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147:嫌な魔王

 身体を取り戻した俺がまず行ったことは過去に記憶している場所を巡るとの行動。

 北はサナカナの黒海。

 西はガンガホボルドの丘陵。

 南はダレソカレ湿原。

 東は九山火口。

 全ての場所に魔族はおらずに、代わりにいたのは人間だった。場所は、風景は何も変わっていないのにまるで魔族が人間に突然変異したかのように思えた。


 ウィン達の一族、政策に従い運良く生き延びたラヴィアンとミストルティアナにガスト。

 他には?他の魔族とは出会えていない。

 姿を隠すのは容易ではない。

 エルフ族のように稀有な場合を除けば、魔族との世界からはみ出し者になった存在が生き続けるのは難しい話だ。


 これだけ人間が存在しているのにも関わらず、魔族を見かけたとの情報が無いのが明らかな答えである。

 火のないところには煙は立たない。


 だが俺は諦めてなどいない。


 一部でいい。

 一縷の望みでいい。

 この手で掬える一滴でいい。

 それがリーチファルトの願いなら、俺は叶えなければならないのだ。


 それが手向けだから………。


 だからバルディリス連邦の存在を消す。

 その行為で世界の情勢がどう動くかは考えには考えたが、俺自身が叶える為の行動には関係なかった。


「リヴェンさん!えっ!えっ!なんで!どうして!」


 イリヤのいる執務室に入ると、おめかしして、王女様の格好をした、少し背が伸びたイリヤが驚きを隠せずに俺を指差していた。

 

 執務室には他にもパミュラとバンキッシュがいたけど、どちらもイリヤ同様驚いて声も出ないようだった。


「さっき復活した。それでこれはお土産。

 これがイリヤので、こっちがバンキッシュの、それでこれがパミュラね」


 知っている地域の東西南北を、旅人と称して観光したので、何処かの地域でお土産になる物を購入しておいた。


「わあー、聖剣グランべライザーの対となる妖刀朧乃守月読のキーホルダーですね。

 いや、これ明らかに私だけ子供扱いしてませんか!

 いや、違いますよ、言いたのはそこじゃなくもないですけども!どうしていきなりですか!シンクロウさんの話ではもう少し時間がかかると言われていましたが!」


 ご当地キーホルダーは気に入ってくれたようだ。

 因みにバンキッシュには九山火口近くにしか咲かない九重の花から獲れるエキスで作った香水。

 パミュラにはダレソカレ湿原の水に濡れたら燃えるジャミラハスを特殊な技巧で加工したジャンプーを丁寧な包装で渡してある。


「ズルをした。だからここにいる」


「滅茶苦茶に端折るじゃないですか。説明文二百枚提出させますよ」


「へえ、執務が板について来てるんじゃない?」


「馬鹿にしました!絶対馬鹿にしましたね!」


「褒めただけなのに、ねぇバンキッシュもそう思わない?」


 いつもの調子でバンキッシュにイリヤを諫めて貰おうと話を振ったら、お土産を机に置いてから、優しく俺の頬に触れる。


 ペタリ、ペタリと、存在を確認する。

 ここに俺が肉体を持って話しているのだと確認している。

 なんなら親指で頬を伸ばされたりもされちゃう。その華奢な親指が口の中に入っても気にしない。


 バンキッシュの瞳が俺の瞳を覗き込むように捉える。見透かしたような俺の目が反射している。


「本人確認中です」


「眼球認証取り入れたんだ」


「歯形認証も、です」


「多機能高性能になったんだね」


「リヴェンさんとイリヤさんの為です。色んな技能は身につけてないといけませんからね」


「それで?本人だと分かったのかな?もしかして人を食べる狼さんかもしれないよ」


「でしたら、私も狼なので群れから外れない限りは食べられませんね」


 下手な冗談をも間に受けずに、更に上の冗談で返される。これはお手上げだ。


「イチャイチャ反応を検知しましたわ!

 なぜ!どうして!ここには女性しか居ませんのに!百合の花園!

