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156:神の御子

「妖精さん。僕はどうしてこんな寒い場所で一人っきりなんでしょうか。

 本の中では家族楽しく食卓を囲んで温かいご飯を食べています。

 どうして僕は一人で凍ったように硬いパンを食べているのでしょうか?

 本の内容が真実ではないのでしょうか?

 それともこの現実が真実ではないのでしょうか?」


 目の前にいる球体に羽と尻尾を生やした物体は答えない。


 妖精は答えない。


 答える術がないのではなくて、俺が答えを聞く能力を持っていないだけった。


 幼少期から俺は特別だった。

 裏で世界を牛耳らんフィクサーのような錬金術師の家系に生まれたからじゃない。

 常に人の背後に存在する他人には見えないモノが見えるのだ。


 この世にいるとされているあやふやな存在。

 精霊。そいつらは至る所にいてるが、何かをするわけではない。

 ただいるだけ。


 外の世界を本の世界でしか知らなかった俺でもこの精霊もまた非現実的な存在だと理解していた。


 だからクソッタレの実の両親や虐めが趣味の教育係や優しくしてくれる宅飯係にさえも言わなかった。一方的な会話だが話す時は俺一人の時だけだった。


 それが俺のこの寒くて冷たくて石と鉄格子に囲まれた世界の常識だったのだ。


『よぉ、お前がシィの子孫なんだってな!』


 ある日突然聞いたこともない明るい声が聞こえた。


「だ、誰?」


 周りには誰もいない。

 人はいない。いるのはいつもの精霊とは違う精霊だった。


「もしかして、精霊さん?」


『精霊さん?そうかこの姿だとそう呼ばれちまうのか、おーいシィ。人の姿に戻してくれよ』


 精霊が呼ぶといつもの精霊が現れた。


『何?それが無理だから、この子に頼むんだろうって?

 お前の子孫だろお前が頼めよ。

 はい?俺の栗鼠鮫キキジョウズのスキルで俺しか聞こえないから、俺をここに呼んだ?

 んだよそれ、翻訳者じゃねぇかよ。

 まぁでも久しぶりにお前ら以外と話せるから悪い気はしないな』


 この精霊の発言に口を挟まなかったのは当時の俺は人見知りであり、精霊は人形のような物だと思っていたからだ。

 人形がいきなり意思疎通してきたら困るだろう?


『俺の名はグランベルだ。お前は?』


「カイ」


『おっしカイ。お前はスゲェんだぞ』


 グランベルは語った。


 俺には精霊と交信できる目と耳がある。

 精暦の双瞳と写霊の耳々という。

 目は精霊を見て、耳は精霊の声を聞く。

 何故グランベルの声しか聞こえないかと問うと、まだ未発達だからのようだ。実際歳を取れば全ての精霊と話せるようになった。


 俺は勇者グランベルの仲間であった錬金術師シィ=ワンダ•ゴフェルアーキマンの子孫であり、シィの個性を強く引き継いでいる。

 錬金術師の素質もあり、目と耳の他にも他人の視覚と聴覚にも影響を与える降霊術も使える。


「何で?どうして僕がそんな力を持っているの?

 力を持つ人は外へ出て力を行使しなきゃいけないんだよ。

 僕はそんなに凄い力があるのにここにいる……」


『お前の先祖シィはな、神の資質を持っていたんだ。

 シィの先代シンという男が普遍神オーレが降りていた姿だ。

 しかも変な話だがオーレは降りた際に記憶を失っており自分が神だということを忘れていた。

 だから寿命が尽きるまでこの世界で普通の生活をして、子を宿し、死んでいった』


「神の御子……」


『良くその単語が出てきたな』


「……頭に浮かんだから、悪い言葉?」


『いいや。良くも悪くもない。ただの名称だ』


 グランベルの言い方ははぐらかすような言い方ではなかったが、意味ありげに聴こえた。


「僕が鍛えれば、賢くなれば、ご先祖様とも話せるの?」


『そうだな。その為にはまず特訓だな!特訓!』


「うん!する!僕頑張る!」


 初めての友達は精霊で先祖で、そしてこの寒くて閉鎖的な牢獄から連れ出してくれたのは正しく勇者であった。


 それからは理の糧とされた勇者一行の魂がこの世に束縛されていることを知り、恩返しのために俺は魂集めをした。



 獣の血が存在を記し、魔窟の魔遺物が道を記し、墓場に残った魂の残穢が居場所を記す。

 そうしてコツコツと一行を集めて会話してきた。

 魔王の話。魔遺物の話。オーレの話。理の話。

 そして神々のゲームの話。


 俺はオーレを憎んではいないが、理のことに関しては怒りを覚える。

 だから、今度のゲームが開催される時期に生を授かって良かった。


 この両眼で見た魔遺物を複製し魔力消費なしで使える写暦福慧眼オーバークォーツはオーレが新しく産み堕としたスキル。

 これが俺に持っているのも福音のようなものだ。


 更にリヴェン•ゾディアックというプレイヤーにも出会えて幸運であったとも言えるだろう。


 俺もこのゲームの駒として参加しよう。


 勇者達を引き合わせるのだ。


 あぁ。そうだ。最後の戦士だ。

 戦士の居場所も特定したからグランベルと引き合わせてあげないとな。





「お前のそれ頂くぜ」





 何か嫌なノイズが聴こえた気がした。

 ……俺は、神の御子だった。

 だがその頭に過ぎった言葉は正しい発音ではない。


 本当の発音は、神の忌子。


 俺は望まれない存在だ。

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