154:カイの旅を振り返る
「カイ!お前また魔窟を破壊したそうだな!
ワララキオの太子から苦情が来ているぞ!」
書類が山のように積まれた机を力強く叩いたことによって、山は崩れて床に散乱する。
「破壊って、ちょっと通路を塞いだだけじゃねぇかよ。
岩盤崩落なんてよくあることだろ?」
そんな惨状を見ながら俺専用のソファを持ってきて寝転びながらキュプレイナに言葉を返す。
「確かにな。六十二ブロックも崩壊してなければよくあることだな!
毎度毎度、度が過ぎるんだ。後処理するこちらの身にもなってみろ。
憎まれ口を叩かれながら大量の書類整理、王国を使っての信用回復。
すべての皺寄せが私に来ている」
「まあ、それがキュプレイナの仕事。だろ?」
オヤツに持ってきた塩をまぶした干し肉を噛む。
「お前、私が笑っているうちが安全だと考えているようだな」
「お前が笑ってるところは見たことないな。
おっと、待て、それを構えるな。それは俺に効く。
悪かった次からは加減はする」
キュプレイナが手錠を出現させたところで両手を上げる。
流石の俺でもキュプレイナのスキルが発動されれば足掻くことが出来なくなる。
額の前で片手を突き出して謝る。
キュプレイナは手錠を消して上げようとして前屈みになった身体を背もたれに預け、煙草に火を付ける。
「ったく。で?」
煙草を大きく吹かしてから俺に尋ねる。
何がだ?と、惚けてもいいが既に謝った手前なのでボケは一切無しに求めている答えを言ってやる。
「半分は見つけた。残りは半分だ」
「……そうか。……お前最近は実家に帰っているのか?」
「三年前に帰ったぞ」
「それは帰ったとは言わない。
御父上が流行り病を患ったようだ。だから一度は顔を出していた方がいい」
お説教かと思えばお節介だった。
「ああ次の探検が終わったらな」
「私はこの後行けと言っているんだ」
「嫌だね。流行病にうつりたくない。
それに機嫌取りは俺が最も不得意なのは知っているだろ?」
「おまっ……」
流行り病ではないのは語り口調で分かる。
家がキュプレイナに圧をかけているのだろう。
どうしても後継ぎである俺を家に監禁したいのだ。そうしてお家の安泰を願っているのだ。
キュプレイナはそれ以上追求してこなかった。
「お前に皺寄せが来ているのは目元を見れば分かる。
エノンにもギルドのメンバーにも俺は迷惑な存在だ。
何故そんな俺をここに置くんだ?こんな腫れ物俺だったら切り捨ててるぞ」
キュプレイナは煙草を加えながら不適に笑った。
「私を辱めようってか?二度も言わすな」
それは初めて出会った時。ギルドに誘われた時に言われたことだった。
ここには厄介者しかいない。問題を抱えたものしかいない。
私もその一人で、お前もその一人。
互いに傷を舐め合える環境が必要だ。
互いに傷をなぞりあえる仲間が必要だ。
私達のような人間にはそんな世界が必要なのだ。
お互いに利用できるもの利用してギルドの支部長と副支部長になった。
キュプレイナは思想のため、俺はその思想に力を貸して、自分の生きる目的を果たす為に。
「ま、お前の重荷を減らしてやるよ」
「そう思うなら、そこの書類を片付けてくれ」
「それはゴメンだね。事務仕事は俺の柄じゃない」
「カイさん!そっち行きましたよ!」
イブレオが致命的な一撃を入れたが、脇が甘く最後の力を振り絞って逃げようとしている鶏の巨獣がこちらへと向かってくる。
スキルを発動して巨獣狩り専用の武器である大太刀を握り、巨獣へ向けて横へとなぎ払って、細いが一番硬い部分である首を斬り落とす。
成人男性を丸呑みにできるほどの頭部が地面に落ちるのと、慣性を働かせながら巨獣の身体が俺を通過して倒れるのは同時だった。
