168:限界を超える
「オラオラオラァ!リェンゲルス様のお通りだボケがぁ!」
肉体を四十五解放したリェンゲルスがドズの集落の魔遺物生産場を破壊しながら叫ぶ。
「素手で壊してやがるぞ!」
「おい怯むな!食いっぷち減らされるぞ!」
「くっ!でも魔物が多すぎるし、この魔物共強すぎる!」
廃品回収隠者達は破壊と殺人の限りを尽くすリェンゲルスにまで辿り着くことできずに、目の前に立ち塞がる凶暴化した魔物の対処に手こずってしまう。
「族長も勝てなかった相手にどうやって勝つんだよ!」
この集落の長であるドズは、最終兵器である装着型魔遺物を使ってリェンゲルスに戦いを挑んだが、四十五程の傷をつけて魔力切れとなり、致命傷を負って敗退した。
天畔教のせいで人員確保もままならなく、現在の指揮系統はドズに一番近かったユジャが行っていた。
「それでも俺らの居場所を守らなきゃなんねぇだろうがよ!
泣き言言ってもいいが、手は動かせ!体を動かせ!あいつを絶対に殺せ!」
斧を叩き潰した魔物の頭から引き抜きながらユジャは叫んだ。
「あぁ!ちくしょう!ちくしょう!やってやらぁ!」
魔物達に悪戦苦闘している中、リェンゲルスは周りの有象無象の中から知った気配を察知した。
察知した瞬間に魔力反応も感知。自分の視界に炎の脚が現れて顔面の左側にクリーンヒットする。
「ぐぉっ!」
唯の魔術が乗った蹴りではなく、身体強化された威力倍増の蹴り。
この有象無象の中にはいなかった強者の蹴り。
これはワワ•ゲイザーを強化していた者のスキル。
「あほんだらぁ!」
ウォンの蹴りがリェンゲルスの左の顔面に炸裂した後に、もう一度同じ場所に体を捻って攻撃した。
普通ならば顔面は砕け散る蹴りの威力なのだが、左目が飛び出て、眼底骨が骨折する程度済んでいた。
リェンゲルスはウォンを掴もうとするも、ウォンはリェンゲルスの肩を蹴ってから距離を取る。
「人の家の上で騒々しいですわよ!」
その声と共に赤く光る眼が輝いた。
その目を反射的に見た魔物達や廃品回収隠者は全て石になった。
「ミスティ、人は戻してな」
「あら、これは失礼」
石になった人たちを任意で解く。
「蜥蜴兄弟に、蠍蛇女か。どうした?お前らの長はここにいねぇのか?」
現在はリヴェンが全員の前から姿を消して二日後。
姿が消えた当初はそのうち帰ってくるだろうと議論したが、バンキッシュからの報告で二度とここには戻らないと最終的な結論に至った。
そして全員で話し合った結果。
帰ってこなくても、仲間としてリヴェンを補佐できるように動くことにした。
ウィンとウォンとミストルティアナはツィグバーツカ家で情報を収集して、当初の予定通りに世界の動きを見ていた。
まず最初の動きとしてエルゴンに危機が迫っているとの報を受け取って、カイとガストがエルゴンへと向かった。
イリヤはまだ傷心しており、同時にバンキッシュも傷心して、残ったパミュラとモンドが二人の様子を見ていた。
シンクロウとボォクとアマネはリヴェンが消えた日に同じく消えていた。
恐らくだがリヴェンが必要と思ったから連れて行ったと、未来を見ているバンキッシュは語った。
そして二日経ったある日に上が騒々しくなり、顔を覗かせてみれば暗殺ギルドの一員がドズの集落を破壊していたので、昔よしみと恩を売る前提で助けに入ったのである。
「ミスティ、恐らく魔物使いがおる。
ぐるぐる髪の女か、黒マスクの男のどっちかや!
ミスティはそいつを探してくれ!わいらはあのバケモンやる!」
「承りましてよ。そこの愚民達、着いていらしゃい」
ミストルティアナがユジャ達にそう言うも、すぐに着いていこうとはしなかった。
「何をしていますの!あの化け物と張り合えるなら張り合ってみなさいな!」
呆れた様子で振り返ってからそう言うと、ユジャがミストルティアナの容姿に戸惑いながら言葉を返した。
「いや、しかし俺らは守らなければ」
「貴方達には魔物を退けながら魔物使いを倒す義務がありますの!
