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167:捨てる神あれば拾う神あり

「あんた、あーしの前に姿を現したって事は、どうなるかは理解してんのよね?」


 任務でメラディシアン王国を離れて、小国カマランへと赴いていたジュリは夜の散歩がてらに歩いていると、目の前から怨敵であるブテストが出現すると同時に額に筋を立てて言った。


「どうもこうも、お前と殺し合いしに来たんだよ。

 どうだ?尻尾巻いて逃げるか?

 わんわん泣いて許しを乞うか?

 それとも勇ましく私と剣を交わせるか?」


 緑色の襟足をくるくると指で回しながらブデストはジュリを挑発する。

 ただでさえ家族の仇である人間なのに、火に油を注がれて、ジュリは腰に携えている短剣の柄を後ろ手で握りしめた。


「まぁ何にせよ。…お前を殺す時が来たんだよっ!」


 まだ話す腹づもりであったブデストの意表を突いてジュリは波動型魔遺物を起動して発射する。


 ブデストは軽い身のこなしで左側へ避けた。

 避けた方向を見てから発射後に動き出していたジュリはブデストの方へと近づいて、自分の獲物の間合いに入る。


 片手剣をブデストの首目掛けて薙ぐ。

 力量の差があれば完全に獲った一撃だったがブデストはジュリの力量を超えていた。


 ひらりと短剣の先端を交わして傷一つなく反撃行動に出る。


 ブデスト•シズマのスキル、毒主婦ポイズンクラフターは自らの体液で毒液を作り出して、それを形作ることがてきる。

 形作った物には自分の意思を込める事ができ、物はその意思に準じる行動をする。


 ブデストの毒液は食べた食べ物によって性能が変わる。

 急性に慢性に発癌性と毒に分類されているものに変わっていく。なんにしても食らえば身体の自由または命を奪われる。


 技能で発汗させた汗が掌から吹き出して毒手を作りあげる。


「しっ!」


 毒手で一番近い血管がある場所である片手剣を持った腕を狙う。


 ジュリは毒の抗体を作れる特異体質である。

 その体質に気づいたのはブデストにカンロヅキ家を襲撃された時である。

 それ以来一度身体に摂取した毒物には抗体ができて、状態異常を緩和する事ができる。


 だがブデストの作る毒はジュリの抗体を抜けてくるのを前回で知り得ているので、毒の攻撃を喰らわないようにする訓練を徹底してきた。


 元々相手の攻撃を避けて、手数で押し切る戦闘スタイルだったので、得意分野を伸ばすのは楽であった。


 振り切った短剣を離して左手に持ち替えて毒手の先を短剣の柄で重ね合わせる。

 この時点で双方の膂力は同じくらいと理解する。


 柄で左手の毒手を弾きあげて逆手持ちのまま胸から顎を裂くために切り上げる。


 上体を少しだけ逸らせて回避したが、左頬から血が噴き出す。


 ブデストの真骨頂は自分が傷つけられて出血してからである。


 空中に浮く血を大きく息を吸って唾と共に吹き出す。

 血と唾は毒の霧となり、ジュリの顔面に吹きかかる。


「ぐっ!」


 咄嗟に目を瞑って失明を阻止したが、肌がズブズブと焼けるような感覚と、視界を失ってしまった焦燥感がジュリを襲う。


 ブデストはジュリの腹に靴底を強く押しつけて蹴った。


「ごっふっ」


 視界の不明瞭で全身の筋肉に力を入れて攻撃を対処していたが、それが仇となって防御面が疎かになった。


 ジュリの口からはさっき食べた食べ物が逆流してきて、胃液と共に地面に吐き出してしまう。


 まだ毒の匂いがするので目を開けられない。

 だが気配でブデストの位置を追えるはずだと、ジュリはブデストの気配を索敵するも、そこは暗殺ギルドの一員、気配を殺し切っていた。


 今度はジュリの右足を横から蹴った。


「ぎっ!…あっ!」


 あらぬ方向からの攻撃で右足は折れ、ジュリは跪く。

 触覚、視覚、嗅覚を奪われた状況でジュリはなす術なく蹴りを入れられる。


「がっ!」


 左足。


「ぐっ!」


 右腕。


「あっ!」


 左腕と骨を折られていく。


 ジュリはもう普通に立つための骨は折られているのに片手剣を杖にして痛みに耐えてまでも立ち上がろうとする。


 そんな関節を悪くした老人のような様を見てブデストは笑う。


「ハハッウケる。無様だな。

 そんな強さで私が殺せるか。

 あの支部長に訊かなかったのか?