 ってリヴェン様!はわわわわ!幻覚!?ゴフッ!吐血は現実の証!夢!正夢!?でしたらなぜ私の夢に他の女がリヴェン様とイチャついていますの!………死のう………」


 変な検知システムを導入したミストルティアナが扉を強く開け放って参入してきた。


 半年でここまで情緒不安定になれるのか。いや、これも心の拠り所である俺がいなくなった弊害だな。


 頬にあるバンキッシュの手を優しく取ってから降ろす。


「俺と出会えたのに死ぬの?」


「半年振りですわよ!正妻である私ではなく妾と先に会うなんて……死にたくなりますわ………」


 んー、成る程。体内感知スキルで調べたところ、ミストルティアナは幻覚剤で悪い方向の幻覚を見ているらしい。治しておくか。


 顔面を挟むように持って体調調和のスキルを使って幻覚成分を抜く。

 するとグルグルと渦巻いていた焦点が一点に集中する。


「ああ、リヴェン……様?」


「そうだよ。はい、これミストルティアナにお土産」


「リヴェン様!!!」


 抱きつくのは恐れ多いか、恥ずかしいのか、天頂部をぐりぐりと腹に擦りつけられる。爬虫類系の親愛行動だと思っておく。


「俺が帰って来たのにこの人数だけ?」


 ミストルティアナを落ち着かせる為に頭を撫でながらイリヤ達に問う。


「えーっと、ガストはガラルドさん達とエラゴンへ、ウィンさんはギルド商会の本部へ、ウォンさんは魔術教会の会合へ、モンドさんとアマネさんは魔遺物を探しています。

 私とバンキッシュさんはイリヤ様の騎士ですし、ミストルティアナおば様はそんな感じでした」


 まさかのパミュラが説明してくれた。もうあの時の幼さや陰りは見えない。これが本来のパミュラとみていいな。


「だからおば様と言わないでくださいまし!そもそも貴女も殆ど年齢変わらないでしょう!」


「わ、私に歳とかは関係ないから」


 亡霊や幽霊に歳は関係無い。だって死んでいるから。

 精霊のような概念に近い存在だ。


「リヴェン様!首無し騎士が年齢ハラスメントをかまして来ますわ!即刻首を撥ねましょう!」


「それよりも俺のお土産気にならないの?」


「開けさせていただきますわ!」


 ミストルティアナには黒海で獲れるアラハバキザメの内臓の中にあるジェル。これは保湿効果と魔力を受けすぎない効果がある。肌の弱いミストルティアナ用の代物だ。


「リヴェンさん」


 イリヤが気まずそうに俺を呼ぶ。

 察してパミュラとバンキッシュはミストルティアナを連れて執務室を後にした。気遣いができる人たちだことで。


「俺はなんとも思ってないから、謝ったら怒るからね」


「すみ………え?」


「謝ったら、イリヤが謝りたいだけだと捉えるから」


 イリヤはグランべライザーで俺を破壊した事を謝ろうとしていた。

 破壊したせいで周りの状況が一変したのに責任を感じていた。だから謝りたかった。


 謝ることが正しいと言う輩がいたとしても、責任を感じた事実を、謝罪する行為で否定してはいけない。

 傷をつけたなら、舐めて治すのではなく、傷を残したまま手を取り合えばいい。

 傷は付けられた側の問題だ。


 言葉で上塗りしても、謝られても傷は治らない。

 だから今回の場合は謝罪はイリヤの自己満足で終わる。


「い、いやな人ですね」


 感心したように言われた。


「嫌味は言っていないけど?」


「でしたら、生粋の嫌な人です!」


「二つ名にはちょっとセンス無いよ。誰も頭の上に付けたがらない」


「嫌な魔王です!」


 暫くして互いに軽く笑い合った。


「魔王だと認めてくれるんだ」


 最初から半信半疑であり、モンドの発言でさえも信じようとしていなかった。

 そんなイリヤが俺を魔王と認めた。


「シンクロウさんから色々と教わりましたからね。疎かった神学もバッチリです」


 えっへんと、無い脂肪をコルセットで強調して自慢気に言う。


「へぇ、じゃあ三柱神の信仰とかも学んだんだ」


「ええ学びましたよ。神々の理も学びました?」


「理?」


 敢えて知らないふりをして聞いておく。


「リヴェンさんでも知らないのですね。

 神様は世界に理を作るんです。その理は世界を作り、理は世界を作るんです。

 どっちが先とかじゃなくて、どちらも同時に存在し、どちらも同時に作り上げることができるんです。

 神様も理も生き物がいないと始まりません。

 どちらも信仰がないと始まりませんので。

 最初の神の理は大地を作ったと言われていますね。

 そして信仰の無かった最初の神は理となって、大地になった。

 これがこの世界の普遍的な創造神話の始まりとして有名です」


「御高説どうも」


「ご清聴どうもです」


 ありきたりな創造神話を話しただけだが、ボォクが言っていた信仰心の有無で理の追加とやらも、神学間では知っていて当たり前か。

 俺も習うか。


 シンクロウはイリヤにはゲームの話はしていないようだ。

 イリヤが最優先で尋ねてこないのならバンキッシュもガストも言っていないな。

 巻き込んだとしても、中心ではなく外周にいておいてほしいからな。


 友人として。


「あ、そうそうイリヤ」


「何ですか?私、前と違って無茶な要求にすぐに肯けませんよ」


「バルディリス連邦の存在を消すことにしたから。

 あ、あとそれに日出国も賛同するかも。

 だからまた暫くいなくなるから、それだけ」


 言いたいことだけを言うと、イリヤの顔が紅潮していき、机に突っ伏してしまった。

 どうやら公務と俺の発言で考えがショートしたようだった。

 可哀想なので濡れタオルを作って介抱してから出掛けることにしよう。


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