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137:降霊術

 マリファンロの検問を難なく超えてから中へと入る。

 検問と言ってもそこに検問所があるだけで、身分証明や顔を見せるなんてことはしない。

 ただのお飾りである。これは巨人族が怠慢な訳ではないことは前述。


 巨人族だけが住んでいる訳じゃなくて、従属している魔族達も多数住んでいる。

 だから視界に映る景色は巨人族の二の脚だけではなく、同じ目線の魔族もいたりする。

 店構えとか生活基準は巨人族基準になっているようだけども。


 ある人物と落ち合う為に大衆酒場へと向かう。


「やぁ、そこのフードから綺麗な碧髪が出ている御人さん。どうです?占っていきません?」


 その途中で巨人族に会わせて作られた露店から俺達を見下しながら狼人の優男が手招いていた。

 店の看板には占い屋と書かれている。


「どうする?」


「無視だよ、無視」


 先頭を行くシークォに訊ねるとそう言って優男と目を合わせずにスタスタと歩いて行く。


「猫のお嬢さん、今、大衆酒場に行くのはやめておいた方が良いですよ」


 その一言でシークォは歩幅を小さくしていき、最後に足を止めた。

 俺達は一応顔を見られない様ににフードを軽く被っている。

 シークォの事を猫人と見抜くのは分るけども、大衆酒場に行く情報を知っているとなると無視を決めるのはよろしくない。

 それが狼人のブラフだとしてもだ。


 垂らした餌に食いつかざる負えない立場なのだ。


 俺はシークォの出方を待つ。


 ピンとした髭をピクピクと動かした後に俺へと振り返る。


「あの狼人、感じ悪いね~」


 ニコニコと嬉しそうな笑顔を作っているが、怒っていらっしゃる。

 注意する時や喚起する時の叱る顔は本当に怒っていない。シークォが酷く癪に障った場合は笑顔になる。

 笑顔で毒を吐く。しかも率直な。


「リン君占ってもらおうよ」


「シークォ、寄り道している暇はないぞ」


「いいのいいの、彼の言う通り酒場に行くのは良くないからね。

 あと命令しないで毎日ベリオルの顔で爪とぎするよ?」


 実際にし兼ねないので如何に不死鬼と言えどもベリオルにも痛覚は残っている。

 まぁ毎日興味のないシークォと顔を合わせる方がベリオルとしては苦痛であろう。


 店まで組まれた梯子を上ると、狼人はカーテンで遮られた店の中へと姿を消していた。

 俺を先頭にして店へと入いると、薄暗い店内にスクエアテーブルとまるで誂えられたように椅子が丁度三席あった。


 スクエアテーブルの奥には狼人が座っていた。


「ようこそ、いらっしゃいませ。シン=ワンドの占いの部屋へ。

 店名にもなっている店主のシンです。よろしくおねがいしますね」


 狼人だけど俺が変身している凶暴で獰猛そうな狼人とは少し違う。

 毛色が黒と茶色の毛並みでちょっとだけのっぺりとした顔。そのせいで優男に見えるのであろう。 更にはとっつきやすい喋り方。

 俺とシークォは似たような喋り方――つまり人の心を読もうとする輩のせいで胡散臭い奴だと解ってしまう。


「占ってもらいたんですけど、その前に質問してもいいですよね?」


「質疑応答は人生の楽しみです。どうぞどうぞ」


「シンさんはどうして、私達が大衆酒場へと行こうとしていると予想したのですか?」


「オレはね。自分で言うのは憚られるんだけども、精霊と話ができるんですよ。

 あ、疑うのは仕方ない事です。だけどもオレは事実を述べているまでです」


 精霊は誰にでも憑いているけど、誰にも認知はされない。

 見えないじゃなくて見られない。そもそもそこにいるかも分からない。

 精霊もまた神と同様に概念存在である。

 俺も見た事ないし、見た事があると言う人物はどこか精神に異常がある人物しかいないのが前例だ。


