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172:潜め

 息を潜める。


 その言葉は好きじゃない。


 その場にいることを気取らせずに、じっと動かずに隠れている様。

 その様は時に格好が良く、時に不恰好になる。

 自分の美学で語るならば、大抵が不恰好の様になっている。

 だから、息を潜めるとの言葉は好きじゃない。


 本来は近接戦闘の方が好きであるし、殺しやすい。

 だが人には適性があり、その適した特技が秀でてる方へと適応しなければならない。

 適性のないモノを伸ばしたところで頭打ちになるのがいいところ。


 幸いにも特技があった。


 近接戦闘でもなく、息を潜める事でもなく、目が良事でもない。

 ただ反射神経と照準能力がズバ抜けているだけ。


 つまるところ、狙撃銃を持ち、風を読み、射角を読み、ここだと決まった瞬間に相手の頭を撃ち抜く。

 そんな適性能力。


 不満はあるが不備はない。


 ただ目標である存在を殺すだけ。


 その為には必要な犠牲を払ってきた。

 無駄な視界も、無駄口も、無駄な努力も、無駄な自意識さえも。


 照準に目標である男が入った。

 その瞬間に迷いなく指をかけていたトリガーを強く押し込む。

 狙撃銃が反動で背後へとやってくるのを力一杯抑え、体全体が反動で振動する。


 そう身体が知覚したと同時に男の頭が吹き飛んで銃弾が飛んできた方向とは逆に倒れ込む。


 銃声が闇夜に鳴り響いている間にスコープ越しに男が死亡したことを確認してから、その場を後にする。


 呆気なかった。


 気をつけろと忠告されていたが、所詮は葬ってきた師範と変わらない。

 もうちょっと骨のあるやつかと思っていた。


 アカシア•バイギンドル治癒魔術に長けた男。治癒魔術なんて即死ならば意味をなさない。


 ゾクリと背筋の産毛が剃り立った。


「生きてるはずないね」


 独り言が漏れた。


 仕事は終わった。

 次の目標に移行するだけだった。

 なのに、確かに寒気を感じた。

 よくある寒気だ。殺し合いの最中ではよくある寒気だ。


 お前を殺すぞ。

 そう強く主張した気迫が全身を包み込み、筋肉を硬直させ、思考を恐怖で支配させる。


 圧倒的な力。


 ギルドマスターであるあの男が醸し出すのと一緒だ。


 こいつは相手が悪かった。そうつくづく思わせてくれる。


「私の頭を撃ち抜いたのは君か」


 アカシア•バインギルドは確かに前に立っていて、撃ち抜いた部分を手で押さえながら世間話のように語りかけてきた。


「そうだが」


「だが?……何か問うことがあるかな?私の頭が弾け飛んでいなくて、血溜まりの中で溺れていない事がそんなにも不可思議なことだろうか?

 否!私は治癒魔術を人類で最も扱える魔術師。

 撃ち抜かれた瞬間に傷ついた部分を修復するのは可能だ。少しばかり痛いがね」


「………」


 皮膚、頭蓋骨、脳髄、脳を全て痛みを知覚したと同時に治癒魔術で治したいと言うのか。

 どこから、どの時点で撃たれるかも知りら得ていないのに。

 知覚だけで、己の反射神経だけで、常に練っていた魔力だけで治癒したと言うのか。


 化け物が。


「お前が他の師範を手に掛けたのか?」


「話す必要はないね」


「うむ。確かにそうだな。私でも口は割らないであろう。

 ならば、である」


 捕まえて嫌になるまで甚振って嬲って辱めて貶めればいい。

 死ぬ間際までに吐かせればいい。

 拷問をすればいい。


 そう簡単には吐かせてやらないし、前提として捕まらない。

 

 確かに狙撃銃が得意だ。

 得意なだけだ。

 最も得意な射程距離は中距離。そして遭遇戦である。


 腰から魔遺物を起動してアカシアへと向ける。


「消えっ」


 消えたと思った。

 だがアカシアは懐に入り込んで、既に腹部に拳を当てていた。

 拳を堅く握らずに中に空洞を作り出している。これがアカシアの型。


 そのまま空洞を握りつぶす。

 遅れてやってくる追撃ではなく、二度やってくる連撃。

 一撃目が素の殴り、二撃目が空洞があった部分を握りつぶした衝撃。

 これは魔術でもなく、ただの体術。


「がっはっ!」


 呆気ないのはこちらだった。


 狙撃位置は大凡の位置しか分からない。

 それにも関わらず、前に立ち塞がるように現れたと言うことはこちらよりも移動速度が異常なほどにあるのだ。不意打ちの早撃ちなど成功するわけが無い。


 しくじった時点で終わりだ。


 勝ち目はないのだ。


 賢く、不格好に、息を潜めておくべきだったのだ。


「堕ちるか?ならば体に聞こうか」


 遠のく意識の中、アカシア•バイギンドルが何かを言っていた。


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