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160:女王様は手を取り合いたい

「ど、どうなるの?」


 王都内、王都外の天畔教徒の改心行為が城内に伝わり、いち早く軍を動かしたガラルドが次に訪れた場所はイリヤの元であった。


「どうもこうも、勧誘まではいいが改心ともなると、法に触れる。

 いくら宗教の自由があるこの国でも、それはやってしまってはいけない。

 だから抑える動きに出ている」


「で、でもそれじゃあ天畔教の人達は宗教間の問題を盾にして逃げてしまうんじゃ……」


 これは相手が望んだ改心である。

 それを改心者に言わせれば、この王国が法を使って介入することはできない。

 抑えるだけでは、もう止まらない。


「現状はそうするしかなくてな」


 ガラルドは眉を寄せながら整った髭を撫でる。


「お前さんだったらどうしている?」


 ガラルドが問いかけたのは、ガラルドがこの部屋に来る時に出会って、同じ目的でやってきた人物。

 出された茶を飲みながら目を伏せていたキュレイズ•デブレ•ラ•メラディシアンであった。


「全員検挙。そして天畔教はテロ組織として排除するのが、後先考えず手っ取り早いやり方だ」


「だがそれはできねぇな」


 そんなことをすれば天畔教から目の敵にされ世界の六割を占めている信者が暴動を起こしかねない。出来ないと言うよりもやりたくないに近かった。いわば最悪の最後の手段。


「丸く収められる案件ではない。

 誰かが不幸を被る形になるだろう。

 それが私達か、国民か、天畔教か。いずれにせよ、明確な強行手段を講じなければならない。

 しかも即決で。元騎士団参謀はどう思いますか?」


 イリヤの執務室には騎士であるパムュラとバンキッシュが常にいる。どんな時にでもいる。

 席を離す時はイリヤが求めた時か、仲間同士で察した時だけであった。


 仮面を付けていてもキュレイズはバンキッシュだと分かっている。

 初見で出会った時は違和感を覚えただけだが、後に確信へと変わった。

 バレたところで言いふらすような性格ではないのでリヴェン達は放置していた。


「私はキュレイズ様の意見に賛成です。

 押さえ込むだけでは埒が空きません。宗教関連の法を作るか、こじつけで檻に入れる。

 まぁこれも一時凌ぎにしかなりませんね」


「君にしてはキレがないな」


「私は元からキレ者ではありません。ただの凡庸な人間でした」


 バンキッシュは考えていた。

 天畔教の改心行為もそうだが念頭に来ているのはゲームの存在が明るみに出たことだ。


 ユララもといワタ=シィが発言した宗教戦争とは神達が行うゲーム。

 主であるリヴェン•ゾディアックが参加する。命を賭けて命を取り合うゲーム。


 前回は大衆認知はしていなかったのは歴史書を見れば明らか。

 更に遡っても大衆が認知しているなんて記述は見つからなかった。


 規定違反。ではないのだろう。

 でなければ、ワタ=シィは世界を巻き込んで、自分の信者を駒にしてまでもゲームに勝つつもりでいる。


 明るみに出た。と言っても全員はそれが誰の戦いかを正しく判断はしていない――させていないと言った方が正しいのかもしれない。


 兎にも角にもバンキッシュはイリヤにこのゲームの存在を知られてはいけなかった。

 知ったのならば絶対にイリヤは手を差し伸べるのだ。


 今はそのことだけがバンキッシュの頭の中で一杯であった。


「現状では被害者は目に付く宗教者だが、無宗教者にまで手が回るのは早いだろう。

 スキルや魔術がいきなり使えるようになって暴徒化している人間もいる」


「既にある集団が武力を持ち、強い意志をも持つ。統率が甘かろうと脅威ですね」


「お言葉ですけど、騎士団や軍、さしてはこの王城内にいる天畔教徒の人ってどれくらいいるんですか?」


 パミュラが一番危惧しなければいけないことを言った。


「対処済みだ。天畔教の奴を一人とそれ以外を三人一組で行動させてある。

 多少は問題ない……はずだ」


「あ、あの…ガラ爺。

 廃品回収隠者の人達って……殆どが天畔教でした……よね?」


 ドズ達は中央遺物教会側の人間であり、中央遺物教会の本部はバルディリス連邦である。

 バルディリス連邦が信仰していた神は魔遺物を作り出した勇者が崇めていた神オーレ。


 ドズに従わなかった廃品回収隠者の多くは天畔教だからである。

 王国内に入れた廃品回収隠者の選定をしたのは危険思想や宗教観念が無かったから。

 だがそれが見抜けていなかったら?

 完璧に偽装されていたら?

 既に伏兵として潜まされていたら?


 ガラルドの顔から汗が湧き出る。


「ガラルドさん?どうされました!?」


 ガラルドの汗の吹き出しように茶を置いて慌ててハンカチをキュレイズは差し出した。


「……天畔教を国家指定犯罪団体にしなければならんかもな」


「そ、そんな!弾圧なんて!

 それじゃあ何も解決しません!

 ちゃんと話し合って、お互いに手を取り合う道があるはずです」


「イリヤ、これは時間を争うんだ。

 悠長にしていられない。

 後先考えずの行動ではない。

 後先を考えてこの国を守る為の行動だ。でなければこの国は消えてしまう」


 生涯をかけて守ってきた国に王女。

 非難されようと、信頼関係が崩れようともガラルドは守り通すと決めていた。


「この話はこれで終わりだ、俺はダントのところへ行く」


 イリヤの案は理想論である。あるかもしれないと、浮ついた案を探している時間はない。現状で絞り出せる手を講じるしかないのだ。イリヤ自身が手を取り合える案を提示できればガラルドも耳を貸してくれていただろう。

 だが若輩者のイリヤにはこの状況を丸く収める案が一つしかなく。

 その案は直ぐにでも全員に却下されると理解していた。

 だから、問題を引き延ばすような発言になってしまっていた。


「ちょっと!ガラ爺!」


 イリヤの静止の言葉も聞かずにガラルドは足早々と部屋を出て行ってしまった。


「女王様、耳をかさないものに言葉は不要。手を差し出しても掴まないものには慈悲なき心を。

 私も失礼させていただきますよ」


 飲み終えた茶を置いてキュレイズは立ち上がる。

 部屋から出る際にバンキッシュが扉を開けて、共に部屋の外まで出た。

 後ろ手でバンキッシュは扉を閉める。幸い廊下には誰もいなかった。


「何かまだあるのですか?」


「貴方に質問したいことがあります。

 貴方はルドウィン教の人間です。

 ではもし、オーレ神がワタ=シィのような行動を起こせば貴方も、今起こっている問題の一部になりますか?」


 キュレイズはルドウィン教会の信者であり、スキル史上主義者。

 もしもオーレが同じ手を使えば敵が更に増える可能性がある。

 そもそも魔神を信仰している人間がいない。


「……私は確かにオーレ神を信仰している。

 スキルを持つことを是としている。

 だからと言って無理矢理開花させ、改宗させるのは間違っている。

 私は信者でもあるが、この国の騎士でもある。その誇りと正義は揺るがない」


 愚痴は言うが布教をしているところを現役時代も見聞きしたことのないバンキッシュは曇りない目を見て、その言葉を一応信用した。


「不躾な事を尋ねて申し訳ありませんでした」


「ん。それでこその元参謀だ。女王様を頼むよ」


 バンキッシュは頭を下げてキュレイズを見送った。


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