 私であいつに勝てますかー?って。

 あぁ聞けるわけないよな、お前自尊心増し増しだもんな。

 誰にも頼らず一匹狼気取って復讐に燃えてるんだもんな。

 馬鹿だなあお前、神様にあいつを殺してくださいーって願っておけば、こんな思いをせずに死なずに済んだのにな」


「……った……よ」


 震えながらもジュリは呟いた。


「あー?聞こえねぇよ」


「願ったわよ……ずーっと、毎朝毎晩願ったわよ」


「そうかよ。それで?神様は私を殺してくれたか?

 カンロヅキ家の信仰心であるオーレ様はよぉ」


 ブデストは嘲笑いながら短剣を蹴ってジュリがこける様をさらに笑おうとした。

 だがジュリは転けずに耐えた。


「オーレは応えなかったわよ。貴方を殺すスキルさえもよこさなかったわよ」


「ハハッウケる」


「お笑い種よ。あーしが馬鹿だったのよ。頼る神を間違えてたのよ」


 ふぅっと息を整えてジュリは精神を集中させる。

 するとガクガクと震えていた脚が安定してきて、物を持つだけで激痛が走っていた腕も緩和した。 ズブズブに焼けた肌がゆっくりと治癒していく。


 その様を見てブデストはしまったと思った。

 気に入らない人物は甚振って、嬲って、貶めてから殺すブデストの悪癖。

 趣味と仕事をどっちも満たそうとしてしまったのがブデストの落ち度。


 ジュリはその悪癖を一度ブデスト自身から聞いていた。

 だからこそ、それを転機にするために、避けきれなかった毒霧以降、敢えて攻撃を喰らい続けていた。


 カンロヅキ家の信仰するオーレは聖剣をブデストに奪われた時点で信仰心は無くなっており、ジュリがいくら毎朝毎晩願おうともスキルが託宣されることはなかった。


 そこでジュリはオーレは必要ないと見限った。


 そして最近、リヴェン•ゾディアックと出会ってから自らの身体の高まりを感じ始めた。


 これは成長の兆しと思っていたが、キュプレイナからボォクの話を秘密裏に聞かされてから、この身体の高まりがボォクへの信仰の力だと気が付かされた。


 だからこそこの地に派遣され、魔族発祥の手がかりを探していたのである。


「あーしが最初に魔遺物使った時点で不思議に思うべきなのよ」


 ジュリの身体は魔力が高まり、魔術師師範の下位師範相当の魔力があり、この半年でワワに稽古をつけてもらい、新たな力を手にしていた。


 呼吸法と魔力で身体を治癒したジュリは短剣へと白い液体を付与する。


「いくわよ」


 変わらず突進。ブデストは呆れながらも毒液をいくつも飛ばす。


 ジュリはそれを全て短剣で弾く。

 金属を溶かす毒なのにも関わらず短剣で弾かれて、ブデストは少し目を奪われる。


「小細工は通用しないのね!」


 全身を発汗させて大量の毒液を放出させる。

 その毒液は人の形になっていき、三メートルほどの巨大な人形になる。

 これがブデストの最大出力の必殺技。この毒人形に触れれば何人たりとも形を保っていられない。


 それでも、そんな雰囲気を察してもジュリは突進する歩を緩めない。


「ハハッ狂ったか!さよならだよ」


 ジュリは短剣を毒人形に突き刺した。

 その瞬間に毒人形破裂してあたり一面に飛散する。


「なっ、何がどうなって」


 毒人形の毒液を多量に浴びていてもジュリは形を保って、まだ突進してくる。

 ブデストにはもう毒液を出せる余力はない。


 避ける。

 その思いが過ったが身体が言うことを聞かない。

 スキルを使って消耗しているのは確かだが、避けることができる体力すらない。


 ブデストはこの感覚を覚えていた。

 魔術師と戦うとされる魔力吸収であった。

 魔術師同様になっていたジュリを侮った結果、出来るはずの封を使っていなかった。


 毒人形同様にジュリは短剣をブデストの胸に突き差した。


 こうしてジュリの仇討は達成された。

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