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173:先生

「ようやく会えましたね」


 ユクタム師範堂からユクタム山頂へと移動し、大師範を手に掛けた人物をついに探し出したハクザ•ウォーカー。

 対峙するは暗殺ギルドの中で三番目の実力を持つ男。ソーリャ•ン•チャッタス。


 ユララの指標だが、総合的な強さ順はギルドマスターを筆頭にユララ、ソーリャ、リェンゲルス、モモ、ブデスト、メメメ、ザイバック、ヴェルファーレ、ワクゥとなっている。

 あくまでユララの指標なため、彼らの特化した状況や、状態になった場合には変動する。


 だがしかし、このソーリャの位置はどんな場合にも変動することはない。

 たとえリェンゲルスが自分の命を捨ててでもである。


 それ程まで力の差はあり、暗殺ギルドの中でも総合的な評価は高い。


 ソーリャは魔術師のフードを脱ぐ。

 そこから出てきたのは好青年。

 柔かに笑えば微風が吹き、白い歯を見せて手を差し伸べれば太陽が神々しさを助長させる。

 一挙一動に自然が答えてくれるであろうと錯覚させる。そんな好青年。


「やはり……貴方ですね」


 山頂の風の煽りを鍛え抜かれた足腰でハクザは耐えながら言った。


「お久しぶりですね先生」


 ただの独学で身につけた魔術なのではなく、ソーリャはハクザの元弟子であった。


「まだ現役で教えていらっしゃるんですね。ご高齢ですのに、大したものですよ」


 ソーリャは乾いた拍手をハクザに送る。


「アウトバーンと共に減らず口ですね」


「そこが僕のチャームポイントですから。

 キヤナさんのは照れ隠しですよ。可愛らしい方ですよね。

 また会いたいなぁ。もう会えないなんて寂しいですよ」


「魔術教会を潰すつもりですか?」


「いつも通りに視野が狭いですね。

 魔術教会なんてただの通り道にしか過ぎません。

 僕達が目指すのは魔術のない世界の終焉ですよ。


 魔術教会を軽視。

 親であった大師範を殺害した事を一切口に出さずに悪びれもしない。

 友であり仲間だった師範を殺害した上で、昔通りの、普通の話し方。

 そして魔術を愚弄した。


 ハクザの琴線を切り、逆鱗を鷲掴みにし、忌諱を挑発的に撫で回した。

 それはつまり、ハクザを爆発的に憤慨させたのだ。


 ハクザの型の所作が早業すぎてソーリャに知覚させない。

 魔力を感知し、術式が展開した瞬間に知覚したのならば、それは直撃を免れない。


 顔面を鷲掴みにして爆発を促す。


「!?」


 しかし爆発は一向に怒らなかった。


 人差し指と親指を立てて他の指を曲げ、肩幅に足を広げた型を既に作り出して、ふいと指を薙ぐ。


 ハクザは後方へと吹き飛び、山頂から落ちそうになるも、爆発で体勢を立て直して、ソーリャとの間合いを取って着地した。


「先生、魔術師って成長するんですよ。知っていましたか?」


 ソーリャは山頂なのにも関わらず風の抵抗を受けていない。

 ソーリャは風を操る魔術師であり、ハクザの練った魔力を自分の対外へと放出している風の魔術の術式で無効化した。


 ハクザの魔術はそこらの風の魔術では無効化はできない。

 ソーリャがハクザとほぼ同等の魔力を持っているからできる技。


「先生はいつまでも探究心に飽きない方だ。そこは尊敬しています。

 だから僕も見習っていますよ。あの頃の僕とは比べ物になりませんよ」


 ハクザの知り得ているソーリャは風の魔術を師範代程度まで扱える存在。

 体外へと放出し、強大な魔力を維持し続けるのは上位の師範並の力。

 ソーリャ自身がまだ小手調の様子からして、出し惜しみはしていられないと感じ取った。


「貴方の成長力。そこだけは褒めましょう。

 だが人間としての成長曲線が歪みに歪みきっている。それを私が正してあげましょう」


 ハクザはリヴェンとの戦闘での敗北により新たに生み出した魔術。対子ダブルを発現させる。

 対子は自分の魔力の形を保ったもう一つの自身を創り出す術。

 これは体外へと放出する魔力量を一定にし、更には自身の思考を僅かな魔力で動かし、対子の周りを他の魔力に侵されないために距で覆わなければならない超高等な魔術。


 リヴェンに敗北し苦渋辛酸を舐め、己の無力差を痛感させられ、努力家で、負けず嫌いで、誰よりも己の信じる人間であるハクザ•ウォーカーであるからにして成せる術であった。


「……そーいうところですよ、先生」


 そういう弛まない努力や、僻みなく突き進む力。

 光のような人間を、ずっと隣で直視できない者もいるのだ。


風柳キリキリマイ


 しなやかに垂れた柳のような風が複数発現する。

 その風に触れれば手を切るどころか、繊維組織までズタズタに切り裂き、再起不能に陥らせる非道な魔術。


 ハクザは山頂の薄い空気を出来るだけ吸って溜め込む。

 初撃時に爆発をしなかったのはソーリャの周りが真空状態だったからと予想した。なので近づく場合は呼吸を止めておくことにした。


 本体であるハクザが右に、対子が左へと展開して挟撃を仕掛ける。

 ソーリャはどちらも目で追いつつも、その場を動かない。


 先に仕掛けたのは対子。

 右腕が伸びてソーリャの喉を狙う。しかし、伸ばした腕は切り落とされる。


 そこでハクザは気がついた。

 視覚化された風柳と、視覚化されずに魔力反応さえもうまく誤魔化された風柳が存在していることに。


 魔術の魔力反応を消すのは非常に難しい。師範の中でも出来るのは数人しかいない。


 だがハクザにとってはできて当たり前の所業。

 無問題と言わんばかりに、切れた腕を魔力で補って、同じ箇所を狙う。


 これによりソーリャは、どちらが対子かを確実に見抜いた。


 ソーリャは見える見えない風柳の他にも魔術を発動していた。

 風乃噂インビジブルセンセイション自分の周りが完全な真空状態であることと、相手の魔力が自分を超えている状態で魔術を発動しているとの縛りを持った条件下で発動する魔術。


 魔術に縛り、または制限を与える事によってより強力な魔術へと強化することができる。しかしそれもまた一般的ではなく、六派を会得してから、更なる研鑽が必要である。


 二つもの縛りを得た事により、風乃噂は真の力を発揮し、真空状態の中に入った高魔力保持者を、内側から破壊する範囲反撃型の対魔術師の為の魔術となる。


 目に見えない範囲型はいくらハクザ•ウォーカーであれども予想外だった。


「さよなら先生」


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