151:ギフト
俺の名前はビアンコ•スココフィッチ。
中央遺物協会が管理しているギルドに所属している。
中央遺物協会の傘下にあるギルドにはギフトと呼ばれる人間がいる。
ギフトは魔遺物を最大限に引き出すために身体の中に魔結晶を加工した魔晶を産まれたときに埋め込まれている。
そこで適応すれば、魔術の素養を鍛えるために毎日鍛錬と訳の分からない液体を注入される。
最初に適応しなければ死。
この過程でさえ適応しなければ死ぬ。
そして身体が出来上がり、一般の人間と同等に成長したら、この連邦のために命を尽くさなければいけない。
俺達はそう教育されている。洗脳されている。
そうでなければ、死ぬのだ。
俺は見てきた。ずっと見てきた。覚えちゃいないが隣で生命活動を終える瞬間を生まれた時から経験してきた。
今回は日出軍が寄越した情報のおかげで現地にたまたま居たので、このコツタリア第一研究所の護衛を任されている。
これまで戦争や魔物討伐に出向いてきて、適応して生き残ってきた。
その生き残ってきた直感が告げている。
俺は、今、この場で死んでしまう。
だから逃げろ。と。
幸い俺には教育的洗脳がかかりにくく、かかった振りをしていた。
だが苦しくても、辛くても逃げるよりもこの生活に満足していた。
金はあるし、この年まで生き残ったなら殆ど自由だ。
嫌な上司はいたけど、逃げるリスクの方が大きかった。
目の前にいる男。
要注意危険人型魔遺物。リヴェン•ゾディアックを前にするまでは逃げるなんて選択肢は現実的では無かった。
「無理」
適応した武器を構えて最初に出た言葉はその一言だった。
こいつ全てのプラントを回って、そのプラントの魔族を全て魔遺物に変えて、俺がいる(多分最後の)プラントまでやってきている。
だとしたらそれまでに何人もの護衛兵がいたはずだ。
日出軍が上陸しているし、こいつが来るからもしれないし――実際に来ているけども!
だからこそ要警戒、重警備の体制をとっていた。のにも関わらずここまで殆ど音沙汰無く進行して、息も魔力も切れていない。なんなら魔力が大きすぎて計器が爆発する始末。
そんな相手を目の前にして、如何に適応できるであろう。
この場に置いての適応は死を意味するだろう。
「君は軍装じゃないね」
武器を置いて逃げるか模索していると、問われた。
脂汗が滲む。軍人じゃなきゃ見逃してくれるのか?戦う意思を見せなければ見逃してもらえるのか?だったら今すぐにでも武器を捨てて白旗を上げよう。
「ギルド員か。バルディリス支部のにはお世話になったよ」
世話になった。つまりあいつ等か。
奴隷エルフのジツガイムに、笑顔が下手くそなベップに、再起不能になって廃棄されたヘヅィか。 ジツガイムもベップも再教育受けるほどのトラウマを植え付けられた。
ヘヅィはこいつと会っていないけども再起不能だった。何があったかは把握できる。
ガチのマジで命の危険を感じたんだよな。
今までは活殺自在だったのに、格の違う相手に生殺与奪されたんだよな。
そうじゃなきゃ生半可な脅威では俺達に施された教育は解けやしない。
「怯えと敵意」
俺の背後から声がした。
振り向けない。
だが状況は把握できる。
リヴェン•ゾディアックが基板を操作して魔遺物を製造している。
それをどうする?製造してどうするんだ?持ち帰る?持ち帰れる量か?そんなちっぽけな量は製造していない。ただ創っている?何の為に?
「怯えているのも分かる。君の身体は正直だ。本能が逃げようとしている。
なのに、君の目には敵意が宿っている。一矢報いようとしている。爪痕を残そうとしている」
そんなはずはない。俺は今にも脱兎の如く逃げ出したい。開いた出口へと駆け出してしまいたい。
だってそうだろう?無謀だと分かっている戦いに本気になるわけ無い。命をかけられる訳がない。 俺にはそんな高尚なものはないんだ。
「バルディリス連邦っていうのはつくづく外道だね。
君の心を操作している。彼らも死に体になってでも立ち向かってきたよ。
何にそんなに尽くせるのかと思っていたけど、それは勘違いだったようだよ」
「俺が?操作されている?」
「ようやく会話になったね」
「何を?言っているんだ?俺は一言しか喋っていない」
そう言うとリヴェン•ゾディアックは悲しそうな顔をした。
哀れんだ目を向けた。俺が誰にされても堪忍袋の尾が切れる目だった。
「君は、君たちは無自覚な兵士なんだろうね。
考えとは違い言葉が先行している。思ってもいない言葉が先に出るんだ」
分からない。こいつの言っていることが逐一わからない。
「可哀想な存在だ。逃げようとしても逃げられない。逃げようとすれば戦ってしまうんだね」
リヴェン•ゾディアックの顔が目の前にあった。
そして俺の武器である魔遺物を物凄い力で取り上げてから、口の中に入れて食った。
「ふむ。君は最初の犠牲者と言ったところだね。安心して痛みはないようにする」
武器は何もない。それでも俺は逃げもせず、目の前の存在に食われるのを抵抗しなかった。
リヴェン•ゾディアックが俺の身体を突き刺した。
その後ビアンコ•スココフィッチの存在を知る者はいない。
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