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176:海獣墓場でつかまえて

 海獣墓場。その場所はそう呼ばれている。

 そこは海流によって海の魔物たちの死骸や、沈没した船が集まり続ける場所である。

 海獣墓場の海流に囚われれば、現代の船では脱出できない。その為に老朽化した船の中には最後まで生き足掻いた死骸が残っている。


 空は常に曇り、その雲は乱層雲でいつでも雨嵐になる。


 そして腐敗した海の魔物が放つ瘴気によって自然にある魔力が無くなり、魔術さえも使えない場所であった。


 そんな自然の牢獄からは誰も出られない。受肉した神でさえ出られなかった。


 ボォクの最後の身体はこの海獣墓場の何処かにあるようだ。


 最後の身体は確実に俺が手に入れる。そういう未来だと確定しているから。

 未来予見は神の手から落ちたサイコロのようなスキル。制御はできる可能性はあるが、扱いを間違えれば、このように自暴自棄のうな展開になってしまう。


「湿気って…ますね」


 魔物の死骸と船の残骸で出来上がった道。

 その道の前方にいる俺の機嫌を気にするようにアマネが訊ねる。


「お足元滑りますのでオレに捕まっておいてくださいね」


「ひぃー骸骨と目が合いましたよ!」


 俺の背後にはシンクロウにボォクにアマネがついて来ていた。

 シンクロウは俺とボォクの神官なので、ボォクは駒なので手元にいてもらわないと困る。アマネはメンテナス兼数少ないボォクの信奉者なので半ば強引に連れてきた。


「ぬるぬるしますよ……あの、魔遺物さがせるんですかね?」


 アマネの言う通りこんな海上で死骸と残骸だらけの場所から掌サイズの魔遺物を探し当てるのは至難の業だ。

 だがボォクは自身が受肉した身体を感じる事ができる。近くに行けばの話だが。


 ボォクはアマネを見ようともせずに身軽なこなしで歩き続ける。

 今のような確信を突かれればアマネをここぞとばかりに脅して虐めるのだが、どうやらこの先にいる存在に気がついているようで、妙に大人しかった。


 この海獣墓場にやってきた時から俺も勘づいていた。

 まぁ相手が勘づけるように、その気配をぷんぷんと漂わせているのだ。


 俺とボォクはそれが不快でならなかった。


 ここにいるぞ。と誘われている。

 盤上を掌握されているかのような不快感。

 そんな不快感に耐えながら歩を進める。


 進んでいくと巨大な鯨の死骸で埋め尽くされて出来上がった広場にやってきた。


 この場所が不快感を醸し出す人物がいる終着点だ。


 その女は広場の真ん中に立っていて、俺たちが来る方向を向いて待っていた。

 互いに目が合うと、心底楽しそうな笑顔を作って挨拶をした。


「ヤッホーユララ☆ちゃんだよ。

 三日?四日?ぶり?どっちでもいいや、それくらいだね」


 ユララ•マックス•ドゥ•ラインハルト。

 それは受肉した肉体の名前であり、中にいる概念的存在である天神の名前はワタ=シィ。


 こいつの気配がずっとしていた。


「何かようかな?正直構っている暇はないんだよ」


「意地悪しないでよ。ワタシがここに偶然いるなんてことはないんだからさ」


 その言葉を述べた後に胸元からイヤリング型の魔遺物を取り出した。

 間違いなくボォクの身体だ。俺達が確認したらそれを元の胸元にしまう。


「期日にはまだ早いが?」


「期日?あぁゲームの話ね。

 これは介添神であるワタ=シィとしてではなくて、人間ユララ•マックス•ドゥ•ラインハルトとしての行動だから何ら問題はないんだよ。

 干渉は一切していないよ。ワタシだってペナルティを受けるのは嫌だからね」


 ペナルティ。

 期日半月以内に介添神が駒候補であろう者に干渉し殺害及びゲーム開始までの再起不能の負傷を負わせれば、魔神、普遍神、天神の三神が事前に作っておいたスキルが発動する仕組み。

