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146:変質者

「そんな事があったのかの、災難じゃったのぉ」


 自分の精神世界へと帰還し、経緯をボォクへと伝え終えると、玉座の上でぐでーっと、身体を玉座に預けながら寝ぼけたような返しをされた。


 ボォクが忘れてさえいなければこんなことにはならなかった。

 と言うのは何度も言ってやりたいが、野暮なので言わないでおく。


「で?俺の身体は治せるの?」


「んー、あぁ。

 うむ、あの暴力魔王の魔力を解析済みじゃ」


 歯切れが悪い返答である。


「じゃあさっさとしてくれるかな?」


「なんじゃあ、イライラしておるの。

 そう急かさんでも、もう手はつけておるわい。

 どのくらいの早さがお好みじゃ?百段階の早さがあるんじゃが」


「最速」


「なぁにを焦っておるのじゃ。

 げぇむまで四ヶ月あるのじゃよ?それまでに作れば良かろうて」


 さっきから口だけは動かすものの身体は一切動かさない。


「何かまだ隠してるんじゃない?」


「主はえすぱーかの?隠すほどでもないが、言うほどのことでもないのじゃが……」


「それは俺が判断することだよ」


 軽く威圧すると、やっとボォクは身体を起こして肘置きに肘を置いて、倦怠感まるだしにして頬杖をついた。


「かのぉ?お主、先程シークォとやらに出会ったと言っておったの?」


「過去の世界じゃなくて、今現在の現実で出会ったよ。

 あの魔力の感じと出で立ち喋り方はシークォで間違いない」


「猫娘は魔遺物になっておった。そう征服王の倅が言っておったんじゃの?」


「そうだよ。勿体ぶるね」


「主の真似じゃ」


 精神世界でも殴れば痛みはあるのだろうか?


「冗談じゃて、確認しただけじゃ」


「で?シークォが、そうだとして何か問題があるの?

 俺だって魔族から魔遺物になって再起動したんだから不思議な事でもないでしょ?」


「事象が起こったから、それは不思議ではないと決めるのは些か早とちりではないかの?」


「俺はリーチファルトの魔力と自分の魔力が三百年かけて融合し魔遺物になった。

 そう解明されたから不思議ではないね」


「そう言うたのはネロっ子であろう?ネロっ子の、言葉を信じると言うのかの?」


「判断材料にしたまでさ、判断を下したのは俺だよ」


「そもそもじゃ、魔遺物は信仰心を握ったオーレが余に対しての嫌がらせで三百年前に世界に理を追加して作ったのじゃよ。

 お主は信仰心がどうでもよいと言っておったが、信仰心を多く持つ神は世界に理を追加することができるのじゃよ。

 オーレは魔族の魂は召される前に性質を持って物体になる。との理を追加しおった。

 つまりじゃよ、魔遺物との代物は魔族の魂が詰まった物体なのじゃよ。

 それが元の肉体を持って復活するのは有り得ない話なのじゃ」


 俺はその理が通用する前に封印されたから、世界の理から外れた?

 もしくはボォクが俺の中にいたからこそ、理が適応されなかった?


 だとすれば矛盾が生じる。


「オーレが作る以前からボォクは魔遺物を残していたのは神だからって?」


「正解じゃ。遺物とは元来から神が降りた身体の成れの果てじゃ。

 オーレはそれを書き換えたのじゃ。腹立つのう」


 そう言う割にはまだ気怠そうだった。


 ややこしい話になった。

 自分のルーツを知るいい機会なのは間違いない。――しかし、俺が魔遺物である事が既にボォクの言っている事と矛盾している。


「俺はこうして元の肉体を保ちながら、魔遺物として存在している。

 魔遺物は起動状態じゃければ、殆どが成人男性の掌に収まる大きさだろう

 ……あぁそうか」


 自分で発言している間に気がついた。


 俺は再起動した。

 俺は、だ。

 俺と一緒に封印されたのが目の前にあるだろう。


 玉座。

 付属していた玉座は既に起動していたのだ。

 起動して、あの状態だったのだ。三百年間ずっと起動状態だったのだ。


 俺の活動時間と総合活動時間が分かれているのは互いが違う存在だからだ。


 俺は既にボォクとも交わり、成れの果ての姿になり、魔力を動力源としてこの世に顕現しているだけすぎない。


「余談じゃが、主が今死ねばしっかりと成仏出来るから安心せい」


「どうも、心が救われたよ」


 となると、シークォも、やはり俺と同じ神が宿り、身体が魔遺物になって再起動したのか?

