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164:魔術教会の怒り

「我々魔術教会が立ち上がるときである!

 神の力で増強された身体など紛い物だ!

 その紛い物の力を行使して支配するなど我々魔術教会に喧嘩を売っているも同然だ。

 そうだろう同志!」


 魔術教会の教会内で襲ってきた天畔教徒を返り討ちにして、その気絶させた教徒を踏みつけて教会内の人間に語りかける男が一人。 


 彼の名はアカシア•バイギンドル。魔術教会の師範の一人である。

 彼の扱う治癒魔術はどの魔術師よりも群を抜いており、医者が匙を投げる重篤の患者を救うことができる。

 その力もあり魔術教会では強い立場を持っており、教会信者からも慕われている。


「彼らは罪を犯した。だが私は許そう!

 彼らの売ってきた喧嘩を買おう。だが私は報復はしない!

 私達の敵になろうとも、彼らは人間なのだ。

 だがしかし、考えてみてくれ罪を犯した者には罰を与えなければならない。

 誰かが裁いてやらねばならない。

 誰かが正してやらねばならない。

 このまま野放しにしておくのは我々の理念に反する。

 そうだろう同志!」


 教会にいる信者が同意の声をあげる。


「では誰が正すか!」


「「「我々だ!」」」


「誰が裁くか!」


「「「我々だ!」」」


「よぉし!では我々が世を正し、裁こうではないか!

 同志諸君、目一杯善行をしたまえ!」


 アカシアの掛け声で魔術教徒達は外で蛮行を行う天畔教を裁きに行った。


「ほんにやり口がえげつないわぁ」


 信者達に見えないように陰に隠れていたキヤナが教徒が全員出て行ってから姿を現す。


「君だって焚き付けるのは得意だろう?」


「うちはそんな残忍な事はできまへん」


 善行と称して異教徒を狩る許可を与える。

 信者達は善行と信じているので、人を傷つけても心に罪悪感感じにくい。


 そもそも魔遺物を不法に使う人間をリンチにする教会である。今更であった。


「…で?何のようだ?まさか嫌味を言いにきたわけじゃないだろう?

 君が用事なく私の前に現れることなんてないからね。ハクザさんのお遣いなんてこともないだろう?」


「それがやね、なんとハクザさんから師範全員へと念令を授かっているんよ」


「鳩じゃいかんのか?」


「鳩やいかん内容なんやろねぇ。

 ウチもまだ聞いてへんさかい、アカシアはん一緒に聞かへん」


「時間はあるが、君とは見たくないものだな」


 とは言うもののアカシアは念令をキヤナの指先から受け取って額に当てる。


 念令とは魔力を練って作り出した術式に映像を記憶させたものである。

 普段は念紙に記憶させるのだが、師範にもなると身体に記憶させておくことが出来る。


 浮かび上がってきた映像は神妙な顔つきをしたハクザ•ウォーカーであった。


「師範全員がこれを見ている頃には私は自制出来ずに報復しに行っているかもしれない。

 そうなっていた場合は先に謝っておく。すまない。

 だが、私は後悔をしていない。君たちもこれを見れば同じ気持ちになる筈だから」


 ハクザがいる場所はユクタムの師範堂の中なのは見ている師範には分かり切っていた。

 その薄暗い師範堂の真ん中には人が一人座禅を組んでいた。


 師範であれど、教徒であれど魔術教会に入っている人間ならば見知っている人物の姿。

 ゲンドウ大師範だ。


 だが何かが足りなかった。

 下から上を見上げるように確認していく。

 脚、胴、肩、頭。部位は全部揃っている。

 視線がゲンドウ大師範へと近寄ると欠けているものがわかった。

 欠けているのは大師範の頭部の中身だった。ぱっくりと頭が開かれて、中にあるものが無くなっていた。


 アカシアもキヤナも言葉を失う。

 ゲンドウ大師範は魔術教会の最高師範であり、全師範の親同然の人間でだった。

 ハクザとは兄弟子であり、幼少期から慕っていた。


 その大師範が無惨な亡骸となっていた。


「大師範をやった下手人は暗殺ギルドギルド長、織田信長である。

 これはゲンドウ大師範が残した念に残っていて、この場で私が確認した。

 暗殺ギルドは天理教と繋がりを持っており、魔術教会を貶める為にゲンドウ大師範の命を奪った」


「織田!」


「信長!?」


「気は確かだ。

 私もこの見た目で齢はとうに六十は超えているだろう?

 織田信長は延命長寿というスキルを持っている。

 ならば生きながらえていてもおかしくはない話だ。

 齢二百ともなれば、人間の境地に至るものに近いだろうな。

 だがその織田信長が我々の大師範を手にかけたことは魔術教会を愚弄しているにならない。

 大師範はもう少しで魔法使いになれた。真の人間になれたのだ。

 その夢を壊した織田信長に私は憤慨している」


 今にも爆発で全てを破壊しそうなハクザを二人は黙って見ていた。

 当の二人も同じ気持ちなのだから。


「私は憤慨と同時に疑問もあった。

 何故織田信長はこの師範堂まで来られたのか、何故織田信長はユクタムの場所を知っていたのか。 そこから導き出されるのは内通者の存在だ。

 メラディシアンで発動された大魔術。あれを使えるのは師範くらいだ。

 私、アウトバーン、ペコリソ、ダイガイン、バインギルド、ジュリー、ヤオ、ミザタボズは白だと裏が取れている。

 残る灰色がワクマゲ、ドゥーイ、ブレンダー、クラッチだったが全員白だと確定した。

 灰色の彼らはユクタム内で死体として見つかっているからだ。

 その殺しの手口は私は前に見たことがある。

 そいつは禁忌を犯し魔術教会から追放されたソーリャのものだ。

 彼が手引きをしたのならば、こうなってしまったのも頷ける。

 頷き、納得できる……訳がないだろう!」


 爆発を発生させずにハクザは声を震わせ叫んだ。

 感情を爆発させやすいハクザが怒りの爆発を抑えて叫ぶのは珍しいことだった。


「兄弟子を殺され、同志を殺され、納得できるか?

 できない。私は我慢の限界だ。

 大師範が亡くなった今、次の大師範は私である。

 大師範の全権において私はここに宣言する。

 魔術教会を愚弄した暗殺ギルドを抹殺すると」


 ここでハクザの前にユララが突然現れた。

 そしてユララことワタ=シィは全世界において天畔教徒へと発信した。

 ワタ=シィを信仰せよと。


 ユララが暗殺ギルドの一員であるのは魔術教会内でも周知の事実となっていたので、大師範を殺害したのもワタ=シィの策の一つであると結論に至る。


 なおのことハクザの感情が爆発し、魔術教会員達に火をつけた。


「いいだろう。そちらがその気ならば、こちらも受けようではないか」


 こうしてワタ=シィの目論見通りに宗教戦争の火蓋は切って落とされた。


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