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155:ゴフェルアーキマン

「バルディリス連邦解体を祝して乾杯ー」


 そう音頭をとってシスター服姿なのにジョッキに入った酒を一気に飲み干すのはアマネ•ラーゼフォンであった。


 あれから科学者全員に呪いをつけてから織田信久には挨拶もしないで、リヴェンと少し大事な話をしてからメラディシアン王国へと二人で帰還した。

 そしてリヴェンが仲間を招いて王国の宿を一つ貸し切りにして祝賀会を始めたのだった。


「ぷはーいやー流石リヴェンさんですね!

 あのバルディリス連邦を解体してしまうなんて!これで私を追う者はいませんよ!

 いよっ魔王!いよっ!」


 ルドウィン教会のバッジをしているからシスターで間違いないのだが、この囃し立ててながら酒を飲んでいるのがシスターだと?面白すぎるだろ。


「アマネさん、口から垂れてますって」


 その発禁シスターの口元を小綺麗なハンカチで拭いているのはフォーマルなスーツを着た美形な……女性か。

 名はモンド•A•ヤクモ。中性的だが見間違う理由が他にもあるな。


「その女を甘やかすのは程々にした方がいいですよ」


 注意を促すのは仮面を被った長身の男。

 こいつ人間じゃない。リヴェンのような魔遺物でもないとなると…魔族か。

 戦闘能力は高くなさそうだが、リヴェンの仲間であるならば癖者だろう。

 名前は…ガスト=ガイスト=ストレイガか。ガイストってことは幽霊か……。


「あー私のお肉ですわよ!貴女最近太ましくなっているの淑女として恥ずかしくありませんの!恥なさい恥なさい!だからお肉を返しなさい!」


 覗かないでも理解できる。

 ドレスの下から蛇のような胴体を覗かせながらシスターアマネと料理の取り合いをしている貴族生まれの魔族。ミストルティアナ•ツィグバーツカ。


「………リヴェンさん、そちらの方は」


 そして観察している最中ずっと俺を監視していた女。

 死んだはずの女。バンキッシュ•フォン•キャスタインが一段落ついたところでリヴェンに問うた。 この場にいる全員の視線が俺に集まる。


「紹介が遅れたね、彼はカイ。

 バルディリスで友達になったんだよ。皆仲良くしてあげてね」


「カイって、あのゴフェルアーキマンですよね?」


 モンドが驚きつつリヴェンの表情を確認するように言う。


 俺の苗字はかのとかあのとかと忌み名のように呼ばれる。

 有名な家に生まれればそう言うことは耳に馴染むだろうな。


「そうだよ。何か心配事?」


「はい。私達の存在はゴフェルアーキマン家にバレてはいけません」


 ん。なるほどな。

 なんか人間のようだけど人間のようではないのは、このモンドが半人半魔だからか。


 それだったら俺を警戒するのも分かる。

 バンキッシュとガストも同じような目で見ている。

 他の二人は世間知らずか、興味がないかだな。


「ゴフェルアーキマン家の事は俺も知っているよ。錬金術師の家系だってことはね」


 錬金術。

 卑金属を金属に変える術。

 であった。

 今は魔遺物のせいで人間の肉体、魂までもを錬成する程までに上り詰めてしまった禁術。

 ゴフェルアーキマンは悪の錬金術師の代名詞。中央遺物教会とは正反対の悪の道を行く名家。


 魔族だったら警戒するだろうな。

 なんたって魔遺物から魂を抜き出して魔族の複製を作り始めたのがゴフェルアーキマン家なのだから。

 魔遺物の始祖だな。


「俺達は既に手を取り合っているよ。

 ここにいる者には俺の目的を話しておこうかと思う。だから集まってもらった」


「リヴェン様の目的?それはリーチファルト様の遺言を遂行なさるのでは?」


「そこから話すよ」


 リヴェンはこの世界で再起動をしてから最後の魔王リーチファルト•ゾディアックの残した言葉を糧として動いてきた。


 魔族を導いてくれ。


 一般的には魔族は存在そのものがお伽話のような半信半疑の存在。

 実際は自分達が日曜生活品として使っている道具が魔族そのものと言ってもいい。


 この事実は世界的に隠蔽されている。


 知ろうと思えば知れるが、流布して周知の事実に変えることは出来ない。

 そう世界が働きかけているから。


「それが理だ。理は世界の何処かに存在している。そうだね。ボォク」


「うむ。そうじゃ」


 リヴェンの後ろからひょっこりとリヴェン似の子供が現れる。

 この子供を最初に視た時は吐き気がした。憎悪。嫌悪。厭悪。獰悪。兇悪。邪悪。頭の中に流れ込んでくる悪の情報量のせいだった。こうの吐き気をつわりって言ってもいいか?