 そのペナルティは内容は神さえも知らないが、かなり不利になるようで。


「そうか、だったら」


 俺が立っていた位置に強い突風が吹いた。

 ユララの心臓を狙って腕で穿った。

 普通ならば速さと威力で上半身なんか維持できていないだろう。


「やーん、その気になってくれたのはいいけど、がっつき過ぎ。

 まずは手を重ねるのね」


 瞬時にガンヴァルスの四本腕を起動して俺の腕を掴み、指と指を絡み合ってくる。

 掌から硬度の高い針を射出しても、元の魔力量があちらの方が大きいので射出と同時に消える。


「手を繋いだらね、身体を寄せ合って、お互いの唇を重ね合うの。

 そうやってお互いの温もりを確かめ合うんだよ」


 ガンヴァルスの力は俺の膂力よりも上で身体を寄せられる。

 ユララの血色の良い唇が目の前で動き、わざとらしく甘い吐息を俺の鼻先にかけて喋る。


「残念だが俺は君とは」


 俺が言葉を続けようとしたらユララのか細い指先が俺の唇に当てられる。


「言いたいことは分かるよ。だけど今は言わないで。楽しもうよ」


 一瞬にして身体に力が入らなくなる。

 脚が震えて、全身から寒気がした後に、体の隅々から痛みが発生する。


 完全に中毒症状だ。ユララの指先に毒があったか。分解し、解毒すればいいだけだ。


「大丈夫?立てる?一滴で人間が溶ける毒だよ?」


 足の震えが止まらない。

 解毒はできている。だが解毒をしても、新たに体の中で毒が発生しているようで、いつまでたっても回復しない。


 この毒食らったことはないが、過去で見た。


 俺を支えているユララを睨む。


「あぁっ熱い眼差し。

 その通りギース•アシッドライムの魔遺物です。

 魔遺物の身体でも効くでしょ?ワタシが検体を使って改良したからね」


 毒で屈していられない。

 吐く動作と共に口から複数の虫を出現させる。

 ムカデ、バッタ、ハチ、クモ、ヒル、アリ。

 全てが攻撃性を持ってユララの顔面を狙う。


 因みにこのスキルを披露した時はアマネは卒倒した。


「行為に及ぶ前に精力をつけようって事ね、魔王様❤は気が回るね」


 その虫達を捕まえてユララは普段の食事と変わらぬように食べた。

 このスキルで出現させた虫達には毒がある。ギースほどの強い毒ではないが、人を殺せる毒だ。


 それを食べた。


「ぐっ、がっ、かっ」


 毒のせいで喉が腫れ上がり呼吸ができなくて、苦しそうに喉を掻きむしりながら、呼吸困難に陥ってその場で力尽きた。


「し、死んだ?」


 アマネの呟きが風に乗って聞こえてきた。

 こんな簡単に死ぬわけがない。

 不死鬼のような受肉した神だ。ガンヴァルス、ギースと持っているなら所持していてもおかしくはなく、その特性が不死でもなんらおかしくはない。


「ベリオルまでも持っているって言うのか」


 俺がそう言うと、ユララの身体が小刻みに震える。

 復活の兆しかと思ったが、どうやら笑っているようだった。


「うふふふ、そう。そうなの。

 元から魔王軍四天王達の魔遺物は持っていたの。

 ワタシが持っていないのは魔王と陰の魔王と呼ばれた魔族の魔遺物だけ」


「ずっと俺を狙っていたのはそう言うことか」


「狙っていた理由の半分はそうだけど、半分は魔王様❤がどう立ち回るかを楽しんでいただけ」


「いい趣味とは言えないな。それで君の御眼鏡にかなったわけだ」


「うん。そう。想いは生きているうちに伝えるものなんだよ。

 だから言うよ。ワタシはあなたが欲しいし、あなたを愛している。

 だからね、だからね。壊すね」


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