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16/202

14:酒場

 すっかり日は落ちて夜になっていた。

 目抜き通りには街灯が灯っているけど、人目の付かない裏路地へと移動して、誰もいないことを入念に確認してから購入した魔遺物を飲み込む。

 喉につっかえる心配もなく、魔遺物は腹の中へと納まった。

 この魔遺物がどれくらいの魔力を吸収できるのかは、自然発生した魔結晶を見つけるか、また仕方ない戦闘に陥った場合とかでないと確認することはできなさそうだな。


 宿屋へと戻るのではなく、酒場へと向かう。

 酒場と言えば飲食をする場所でもあり、情報交換をする場所でもある。

 この王都の現状は外と、郊外の見た情報しか知らない。それだけでもある程度分かるのだが、現場の声と言うのは大事なものだ。理解しているつもりで動くのは最も愚かである。


 宿屋の丸テーブルは飲み客で埋まっていた。

 仕事帰りの兵士達に、農夫達、旅人の恰好をした一団。カウンター席には宿屋の店主と顔馴染みの客。俺達が座っていた場所に一人寂しくしている客。酒場は夕方来た時よりも酒と汗臭かった。


 片付け終わって空いた丸テーブルの上を拭いていた看板娘が俺を見つけて歩み寄ってきた。


「あら、お客さん、本当にまた来てくれたんだ。てっきりおべっかかと思ってたよ」


「俺はこんな素敵な女性に嘘はつかないよ」


「ふふ、ありがとう。今は混んでるから、カウンター席でもいい?」


「うん。そうさせてもらうよ。あ、エールで」


「はいよ」


 俺はカウンター席の端っこの方で一人寂しく座っている眼鏡をかけた男から一つ席をあけた隣の席へと座った。


 きょろきょろと目線を泳がしてから、隣にいる男へと顔を向ける。


「彼女、可愛いよね」


「は?あ、あぁ、そうだな」


 男は急に話しかけられて戸惑いながらも答えた。


「俺はリヴェン。よろしく。今日初めてここに来たんだけど、彼女に一目惚れでさ。可愛い顔している、俺好みだよ。にしてもここ、熱くない?」


「そうかよ」


 四文字の言葉の中に話しかけるなとの意味合いも含めた口調。


「エールおまち。もうザバと仲良くなったの?」


「ありがとう。そうそう好みの女性の話をしていたんだよ、ね、ザバ」


「あ、あぁ」


 バツが悪そうに言うザバ。


「あぁ、そうだ、チップだ。おっと」


 この酒場の支払いでできた銅貨を床に落とす。銅貨は看板娘の足元へと転がって行き、そこで止まる。看板娘が屈んで拾った。


「おっちょこちょいだね」


「ごめんごめん。汚いから、こっちと交換しよう」


 銅貨ではなく大銀貨を出して言うと看板娘は拒んだ。


「いや、いいよ、そんな大金。これを有難く貰っておくよ。追加ご注文は?」


「お腹はまだ空いていないからやめておくよ」


「そう。チップありがとうね」


 去っていく看板娘に営業笑顔で手を振る。ある程度看板娘が離れたところで会話を戻す。


「可愛いよねぇ。付き合っている人とかいるのかな?」


「なんだよ、てめぇ、喧嘩売ってんのか?」


「いいや。世間話さ。ほら、見てよ、あの引き締まったお尻。最高だね」


「ベランナを変な目で見るんじゃねぇ!」


 ダン!と飲んでいたジョッキをテーブルに叩きつけて睨みをきかせてくる。


「あぁごめん。君は胸の方が好みだったね」


「なっ、何言ってやがんだ!」


 かなり焦った様子で唾を喉につっかえながらザバは返答する。


「君の眼鏡度が入ってないよ。それに魔力を感じるし。良くないなぁ、そういうのは良くない。やっぱりここ、熱くない?」


 ザバの眼鏡には度が入っていないのは横から見れば明らかだった。

 入店当時からベランナをずっと気づかれない様に視界に入れていたし、俺の方へ来た時も見ていた。

 眼鏡から魔力反応がするし魔遺物なのは確定的だった。ザバがベランナに犯罪行為をしている確率は低かったので、ベランナの胸元が良く見えるように小銭を落とし、ザバを観察した。

