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142:合致

 ボォクの言う通り、気が付いたら死んでいた。

 どうやら俺は塔の床で寝転んでいるようだった。目の前ではシンクロウが礼儀正しく姿勢を正して立っている姿が横に映っていた。


「どれくらい経った?」


「四十分ですかね」


 寝たままの態勢で尋ねると、驚きもせずに淡々と答えた。


 現実世界と並行して進んでいる訳ではなくて、あちらの一ヵ月が現実の十分程度か。そこは好都合だな。


「身体の場所は見つかりましたか?」


 俺が髪留めを外して立ち上がるとシンクロウが問いかけてきた。


「見つかった。このまま付き合ってもらうよ」


「付き合うのはよろしいのですが、場所はどこでしょうか」


「付いて来ればわかるよ」


 今の心持ちでスヴェンダ大陸だとは言えない。

 そこは現在織田家が所有している日出国なのだから、そこに突然魔力量が桁外れの子供と、魔族であるシンクロウが現れれば敵視されることは間違いない。

魔力感知魔遺物を持っている国だ、不法に入国すれば気付かれて戦闘になる。


 信千代に取り合ってもらう時間も無いだろう。

 それに信千代はああ見えて商売人。足元を見られないだろうが、譲歩されるのがオチ。

 だったのならば敵対してでも、俺は自分の身体とネロを取り戻す。


 ネロは未来で会おうと言った。

 それはこの五百年ずっとあの身体の中で待っているという意味だ。

 気を使っていたのかもしれないが、あれ以上気を使われたら不愉快である。主人が不愉快になることは、従者はしないと思いたいな。


 シンクロウはそれ以上何も言わずに付いて来た。


 塔の外へ出て、転移鵡方を使ってあの場所へと移動する。


 最後にシークォが言っていた。魔鬼が死んだ場所は不毛な地になると、ならばあそこは未だに不毛な地であり、人が住まい、農耕が出来る場所ではないはずだ。一画だけそうなっている地に人が住まう訳もない。


 移動すると、そこはさっきみたばかりの光景と何一つ変わらなかった。

 色鮮やかな花々が咲き、真っ赤に燃える紅葉と、目がさえる程の黄色の銀杏の葉が生い茂っており、足元にそれらの葉が落ち始めている。まるで時間が経っていないかのような錯覚。


 クッションのように深く踏みしめられる葉の上を歩いて行く。


 誰もいない並木道の途中で枯れ葉さえも落ちていない場所を見つける。


 その手前には和装をした猫族が膝を曲げて屈み、手と手を合わせて祈っていた。


 俺達が葉を踏む音に気が付いた、その猫族は立ち上がってこちらを振り向いた。

 三つ編みを二又に別れさせて猫目の上からオーバル眼鏡をかけて、頭の上に耳を生やし、口元にピンとした髭を何本か生やした猫族。


 俺の顔はどうなっているだろうか。ちゃんと引き攣れているだろうか。


「やぁ、久しぶりだね、リン君。

 いやいや、あの時は偽名を名乗っていたんだっけ。ねぇ、リヴェン」


 シークォがそこにいた。


 あの頃と何も変わらないシークォ=ニャンダワ=キャトルルカがその場にいた。


「おや?実に三百年ぶりの再会だと言うのに挨拶もなしかい?連れないね。

 もしかして私の事をまだ根に持っているのかい?だとすれば君は本当に陰惨な魔族だよ」


 そよそよと漂ってくる風の中にシークォの言葉が聞こえてくる。


「・・・もしかして、驚いて言葉も出ないのかな?だとしたら驚かせられて至極心地が良いよ」


 俺が黙っているのに対してシンクロウはトゥナイトを抜いて、羽と共に攻撃した。

 シークォは身軽に身を捩って避けた。

 だが今は日中。シークォには違う物に見えていたせいで、攻撃を完全に避け切れてはいなかった。


 腕に傷がつき、そこをペロリとざらついた舌を出して舐める。


「シークォ様は亡くなられた。そうですよね?」


 諭すような言葉遣いだ。


 どうやらシンクロウは勘違いしているようだな。

 俺は別に驚いて言葉を失っている訳ではない。過去の映像と今の状況に合点がいって可笑しくて、笑ってしまいそうで、顔を引きつらせているのだ。


「あぁ・・・あぁ。そうだ。あいつは死んだ。勇者達の前に散った」


 四天王が死んだ順はギース、ベリオル、シークォ、ガンヴァルスだ。

 ギースは勇者一行の戦士と相打ちに。ベリオルは魔法使いに致命傷を与えたが浄瑠璃の楔を撃たれて。シークォとガンヴァルスは全員と相手取った。


「何を言っているんだい?私のスキルは忘れたのかな?勇者グランベルが倒したのは私の分身だよ」


 勇者は悠々としていた――俺達から見ればだが、勇者一行は苦戦していたと言えるだろう。

 勇者は仲間を持つことでチートスキルを発動できない制限を受けていた。力で勝てないのなら、仲間を削り、精神を削るしかなかった。


 勇者に対してはやる気の着火剤にしかならなかったが。


「シークォ様はスキルを封印されて亡くなられた。

 其方が誰であろうと、主君の友を蔑む行為は許し難い」


 お互いに友だと思ったことは出会った時から別れの時まで一切ないが、そうしておこう。


「それさえも私の計略だったとしたら?そう考えられないかい?」


「だとすれば証拠を出せばいい話だ」


「証拠、ねえ」


 構えを解かないシンクロウを警戒もせずにシークォは唸った。


 時間の無駄だな。


「証拠なんて要らない」


「む、リヴェンなら真っ先に証拠証言を提示しろと言うのに珍しいね」


「今はそんなことはどうでもいい。

 お前がシークォであろうが、なかろうが、俺の心を揺さぶろうが、揺さぶらまいが、どちらでもいい。

 重要なのはお前が俺の邪魔をする存在かどうかだ」


 こいつがシークォだろうと、違う者だろうと関係ないのだ。

 今は俺の目的が最優先である。その為ならば返答次第で旧知の仲だろうと容赦はしない。


「・・・いいね。魔王の称号が板に付いて来たんじゃないかな」


 俺の眼をしっかりと見据えて、理解した上で言う。


「答えろシークォ。お前は俺の邪魔をするのか?」


「邪魔はしないよ。むしろ手伝いにここにいると言ってもいいよ。

 コレを探しにここへ来たんでしょう?」


 シークォがメモ帳のような魔遺物を袖の中から取り出して、俺へと投げ渡した。

 魔遺物を受け止めて、手の中で確かめる。この魔力の感じはボォクの身体で間違いがないようだ。


 俺が確認していると周りに複数人の気配と殺気が溢れる。

 察知したのと同時に馬の蹄の音が近づいてくる。


「しっかりと渡したからね」


 それらの気配をシークォも察知したのか何らかのスキルを使って姿を消した。

 十分か、来るにしては早いな。手回しがいいのか、常々警備が行き届いているのか。どちらにせよ、接触は避けられなさそうだ。


 あの猫、スキル縫い針で俺達を動けなくして逃げやがった。


 鎧甲冑も着用せずに身軽な装いで腰に刀を帯刀した隻眼の男が馬に乗りながら複数の部下を連れて現れた。


「ほう。こいつは実に・・・興味深い奴がいたもんだな」


 隻眼の男が見るのは俺ではなくて、隣で力を込めて縫い針を解こうとしているシンクロウであった。

 シンクロウは珍しく、鼻で大きく息をしてから、男へと言葉を返した。


「大きくなったもんですね。信定」


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