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145:にゃ

「へぇ、どこに消えたのかと考える日は一日くらいはあったけど、まさかこんな灯台もと暗しな場所にいるとは感服だよ」


 リヴェン達の前から自身の所有しているスキル浮浪叉ヴェイフォーグを使って逃れたシークォは、真っ暗な闇の中の遥か頭上に仄かに光を宿した二つの明かりへと語りかける。

 すると、その光は言葉を返した。


「きさん………どうやってここへ。

 ……どうでもええねゃ、消え去らんねゃ」


 ガラガラと掠れた声。何年も、幾年も対話をしてこなかったような小さき声だった。


「ご機嫌は悪くないようだね。

 どうやって来たかは説明しておくよ。浮浪叉と言うスキルを使ってね。いやーこのスキル使い勝手が悪くてね。自分が望む場所か、自分が望まない場所かに自動的に移動するスキルなのさ。

 さて、ここは私が望む場所なのかな?」


「知らん。こんは幕僚牢獄エイチキューピーじゃきぃ。出る事も入る事も叶わん場所じゃ」


「浮浪叉もチャージするまで使えないが、私はここで時間を潰す気はないのさ。

 どうだい?そろそろ外へと出る気にはならないかい?」


「ならんねゃ」


「出られないと、たかを括っているんだね。歳を取ると頭が硬くなるんだよね。

 あ、元より年寄りだったっけ。まあまあそんなことよりも、だ」


 シークォは札を一枚取り出して左手に持ち、札の前に印を作った右手を構える。


「揺蕩う子守音。

 波状の鋸。

 サイケデリックの暗礁。

 トーリトコールの行末に、唐松色の鷲が舞う。 

 邪用様々邪険申して誂えば、園から蛇が唆き、世は慄く。

 戒律十番、顕現せよジャバウォック!」


 札から魔法陣が現れて、その魔法陣が縦に割れる。

 ギギギと、建て付けの悪い扉のような音を立てて二つに裂ける。


 魔法陣の中から赤く長い二股に分かれた長い舌がまず出て来た。

 それから有鱗目特有の鱗と百獣の王に負けず劣らずの雄々しい立髪を宿した頭部に、シークォの全長と変わらない黄色い瞳を持った蛇。


 伝説の魔物ジャバウォック。

 その頭部が魔法陣から現れて、目の前の暗闇を突き破った。


 突き破った瞬間に暗闇は暗闇を維持できずに、瞬く間に消え去ってしまう。


 仄暗い場所だが、長年闇にいた人物は闇に目が慣れていた。

 シークォは夜目が効くので、暗闇など無意味であった。


 仕事を果たしたジャバウォックは魔法陣の中に戻っていき、札は緑色の炎を纏って燃え尽きた。


「ひさに見とらんかった場所じゃきぃ」


「ここだけは隔離されていたんだ。身体に似合わず思い出を重んじるんだね」


「………」


 ここは遺跡街であった場所。

 親友であったゴルバディが死んだ場所。

 数多の同族の骨が埋まっている場所。

 長は。長であった者は無数の骨壺と共に、この場所に隠居していた。


「私はこの世界を塗り替えるよ。人から魔族へとね。

 貴方はどうする?元魔王のドルツァーリさん」


 幕僚牢獄はドルツァーリが持つスキルの一つであり、世界の狭間を作り出すスキルである。

 幕僚牢獄へと入れば出入り不可能になる代わりに、外の世界側が干渉するのが不可能になる。


 浮浪叉は幕僚牢獄の干渉を受けずに中へと侵入できる。

 幕僚牢獄よりも後から作られたスキルであった。


 五番勝負で致命傷を負い、仲間も尊厳も失ったドルツァーリは人知れず、思入れの強い場所で骨を埋めようとした。

 傷心し、弱くなった心は懺悔の日々を繰り返し、亡き同胞から赦しを得るまで生き続けた。


 今、その懺悔室は解き放たれた。


「わしはもう老いて使いもんにならんにゃ」


「そのムキムキな身体で言われても説得力は無いかなー」


 シークォから見ても、ドルツァーリの身体は約四百年もの間動いてないにしては、全盛期と殆ど変わっていなかった。


「まあ使えないなら、使える物にするまでだけど、その場合は最後の男性の巨人が死に絶えることになるけども、いいのかな?」


「孫がいたはずじゃけぇ!」


「死んだよ、ドロドロで哀れな姿になってね。

 残っているのはゴルバディのひ孫にあたる巨人姉妹の二人だけ。

 雄は世界に存在していなかった。今まではね」


 孫の死を悲しむ間もなく、世界に残された同胞の数を知って言葉を洩らしてしまう。


「わしが最後・・・」


「あーあ、種の存続がー、歴史を作って来た偉大なる巨人族が消えちゃうや。

 貴方が臆病だから。

 貴方が弱いから。

 貴方が罰を受け入れたから。

 貴方がこの世界から逃げたから」


 シークォに向かって拳が叩きつけられた。


 不快な虫を潰すかのように、プチンと潰れるはずであった。

 全盛期と殆ど変わらない力の叩きつけにも関わらず、シークォは右腕に力瘤と血管を浮かして止めていた。


「よき。流石はあの魔鬼の腹心じゃき」


「答えはイエスでいいね」


 ドルツァーリの拳から力が抜けたので、右手で払う。


「わしは種族の為に武器を再び持つ。それ以上もそれ以下でもにゃあ」


「重畳。私もそんなところさ」


「腰を上げる前に最後の質問じゃけ。なぜわしを引き入れる?」


「貴方の方言が癪に触るからだみぃ」


 そう言うとシークォは幕僚牢獄があった場所から歩を進める。

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