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152:カイ

「コツタリアの第一工場から第八工場まで、リヴェン•ゾディアックに襲われ、中の魔遺物を根こそぎ奪われたようです」


 ハナワタリ•風香は送られてきた情報を昼飯を食べている信久の前で読み上げる。


「やっぱそうなっかー」


「予想通りですね。

 このまま彼は進軍するのですかね?そうなれば挟撃になりますが」


「あいつは軍と同じ動きはしねぇだろうよ。

 俺等の掌の上では踊りたくねぇって顔してたろ?

 だから最初にコツタリアを狙ったんだよ。

 まっ!それも!俺等の掌の上なんだがな!」


 信久は豪快に笑い分厚い肉を噛みちぎる。  


 こう言うも、リヴェン•ゾディアックは自分達の一歩先に駒を進めているような気がしてならなかった。


「リヴェン•ゾディアックの他に仲間がいるらしいです。

 これが送られてきた映像です」


 渡された魔遺物に映っているのはリヴェンともう一人、パッと見て特徴が無い男が、こちらの魔遺物に向かって笑って手を振っていた。


「おいおいこいつは、また面倒な奴がいたもんだな」


「ご存じで?」


「むしろお前が知らねぇのが不思議だわ。

 名前くらいは聞いたことがあるだろ。ゴフェルアーキマンだよ」


「あの?」


「かの」


「では三人衆を向かわせますか?」


「いやいい。今はこいつらに手を割いてられん。

 経過観察しておけばいいさ」


「そうなの?てっきり君は俺と戦いたいものだと思っていたけど」


 俺がカイを連れて信久のいる船上へと戻ってくると、丁度二人が内密な話をしていたので割って入ってみた。


「礼儀知らずだなぁお前は」


「礼儀は儀を通せる相手にしかしないのがモットーでね」


「よう、俺はカイだ。リヴェンの監視役だ。よろしくな」


 一触触発な雰囲気にも関わらずカイは自己紹介をする。

 コツタリアでは他の目があったから俺に対してはしなかったが、日出側にはするのか。

 どちらがこの戦いの勝者になるのか肌で理解しているようで。


「てか君はいつから俺の監視役になったのさ」


「元々そのつもりだが?不都合があるか?」


「ある。君に邪魔されかねない」


「邪魔はしない監視してる。現に俺はお前の邪魔したか?」


 工場全てを回って魔遺物を製造して全て食べた。

 コツタリアにある新しく造られる魔遺物は殆どと言ってなくなった。

 その作業をカイは後ろから眺めているだけだった。偶に仲間と間違われて襲われていたが、全て自分で対処していた。

 邪魔はしていない。


「なんか目障り」


「なんかって、酷い言い草だな」


「おいおい俺を置いて話すなよ。そもそもリヴェンは認めたがお前は乗船許可はしてないぞ」


「そうなのか?どうすれば許可を貰える?」


「あ…」


 とばっちりを受ける前に俺は二人から距離を取る。


「どうやってだ?そりゃあ、俺を満足させたらよ!」


 信久は刀を抜いて上段の構えを取る。

 そしてそのまま間合いにいるカイへと向かって振り下ろした。


「おお、やべぇな。アッシュの爺さんより極まっている太刀筋だわ」


 カイの背中からは腕が四本生えて、生えた二本の腕で信久の刀を白刃取りで止めていた。

 その四本腕は見間違うことがなく、ユララが持っていたガンヴァルスの魔遺物そのものだった。


 本物か?試すか。


 俺も匡影を取り出して背後からカイを襲う。

 しかし後ろを振り向かずに二本の腕で呆気なく止められる。


「なんだぁ!リヴェン!摘み食いは行儀が悪いぞ!」


「少しカイに興味が湧いてね。あと君には儀が無いと言っただろう」


「言ってねぇよ!」


「言ったね」


「おいおい二人とも俺の間で言い合いしないでくれよ。

 遣り合うなら二人でどうぞどうぞ」


 お互いに力を入れてもピクリともしない。

 やはりこの手からは魔力を感じないのは俺の勘違いではなかったようだ。


「てめぇ余裕だな!」


「そう見えるか?織田信久とリヴェン•ゾディアックに挟まれてるんだぞ?」


「だったら本気を見せてみろ!」


「手は既に見せているって事だよ。やっぱり君が邪魔だね」


 まだ両手が塞がっている信久の腹部に蹴りを入れて飛ばしてしまう。

 信久はまた天幕の外へと大きな物音を立てて吹き飛ばされた。


「何か聞きたい事があるのか?それとも邪魔になったから消すのか?」


「邪魔にならないとこで話そうか。

 信久、乗船許可の無いカイを降ろしてくるよ」


 そう言ってから匡影を閉まって、カイに触れて、次の目的地であるバルディリスへと飛んだ。


 バルディリスはコツタリアにいた時に絵葉書と地図で認識したので、絵葉書の場所に飛べる。


 絵はバルディリスのシンボルスポットである邪神ボォク像がある閑散とした観光地。

 ボォク像は首が折れ、腕が折れて、蔦が絡みつき、苔が生えている。

 これが正当な扱いとして掃除修繕されることはない。


 観光地と言ってもあまり手入れがされていない場所だった。


「で?話ってなんだ?」


「君のその手について聞きたい。それは魔遺物ではないよね?」


「……そうだな」


「俺は君も知っている通り魔遺物を食べて力を付ける。

 その内訳がどうなっているか教えるよ。食べた魔遺物の力が使えるようになるんだ。こんな風に」


 手から爪を生やしてみせる。

 それを見てカイは顎に手を当てて考えながら呟いた。


「そりゃあ。

 あー……まずったか?

 ……なんとかなるか。

 そこまで言ってもらってなんだが、俺が言えるのは一つだけだ。

 これは魔遺物ではなく、俺のスキルだ。

 はっきり言って他人に手の内を晒すのは気が引けるな」


「そうだね。

 俺も君も他人くらいの関係でいい。言ってくれてありがとう」


 スキルとだけ教えてくれたなら充分だ。

 ユララの持っていた魔遺物が本物で、カイが出しているのは複製のようなものだと考えられる。

 そう考えると、カイの前で無闇矢鱈にスキルを使わない方がいいのかもしれない。


 まあ魔遺物を複製するスキルと仮定しての話だが。


「さて!俺はこれからバルディリスの中心に行って中央遺物協会を潰すけど、君はどうするんだい?」


 ここでお別れかどうか、見極めさせてもらおう。


「はぁん。そういうことか

 ……だったら手伝うか」


「え?人を殺すかもしれないよ?」


「ガキの使いじゃないんだしな。

 ここだけの話だがな、魔遺物なんてあってはならないんだよ。

 お前も俺も中央遺物協会も、存在しない方がいいんだよ」


 カイはえらく神妙な面持ちで言う。

 心の支え、行動の指針になっているのが今の言葉の中にあるのだろう。


 邪魔をしないなら連れて行くだけ。


「概ね同意だよ。じゃあ存在してはならないものを消しに行こうか」


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