクル内の出来事。


 巻きこまれた方は全くもって貧乏くじだ。


「小細工ばかり、前みたいに大胆なのでもいいんだよ。

 あの時は準備不足だったからね。今回は逃げもしないし、逃しもしないよ。

 本当に最後まで愛し合おうね」


 全ての力を使っても俺に魔遺物を渡さない。と言う意味で捉えてもいいが、そんな単純な奴ではない。

 俺を逃さないと言っている。その執着心は単に俺を所有しようとしているところからきているのもある。だが真意は俺をこの場から動かさないようにする。とも考えてもいいな。


「シンクロウ、飛べるかい?」


 その言葉だけで聡明なシンクロウは羽を広げて飛び立とうとするも、空が黒に染まって、急に黒い雨が降り始める。


「ワタシだけを見てよ」


 魔遺物で出来た方のユララが俺の腰にしがみついてそう言う。

 シークォの魔遺物を使っても真似できるのは本人の身体だけか。ならば脚で取り除くまで。


 膝で顔面を潰して取り払う。

 その攻撃の反撃として顔面を蹴った右膝から下を持っていかれた。


 シークォの魔遺物なら分身体を攻撃した威力をそのまま攻撃した箇所に返ってくるのは承知済み。検証できて何よりだ。


「かっ…はっ」


 呼吸が怪しい。右膝からの治る速度も遅い。

 この雨のせいか?当たっていると魔力を回復する速度が遅くなっているのか?


「大丈夫だよ。魔王様❤はその程度では倒れないでしょ?あとこれ見て見て」


 ユララは黒い雲をスクリーンにして映像を投影して空を見上げる。

 戦う気がないようなので俺も空を見上げる。


 そこには巨大な魔獣に踏み潰されている村や街が映し出されていた。

 見覚えのある村がある。アマネの住まう村だ。

 逃げ惑う人々が押し潰され、踏み潰されて、通り道は平らになっていく。


「あっ……」


 何かを見つけたアマネは小さく声を漏らした。


「あれはねぇ、シークォとオーレの侵攻だよ。

 期日丁度に王都に辿り着くように侵攻しているみたいだね。そして次はあちらをご覧あれ」


 指さす方向では日出軍が鳥の巨獣と戦闘していた。

 見る影もないが恐らく戦闘している場所はエルゴンだろう。信定や信千代が一瞬だけ映る。


「日出国が世界制覇を目指し始めたよ。ゲームの情報を漏らした人がいるみたい。

 そしてワタシが撒いた種が芽吹き始めた」


 赤い覆面に赤いローブを纏った人々が一般の人々を刺し、斬りつけ、殴り、蹴り、撃ち、燃やす。こいつらは天畔教の奴ら。ワタ=シィの新派。


 そいつらに対抗している集団が三つ。

 ルドウィン教徒に、中央遺物協会員に、魔術教会だ。この三竦みの戦闘が日出以外の世界中で起きている。


 もっとも激しいのは王都であった。

 大司教であるダントが内政を牛耳っているせいもあるだろう。


「これから死ぬかもしれない。明日生きれるとは限らないのに命の徒花散らすのが好きなんだね。

 それにしてもどうして皆んな王都に来ているのかな?」


 簡単な問いかけだった。


「王都に全てがあるから」


「そうなの。ゲームの根幹であるものが全て王都近辺にある。

 シークォちゃん❤はそれを知っているんだよ。いやはや神獣級の獣を集めて手懐けるのは予想外だったけどね。

 まぁ、どちらにせよワタシ自身には関係ないことさ。もしかしたら魔王様❤には関係はあるかもしれないけどね」


 王都は前回の勝利者勇者グランベルが拠点とし、理で魔遺物が作られ、魔遺物発祥の地。

 更には元々魔王城があった場所でもある。


 あの場所には勇者の子孫であり、現王国主であるイリヤがいて、勇者一行の子孫カイもいる。


 前回の決戦の地であり、なんの因果か全員がその場所に集まりつつある。


 俺とユララを除いてだ。


「あれ?外見でも内心でもそんなに驚いていないね?予想でもしていた?

 それならさっすが魔王様❤もっと惚れちゃうね」


 ユララはあの死地に俺を行かせないつもりである。

 あそこにはワタ=シィの駒である人間織田信長と、オーレの駒であるシークォがいて、あの血みどろの王都を更には血で染め上げて、混沌にする。


 未来では俺はあそこにいた。


 その未来が確定しているならば、ユララが何をしようが俺はユララを下して、あの混沌に降り立つのであろう。


 上空を見上げるのをやめて前を向いて、安定しない体調を気力で補いつつ、両手を多連装魔導砲に変化させて、高濃度の魔力弾を至近距離で連続で放つ。


「もはや兵器だね。美しいよ。でも、まだまだ」


 砲先を重ね合わせるように同じ多連装魔導砲を起動して相殺する。


 俺とユララは爆発に巻き込まれて身体が粉々になる。

 ユララは灰となってから再生し、俺は身体を一瞬にして復元してからまた距離を詰め合う。


 不安定だが一点に魔力を集中して拳と拳がぶつかり合う。

 不安定ながらもガンヴァルスの拳を一つ壊すことが出来た。


 代わりにガンヴァルスの腕にギースの毒が付与されていて、立ちくらみと目眩に襲われて平衡感覚が取れなくなり前屈みになってしまう。


「リヴェン•ゾディアック❤あぁワタシは君のことが好きだ。好きで好きで堪らない。

 こうして君と刃を突き合わせ、銃弾を食らいあい、拳と拳で語りあう。

 魔力を吸収しあってエンゲージする。

 ワタシ達は愛し合っている。そうは思わない?」


 ユララはそう恍惚な表情で問いかけてくる。


 薄暗い視界の中ユララへと返してやる。


「お生憎だけど、俺はここで君と戯れあっているつもりは一切ない」


 何度でも言ってやる。じゃれ合いは好きじゃない。

 お前を超えて、俺はあの混沌へと向かうのだ。それが使命で運命だ。


「ワタシはここから一切逃さないよ。

 君はあの場所へは辿り着けない。目的も果たせない。無為無策に終わるのさ。

 ここで終わるまでずっとワタシと戦い続けるの。

 だから、立ち上がって続けようよ。永遠の殺し合いを」


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