 ……ならばシークォはどちらかの神に加担している事になる。


 味方とは言っていたが、信じる程俺はシークォを信頼を置いていない。


 俺がボォクと関わっているのを知っていたし、過去のボォクが俺であることも知り得ていた。

 過去のシークォは見ぬくそ振りは見せていなかった。

 過去の何処かに俺と同様にシークォも神身体に乗り移っていた可能性はある。――まあこれは神と繋がっている前提だが。


 繋がっているとすればシークォなりの俺への宣戦布告だろうな。


「ありえぬ、ありえぬと、考えのを放棄するのも賢い行いかも知れぬが、一度腰を据えて考えを纏めるのも悪くなかろう?」


「感情的に行動するお前が言うな」


「なっ!余の気遣いを!

 主がネロっ子を失い、かつての仲間とへんてこりんな再会をしたから気遣って………いや、気遣ってなぞおらぬがの!

 主に考える機会を与えたのじゃ!神からの試練じゃよ!」


 一応ボォクなりの気遣いだったらしい。

 態度と言葉が合っていないのは本人は分かっていないようで、そこは自由奔放な神らしい。


「ボォクもシークォが俺と同じだと考えているのか?」


「主と?………そうじゃよ?考えておった………のじゃよ?」


 考えていなさそうだ。


「シークォが俺のように、オーレかワタ=シィの性質を持って封印されていて再起動したかってこと」


 ボォクは丸い目をパチクリと瞬かせる。


「ありえ……可能性は否定できぬ」


 流れ的にあり得ないと言えなかったので苦し紛れの肯定だった。


「しかして、奴らが猫娘に神の性質を与える意味はあるのかの?」


「さあ?それは知らないね」


「なんじゃ!考えておらぬのか!」


 ボォクは背筋を伸ばしてツッコミを入れてきた。ギアが入ったか?


「仮定は沢山考えてあるよ。それをボォクに共有している時間がない」


「頭だけで会話を完結させるのは真面な奴じゃないの」


「そうだよ?今気づいたの?遅かったね」


「主はよっぽどの変人じゃな」


「ありがとう」


「いや褒めてないのじゃが………

 ふむぅ、後でごねられても堪らぬから、余の考えだけは言っておくかの。

 猫娘はオーレの加護を受けておろうな」


「どうしてそう言える?」


「使用していたスキルじゃな。

 主のように三百年程封印されればスキルなぞすっからかんに消え失せるからの。

 なのにじゃ、主の前から魔力消費もなしに忽然と姿を消した。

 主は精神に関与するスキルに耐性があるからの、そっち系統ならば見抜いておろう。とのことで移動のスキルじゃてな。

 瞬間的に移動するスキルは、まあ指折りにしかあらんし、当時の猫娘は所持しておらんかった」


「再起動と同時に付与されたと」


「あくまで余の考えじゃ」


「その考えもあったけど………」


「けど、なんじゃ?」


「言わない」


「なんじゃ!さっきから!弄んでおるのか!

 硝子のハートで有名な余のぴゅあっぴゅあな心を玩んでおるのか!」


「神の心臓は硝子なんだ。知識が増えたよ」


「言葉の綾じゃろうて!」


 また地団駄を踏んで憤慨するボォク。

 こういう行動だけは、見た目と合致するんだよな………哀れだ。


「できた」


 不貞腐れながらボォクは呟く様に言った。


「何が?硝子の心臓?」


「まだぬかしおるかの!

 作れと言うたのはお主じゃろう!お主の身体じゃ身体!」


「馬鹿にされたからって嘘は良くないよ」


「なんじゃとー、最速で作らせておいてなんじゃその存外な扱いわ!

 ならば自分で確認してこい、この……この……変質者!」


 ズカズカと怒肩で俺の前までやってきて、飛びついてからキスをされた。


 変質者とは言い得て妙だな。


 そんなことを思いながら、俺は半年振りに自分の身体へと戻ったのであった。

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