「ま、待ってください。

 ボォクってへへっ、ネロさんじゃないですか。

 また縁起でもない名前つけますねリヴェンさん」


「お主は余の加護を受けておらんかったら、肉塊も残さんとこじゃったぞ。

 リヴェンに感謝するんじゃの」


 リヴェンのように一瞬に移動してアマネの首元をなぞった。

 最初は何が起こったか理解していなかったが、遅れて恐怖のあまりに悲鳴を上げずに涙目になって震えている。

 わかる。誰だって信じられない。

 受肉した神が目の前にいるなんてあり得ないことなのだから。

 でも実際に前にいる。

 得体の知れない魔神がいる。


「ボォクと信じなくてもいいけど、ボォクとして扱った方が楽だからそうしてくれると有り難い」


「なんじゃ!余は歴とした魔神じゃぞ!」


「話を進めるね」


 理は世界の何処かに存在する。

 街、森、山、川、地面、地下、空。

 どこかに必ず存在している。

 何処かに存在していて、存在している場所から世界に働きかけている。

 摂理を常に作り上げている。


 理を見つけるのは誰もしたことがない。

 そもそも理とは目に見えない存在。

 稀薄で稀有でありもしない存在。

 だが見つければ?見つけられれば、この陰惨じみた魔遺物が支配する世界を変えることが出来るのだ。

 つまるところ、リヴェンはリーチファルトの遺言に殉ずるために理の破壊を目的としたのである。


「それでは今度は理を見つけると言うのですね?

 ボォクさんはどこに存在しているのかご存知なのですか?」


「ほれほれ食うのじゃー飲むのじゃー余の馳走が食えぬと言うのか~?

 ……む?理を創るのは神の行事であるが、創った後の理の行方は神さえも知らぬ。

 そもそも存在しているかどうかも怪しいからの。

 言葉としてあり、措置として動いているだけかも知れぬ。としか言えぬ」


 アマネに無理やり飲ませ食わせと玩具にしていたボォクはそう言う。


「ボォクはこう言うけど。

 俺は存在していると確信した。

 そう確信できたのはカイのおかげだ」


 リヴェンとした大事な話。

 俺の目的と、リヴェンの目的。

 この二つが合致した。

 だからこそ俺はリヴェンに友と呼ばれているし、俺もリヴェンを友と呼ぼう。

 過去の柵や暗澹たる未来なんて俺たちがいれば関係ない。

 面白き世の中が広がる。


「カイさんの目的ですか?」


「ここは俺が話す。

 こんな突拍子も無い場で言えば真実に聞こえるかも知れないから、溜めずに言う。

 俺はずっと勇者一行の魂を探してきた。

 今、俺が所持している勇者一行の魂は魔法使いライト•エヴァ•グリスティン。

 神官キスティ•ヴィラルス。

 錬金術師シィ=ワンダ•ゴフェルアーキマン。

 そして勇者グラベル。

 残りの魂は一人で戦士ガイウス•ヴァイ•ストームレイだけだ。

 何故この魂を集めているか、それはこの魂達が理の糧になってここ。この世にずっと捕われているからだ。

 俺はこいつらの魂を集めて送ってやりたい。

 必死に世界を良くしようとして戦ったのに、消耗品のように理の素材にされ、ここに定着してしまっている。その魂達は俺に訴えかけているんだ。理を壊してくれと……」


 勇者達は死んでからずっと魂だけで彷徨っている。

 普遍神オーレが魔神ボォクを復活させまいと作った理のせいでだ。


「まぁオーレのやりそうなことじゃの」


 他人事ではないのだが、ボォクは食事に手をつけながら言う。


「だから理はこの世に存在している。

 カイさんの言うことを信じるならば、の話ですが」


 バンキッシュは疑り深い性格なのはあったときから知っている。

 両手放しで信用しろなんて言える程俺も豪快な男じゃない。だが。


「俺はリヴェンに信頼された。だから信用に値するだろ?」


 そう言いきってやった。

 俺だから。

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