食べ物や仕事よりもまずは人命を優先しなさいな!
守る対象を見間違うのは愚か者のすることでしてよ!」
魔物やリェンゲルスを止めれば破壊行動は止まる。
人命は二の次であった。
だが魔物使いがいるならば、根本を叩かなければ終わりはない。
この集落最強のドズが死傷してしまった時点でこの者たちに頼らざるおえない。
ユジャは唇を噛み締めてそう判断した。
「全員この御令嬢に付き従え!魔物使いを探し出して、俺たちの居場所を守るんだ!」
ユジャの号令で全員がミストルティアナを守りながら駆け出す。
「逃すかよカス共!」
破壊した瓦礫を石飛礫のように投げて追撃する。
その追撃をウィンとウォンは全て破壊する。
「お前の相手はわいらや」
指を二本立てて手前に曲げるジェスチャーで挑発した。
「いいぜ。前回と同じ六十五だ」
リェンゲルスの顔面が治癒していき、体格が倍になる。
あの時見せた赤みがかった肌に、身体から突起のように出る骨。小さな巨人族と同等の体格。
これがリェンゲルスのスキル傷物語自身が傷つけられた場合にのみ発動し、傷つけられた度合いによって身体が強化される。
治癒力、免疫力、筋肉量、肉体の全てが闘いに適した体に強化される。数字は致命傷になる程大きくなっていくが、リェンゲルス個人の体感数値である。
「お前らも身体強化系のスキルなのは割れている。俺は時間制限などないがお前らはあるようだな」
「一面四十七分、絶賛発売中や」
円月輪を投擲してウィンが最初に動きだす。
リェンゲルスはヴィーゼル兄弟のスキルをどちらも身体強化だと思っている。
その為に最初の不意打ちの一撃を魔術を使った蹴りで攻撃したのだ。
ヴィーゼル兄弟の鼓吹、鼓舞が最大限に乗った円月輪は岩をも砕き、岩よりも硬い魔遺物も破壊しることができる。
リェンゲルスはゴミが飛んできた程度にしか思っておらず、拳で破壊を試みる。
結果。必然的に円月輪はリェンゲルスの拳を切り裂き、腕を縦に裂き、肩を抜けて空中で反転してウィンの手元に戻ってきた。
リェンゲルスは切り口を見る。
六十五までも強化された肉体を身体強化だけでは切り裂けない。
あの円月輪は遺物でもなく、ただの円月輪なのは触って理解した。
つまり、身体強化以外にも武装強化のようなスキルを持っている。そうリェンゲルスは見抜いた。
互いに手の内がバレれば、あとは物理的戦闘で決着がつく。
六十五程度では、攻撃に耐えてられないと予想できる。
ならば惜しみなく、最大パワーで応戦すればいいだけ。
ウォンが間を開けずに円月輪を投げるも、円月輪が到達するまでにリェンゲルスは自身の心臓を自分で貫いた。
今まではギルドマスターである男、織田信長との勝負で出した八十が限界だった。
確実に死に至る攻撃を試すことはなかった。
そこまで追い詰められ、自分が窮地に陥ったことがなかったからだ。
だから死ぬのか、それともスキルが発動するかは賭けである。
が、このスキルはワタ=シィからの託宣スキル。
作り出したワタ=シィが、自傷で死ぬようなスキルを作り出すわけがなかった。
身体の大きさは元のリェンゲルスに戻ったが、骨や筋肉が隆起し、エイのような横幅に広い上半身に、ぎゅっと全てが凝縮された下半身。水泳選手のような逆三角形が特徴的な体格。
先のような視界的な威圧感は少なくなった。
だが悍ましさが身体から出る蒸気と共に発生している。
さっきまでとは明らかに違う。度を超えて違う。
肌に触れる空気でヴィーゼル兄弟の皮が破れる。それ程までの威圧感。
「はっ!」
リェンゲルスが発声した。ただそれだけのことなのに前方から空気圧の壁がヴィーゼル兄弟を襲い、強化された身体や防具を着ているにも関わらず空中へと吹き飛ばされる。
空中で態勢を立て直している最中にリェンゲルスは掌を二人に向け、掌から骨を発射する。
両手を交差させて防御態勢を取るも、全てを貫いてヴィーゼル兄弟は血を吐いて、受け身も取れずに地面へと叩き落とされた。
「百…いや、百二十だな」
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