 男だったら胸元見ちゃうのは分かるけど、眼鏡の弦を触りながら凝視する意味はない。


「な、何のことを言っているんだ?」


「あれ?分からない?君がその眼鏡で悪いことをしているって事だよ。なんなら俺があの兵士達の前で説明してあげようか?」


 悪いことをしているのだろうと踏んで、ベランナに関して何かを隠している様子なのでカマをかけてみる。

 ザバはジョッキの中にある飲み物を全部飲み干してから言う。


「な、なにが目的だ」


 カマにかかったザバは近くに見回してから観念したように酒場の喧騒に掻き消えない程の小声で話す。


「目的ね。君は俺の目的が何だと思う?」


「なっ、分かる訳ねぇだろ」


 この場所の熱気のせいではない汗が、酒が入って赤くなったザバの顔から湧いた。


「やっぱり熱いね。君は分かっているだろ、話そうとしないのはどうしてだ?」


「お前は魔遺物が好きか?」


「うん?・・・まぁ嫌いじゃないよ。それが話せない理由?」


「あぁ、そうだ。お前が魔術教会の奴らじゃないことが分かった。そのせいで余計目的が分からなくなった」


 魔術教会。三百年前にもあったな。魔術の先にある魔法を会得する為に作られた宗教組織。

 そこの信者であり、魔法使いの称号を持つ女が勇者の仲間だった。あの女も勇者には劣るが、人族の中では滅茶苦茶な強さだったな。


 ザバは俺の事をそんな魔術教会の人間だと勘違いしたようだ。

 俺はエールを口につけて喉を鳴らしながら飲む。ザバはその様子を同じように喉を鳴らしてみていた。


「俺はその魔遺物をどうやって手に入れたか聞きたいだけだよ。魔術教会の人間じゃない」


「こ、これは特殊な裏ルートで手に入れた。値段もそれなりにする、が、値段に関しては、お前は心配無さそうだな」


 大銀貨をチップにするくらいだから金持ちって発想を植え付けておいたのと、魔術教会の人間じゃないと分かった安心感で、汗を拭いてザバは簡単に答えてくれた。


「その裏ルート、教えてよ」


「なんでお前なんかに」


「おーいベランナちゃーん」


「おっお前!」


 俺が手を上げてベランナを呼ぶと、ザバは慌てた。


「さぁどうする?裏ルートを教えるか、俺が彼女に真実を教えるか」


 俺の声に応えてベランナが注文を聞きにこちらへと歩み寄ってくる。

 俺はニヤニヤとした表情を作りながらザバを黙って見据える。


「わかった。教える。教えるから」


「ご注文は?」


 ベランナが来るギリギリで言った。


「ザバにエールを。とっても喉が渇いているはずだから」


 ザバは大きく息をついてから肩を落とした。

 飲み物が直ぐに持って来られて、ザバは直ぐに手をつけて半分くらい喉の奥へと通らせてから約束通り語ってくれた。


「中心街に中央遺物協会が運営している魔遺物博物館がある。

 そこの売店で“脚は売れました?”と言う。すると売店員が“腕ならあります”と言う。そして“指輪を頂けますか?”と言えば、裏へと案内される。

 そこからの値段交渉形なりは、あんたに任せる。いいか、全て自己責任だぞ。俺の名前は出すなよ」


「どうしてそこまで魔術教会を警戒しているんだ?王国兵士の方が警戒すべきなんじゃないのか?」


「へっ、王国兵士なんて雇われの傭兵と変わらねぇよ。見つかったとしても金を握らせればなんとかなる。

 けど魔術教会の奴らは違う。違法な魔遺物を所持していると分かれば、その国の法律なんかお構いなしに、誘拐して、自分達の信条を徹底的に叩き込みやがる。奴らの方がよっぽど警戒しなきゃいけねぇんだよ。

 それに今日は魔術教会の奴らがウロウロしてやがるからな。博物館からかなり貴重な魔遺物も盗まれたって噂だし、正直言って今、博物館に近づいて買い物するのはおススメしないぜ」


「ご親切にどうも」


「けっ、エール代だよ。いいな、俺の名前は出すなよ!絶対だぞ!」


 念入りに言われると、言いたくなるのが天邪鬼な性格をしている俺。

 ザバから聞ける情報はもうないかな?後は兵士達から近況とか聞いておきたいな。


感想、評価等々お待ちしております。生きる糧になります。

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