153:カイの旅
バルディリスにはギフト持ちがわんさかいる。
身体に組み込まれた魔晶から引き出される力は鍛錬もなしに師範代レベルの魔力を持つ。
そこに鍛錬を加えることで師範レベルまで引き上げられる可能性を秘めている。
現に師範レベルの奴らが五人いる。
狂い咲きの子女アイシャ•ワークス。
鉄壁の砲弾ベンジャミン•マクレーン。
槍術の魔術師リハ•ボーガ。
重力の機構士ダイコン•ドゥーマム。
天雷の庇護者マ•ウヴ。
この五人が魔術教会の中堅師範と同等の力を持っている。
その五人が俺の目の前でなす術もなく倒れている。
己の強みを活かした戦闘して尚、戦闘不能に陥っている。
「これが主力部隊ならバルディリス連邦は案外脆いものだね」
リヴェンは全員を地面に倒れさせた後にそう言った。
この五人を一斉に相手して汗水一つ流さず言う。
俺でもこの五人相手だと、少しだけ手こずるだろう。
あの時リヴェンの攻撃を二本の腕で受け止められたのは試されていたからなのだ。
本気を出されていれば全部の腕で受け止めないといけないだろう。
そもそもこいつと本気でやり合うことになれば………そうならないことを願うしかないな。
俺も規格外と呼ばれたりするが、リヴェンも俺から見ても規格外だった。
「あ…あ…」
バルディリスの最高権力者フェデラル•コーチンが腰を抜かして立ち上がれなくなっていた。
同情はしない。魔遺物を使った人体実験をしてきたのだ。それが任意だろうが、故意であろうが、罰を受ける時が来たのだ。
「も、目的は何だ?か、金か?国か?わ…私の命か?」
「全部」
「はえ?」
「金も土地も物資も、君の命も、君の存在も、この国の存在も全部だ。全部頂く」
そうやってきただろうに、そうやって武も魔も国も力をつけてきただろう。
全てを奪い、吸収してきただろう。今回はされる立場なだけだ。
「お、お前はゴフェルアーキマンだろう?お前が首謀者か、お前がなんぐぅ」
「目の前で俺が会話しているのに他の人と会話し出すのは感心しないなぁ」
フェデラルの両頬を片手で掴んで視線を俺からリヴェンにへと強制的に向けた。
「君がここの最高責任者で間違いない。それでいいね?」
フェデラルは小さく頷く。
「じゃあバルディリス連邦を解体してもらおうか」
「そんなのは無理だぐぅ」
「無理とかじゃない。やれ」
リヴェンの気迫は生身の人間には圧倒的に害悪過ぎる。
身体から放出されている魔力が圧となってフェデラルの身体に悪影響を与えている。その証拠にフェデラルの顔色が悪くなっていく。
「か…解体するには、責任者の印の他に各地域の知事の印が必要でありまして、私一人の権限では事実上の連邦解体は無理なのです」
フェデラルの言っていることは事実。
それに壊したところで名前をコツタリアに変えて復活する。
フェデラルはそこまで考えているが、まさか日出がコツタリアを制圧したとは考えていない。東も西もコツタリアは日出の属国になる。では残ったバルディリスはと言うと。
「関係ない。早くやるんだ」
掴んでいた頬を押し除けるように乱暴に離す。
フェデラルは腰が抜けている為に後退りをしながら必死に這いずり逃げようとする。
まだ逃げる意思があるのだとリヴェンに悟らせてしまった。
行手にリヴェンが現れて首根っこを掴んで持ち上げる。
這いずって逃げようとしている間に移動して持ってきていた机と椅子にフェデラルを乱暴に座らせた。
そして紙とペンと報告用魔遺物を机の上に置く。
「やれ」
用意周到に脅している。
フェデラルが震えた手でペンを走らせる。ミミズがのたくったような文字になっていたが、筆跡証明よりも声帯証明があるから問題はないが、書面は大事である。
蓄音魔遺物を取り出して起動して目の前に置く。
ニコリとも笑わない。表情のない真顔。
圧だ。圧迫するかのように場の空気を縮めていく。
目の前の男の寿命を縮めていく。
「わ、私、バルディリス連邦総督フェデラル•コーチンはこの場でバルディリス連邦解散を宣言します………こ、これで助けてくれるんだな?」
「助ける?俺が?君を?何を言っているんだ?」
「は、話が違う!」
「俺は誰も助けないよ。俺はこの場に奪いに来たんだからさ。
さてこれでバルディリス連邦は無くなったね。次は君達の番だよ?」
「私……達?」
「そう!君達が奪ってきたのを俺が君達から奪う番だ」
フェデラルは嫌な想像が頭に過ぎって青ざめた顔を真っ青にしていく。
ここでこの場に来て初めてリヴェンは本調子かのように笑った。ただの悪戯な笑顔のはずだろうが、目の前で見ているフェデラルにはどう映っているのか。
「ひっ、や…やめろ」
リヴェンはフェデラルの胸に掌を当てた。
「……?な、何をした?」
身体には異常は無く、ただ胸に触れた。
大多数の人間から見ればそのようにしか見れない。
だが俺から見れば残酷にも程がある行為だった。
「今、君の胸には刻印が刻まれた。
その刻印には呪いが付与されていて、刻印の条件を破れば発動する仕組みだ」
「刻印の、条件?」
「条件は金輪際君達は名前を持ってはならない。たったそれだけ」
「名前を持つって、私は」
「まあ最後まで聞きなよ。
名前を持ち、名を名乗れば呪いは発動する。
発動したら俺の手が心臓を握り潰す呪いだよ。試しに名乗ってみる?」
「私は……」
気丈な者なら、尊厳ある死を望むのならここで名乗るだろう。
そうして自分の名を記憶させたとした死んでいくだろう。
だがこの男はただの魔術師崩れの男。そんな度胸ない。
だから受け入れた。
「私は、誰だ?」
「君は誰でもないよ。
この世に存在すらしていないんだ。
さあ行きなよ君は自由だ」
受け入れた瞬間に男は呆けたようにフラフラと立ち上がってこの場を去っていく。
リヴェンはこのスキルを出会った科学者達に使っている。
この場にまだ使っていない科学者達の資料があるから全員に使いにいくだろう。
俺の予感は当たっていた。
こいつを放置しておけば大変なことになる。
ギルド員としては看過してはいけない。
しかし、俺の正義の秤は均衡を保っていたのであった。
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