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162:滑走

 ダント。


 ダントが天畔教の大司教。

 会ってからはそんな素振りを見せたこともないし、感じさせたこともない。

 完璧に隠し通してきたって言うのか。やはり侮れない男だった。


 ガラルドはダントに今回の事を相談しに行っているだろう。

 ガラルドとダントは一緒にいる。もしもダントが天畔教の大司教として活動を始めているならばガラルドの身に危険が迫っている。

 ガラルドが死ねばイリヤは取り乱して指揮系統が滅茶苦茶になり、支持者の士気が低下する。

 そうなればまた王国は大混乱だ。


 ここまでは考えられる。

 なんならもう起きているかもしれない。

 ダントが王国を掌握する目的はなんだ?国の主宗教を天畔教だけにするつもりか?

 無理だ。国が御触れを出したとしても隠れて他宗教を信仰する。それを狩ったとしても結束が強まるだけ。今の状況になるだけだ。


 ワタ=シィの意思か?

 違う。ユララであるならば趣向が違う。信仰心を高めたいのならば信仰を消費する戒律を使う意味がない。あの戒律の目的は単純に掻き乱し、人間が戸惑う様を嘲笑いたいのだ。この統率され計画された混乱はユララ的には面白さはない。


 ダントもとい天理教が元から国を乗っ取るつもりで計画していた。


 ワタ=シィの言葉とともに動き出したのには理由があるはずだ。

 待っていた?この時を……。

 ゲームが始まるのを待っていたのか!なんらかの理由でゲームの存在を認知しており、そして息をずっと潜めていた。自分達の信仰する神を勝利に導く為に。


 都合がいい解釈か?だがこれが一番辻褄が合う。

 何等かの理由が明らかになればカッチリとピースが嵌まりそうだが、今はこの程度いいな。


 ダントは探さずともイリヤの前に現れる。

 俺が次に行くべき場所はイリヤの元なのだが……。

 騎士であるパミュラとバンキッシュに任せておいてもいいな。


 王国でまた内乱が起きて、立て篭もるのが無理な場合の対処方法を既に確立してある。

 パミュラとバンキッシュがイリヤを連れて逃げ出す。

 今の玉座に居座るほどの価値は無いし、逃げ出すのは一時凌ぎだ。王国が制圧されたとしても、直ぐに取り戻せるように王都外に根回しをしてある。


 が、それも最低でも三日はかかるだろう。


 俺が止めてもいいのだが、ヘクトルがシークォに唆されて俺を待っていた時点で俺の行動は制限されている。

 それが雑魚であろうがなかろうが、行動を妨害してくるのは昔からの付き合いで分かる。


 ずっとシークォをウィンとウォンに探して貰っているが手がかりさえも掴めない。

 あいつは尻尾さえも見せない。本人がゲーム開始まで黙りを決め込むタイプではないはずだ。


 居場所をヘクトルに訊いても知らないようだ。


 イリヤやアマネよりも、ミストルティアナのところへ向かった方が良さそうだな。




「え……ダント?どうしたのその格好」


 ダントは天畔教の大司教の装いを着て、イリヤ達の前に現れた。

 イリヤにはその服装が意味するのをダントのタチの悪い冗談だと信じたかった。


「見たままだ。俺は天理教の大司教で、イリヤお前を天に送りにきた」


「なっ…何を言って。ガラ爺は?」


「これのことか?」


 掌を下に向けるとドサリと肉塊が床に落ちた。

 血肉と臓物とガラルドが身に付けていた服やアクセサリー。

 これと称する物体がガラルドであったものと全員が理解する。


「あっ…あぁ……あああ!なんで!どうして!」


 何を見たのか理解できなかった。

 したくなかった。

 イリヤは両手で目を覆って悲嘆を叫び蹲ろうとする。


「刺激が強すぎたか。

 なに、心配する必要はない、その思いさえも無かったことにしてやる」


 一撃。

 パミュラの持つ大大刀の一撃がダントを襲う。

 パミュラの大大刀を人間が受け止めれば良くて粉砕骨折、悪くて身体が両断される。


 そんな脅威的な威力を誇るパミュラの一撃をダントは片手で受け止めて見せた。

 受け止めた掌には黒い穴ができていた。


 攻撃したパミュラは受け止められたと言うよりも、手応えがない事を実感していた。


「パミュラさん。作戦通りです」


 今にも崩れ落ちそうなイリヤを抱えてバンキッシュは言う。


「確か、逃げる手筈だったな。

 どこだ?一時避難所となりそうな場所。

 この近くではドズのところか?まあ行くならそこだな。

 だが、俺が逃すとでも思うか?」


 ダントは王国の中核にいた人物で、緊急時の作戦も知っている。

 まさかここまでの仲の人間が裏切るとはリヴェン以外誰も想像していなかったのだ。


 ダントは一人でイリヤの執務室までやってきていた。

 それは自信の表れであり、この三人を相手にしても計画を遂行できる力があるからである。


 バンキッシュは嫌な予感がしていた。

 イリヤは奇跡スキルを持っている。その奇跡は死を回避し、周りや相手に事象を押し付ける。

 そのスキルがあるのを知りながらダントはイリヤを殺すと言った。

 強がりでもなく、確定事項のように言った。


 そのことがバンキッシュには引っ掛かりとなっていた。

 だからこそ、綿密に練っておいた逃亡計画を素早く実行する必要があった。


 ここは城の上階、逃げ場はダントの後ろにある扉だけ。


 だとダントは思い込んでいる。


「ヴィヴィアン!」


 パミュラは高らかに名を呼んだ。その名を呼ばれた物はエンジンを鳴らして、執務室の壁を突き破って現れた。


 パミュラの愛馬ヴィヴィアンであった。


「ここから飛び降りるつもりか?自殺してくれるならありがたいな」


 運転席にはパミュラが乗り、バンキッシュはイリヤをパミュラとの間に挟んで片手をパミュラの腰に回し、もう片方の手で銃剣の銃口をダントに向ける。


「私達は自殺などはしません。仇は返しますよ」


「逃すと思うか?」


 ダントの掌にある黒い穴がバンキッシュ達に向けられる。

 その行動と同時にバンキッシュが発砲して、パミュラがヴィヴィアンのアクセルを握って発進させる。


 ヴィヴィアンは勢いよく突き破った壁から飛び出す。

 そしてそのまま重力に逆らわずに落下する。


「このまま落ちるのですか?」


「まさかですよ!」


 パミュラは前方に体重をかけて、城の壁にヴィヴィアンの前輪をつけた後に後輪をつけて安定させる。


 そのままヴィヴィアンは城の壁を走って地上へと辿り着いて、スピードを落とさずに王城を走り去っていく。


 バンキッシュが振り向くと壊れた壁からダントがこちらを一瞥していた。


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