「イブレオー心臓を刺しても油断するなって言っただろうがー」
大太刀を直しながらイブレオに悪態をつく。
「すみません!心臓が半分になっても動くとは流石に予想していなかったっす」
イブレオの大剣の側に落ちた心臓はようやく動く事をやめた。
巨獣だから心臓への負担が大きいと考えるのが一般的だが、巨獣だからこそ心臓本体が強く、半分に切られても数時間は活動する。
「何事も予想外を予想しておけよ」
「そんな事できるのカイさん位でしょう」
「心構えの話だっちゅうの。
あらゆる事を予想予測しておけば不測の事態に対処しやすいからな。
考えておくだけ損はないし、自分や他人の命を繋げられる可能性が増える」
確かにやれと言われてやれることではないが、イブレオには出来ると確信している。
だから教えるのだ。
「了解です。意識しておきます
……ところでカイさん、今回のこの巨獣、討伐依頼出てるんですか?」
「おいおい俺だって偶には討伐依頼がでてから討伐するんだぜ」
「良かったーこれだけ苦労して討伐したのにまた報酬がないなんて泣けますよ」
「ま、討伐依頼はでてないんだけどな!」
「だろうと思っていましたよ!
はぁ、また無報酬ですよ。カイさん俺結構カツカツなんですよ。
見てくださいよ、髭剃りも買う余裕もないんです」
ここ数日巨獣を追い回していたので身なりが不潔極まっているのもあるが、イブレオは元々から生えていた髭が編めるかのように長くなっていた。
「悪かった悪かった。お前の口座に振り込んでおくし、今日は俺の奢りでいい」
「いよっしゃ!流石カイさん!あ、いつものしなくていいんすか?」
巨獣討伐後に俺が行っている血の採取をしたいないことを思い出したように言う。
「ん?ああもうやった。こいつも違うかったようだな。だからまた付き合えよ」
この巨獣も違う。
生態系を破壊する害獣指定されるのも時間の問題だから殺したことは問題じゃない。
俺の抱える問題はもっと違う。
「今度は絶対討伐依頼のある奴でお願いしますよ!」
「次は期待しておけよ!」
「やらないやつの台詞!」
「きゃはー強いね強いね。見てパンツが分泌液でびしょびしょだよ」
騎士団の服を改造して作ったスカートを巻くって見せられる。
言う通りにしっとりとした陰が作られていた。
「ドギツイセクハラだな!」
「キツイって酷いな。これでもまだ十七歳だぞ」
「何回目の十七歳だよ」
ユララ•マックス•ドゥ•ラインハルトとの初めての対峙。
歴戦の猛者としか思えない身のこなしに、人の嫌な場所を的確に攻撃してくる戦闘技術は感服する。
目的を果たす為に王国の墓所に入ったらいたので戦闘になった。
「これ以上やると壊しちゃう」
「墓場を壊すのは忍びないもんな」
「違う違う、カイ君❤を」
「その名称の後ろに記号つけるの止めろ寒気がする」
「見えるのかな?」
「感じるんだよ」
「……へぇ、それは稀有な感覚を持っているんだ、ね!」
ユララの投げナイフが俺の太い血管を狙って飛んでくる。
どれか一つを弾くモーションを取れば、どこかの血管が傷つく投げ方。
ならばユララが先程見せた魔遺物を使わせてもらう。
腕が四本出現して投げナイフを全て叩き落としてしまう。
結構操作が難しいかったが、初回にしては上出来だと我ながら自負する。
「カイ君❤。それ私のだけど?」
「ああ、あんたのだ。ちょっと借りてるぜ」
「複製スキル?にしてはちょっと違うか。似て非になるスキルかな?」
「想像に任せる」
「うん。大体分かった。君は厄介なやつだね」
「おう。言われ慣れてるぜ」
この後にバンキッシュ•フォン•キャスタインがやってきて本格的な殺し合いをする前に和解という形が取れた。
墓場には目的の者がいて、入手できた。