 伊達に長生きしていないベリオルは鼻で笑った。


 しかしボォクが存在している今、俺としては精霊もいるのではないのかと考えを巡らせてしまうようになった。


「あー、成程ですね。つまり私の守護精霊がシンさんに囁いた訳ですね」


「おぉ、そうです。そうなんですよ。

 この特技を話すと皆小馬鹿に鼻で笑うのですが、シークォさんのように物分かりの良い方々が偶にいらっしゃるのは大変心が救われます。

 碧髪の少年君を先に占わせてもらおうかと思いましたが、シークォさんを占わせて貰ってもよろしいですか?お値段は安くしますので」


 さらりとシークォの名前を出して場の空気がひりついた。

 そんな空気も、ものともせずにきょとんとした顔で、どうかしましたか?なんてたずねてくるのは底なしの馬鹿なのか、あり溢れた自信なのかはまだ分からない。


 殺気を当てても先に進まないのでシークォは肉球の間の毛を綺麗に手入れした手を、笑顔を崩さずに差し出した。


 魔族は人とは違い千差万別であり、手相がない魔族もいる。

 猫族のシークォの手相をどう見るのかは興味がある。


「手相で見れるのは過去、現在、未来のどれもであり、それらは少し大雑把な説明になります。

 分野は色々とありますので、とりあえず注意するものだけを見ますね」


 そう言ってから大きな手でシークォの手を優しく受け手で支えてから手を覗き込んだ。


 肉球や毛へと視線を動かして何かを理解したのか頷いた。


「結果を言う前に事前説明をしておきますが、決定事項ではなく懸念事項ですので、あくまで参考程度にお考えくださいね。

 占いは道を示すだけであって、道を決めるのは本人自身なのです」


「もちろん。分かっています」


 俺もそうだけど、シークォも占いはからっきし信じない。

 スピリチュアルな面は信用に値しないのだ。


「では結果を言いましょう。

 シークォさんが注意することは、ご友人ですね。

 ここ肉球が三又に割れていますよね。ここは獣人の友人線でして、それが三つに割れているのは注意すべき事柄が近々起こることを表しています」


「それが今かって何で解るの?」


 シークォの友人と言えば、リーチファルトしかいない。

 恋は実らず、愛は受け止められずに友人止まり。

 悲しく等は無い、シークォはそれを自分自身で受け入れている。

 自分自身では、だ。

 他人にとやかく言われるのは好んでいない。


 シンが突いたのは蜂の巣よりも危険な塊。


 手を出すまではいかないだろうが、話が進まなくなる前に俺が質問しておく。


「始まりの線はこちらで、終わりの線がこちらです。

 今言った線は丁度シークォさんの年齢と一致していますね」


「私、名前も年齢も言っていないけど、それも精霊が教えてくれたんですか?」


「その通りです。

 勝手にお名前を呼ばせてもらって頂いていますが、ご了承ください。

 年齢はシークォさんがよろしければ提示させて頂きますが・・・どうでしょう?」


「困ります」


「ではこのまま続けましょう。

 注意することはご友人であり、具体的にどう注意するかと申し上げますと・・・・縁を切られないようにする。ですね。

 ここの線が横に伸びているのが分かりますか?

 この線は最初の友人線に付随するものでして、縁に関わる線です。

 この線に一本線が重なっていますよね?

 これは文字通り縁切り線でして、これらの結果を合わせて、ご友人との縁切りに注意なさってください。

 という結果です」


 第三者からの行動をどう注意すればいいんだよ、と言いたくなったが、相手をコントロールすれば容易い事だった。

 そもそもシークォはこの結果を鵜呑みにはしないし、話半分にも聞いていない。

 目的はシンが本当に精霊と話せているかどうかだろう。

 でなければ身バレをしていしまっていることになる。


「そう。分かりました。注意しましょう」


 柔和な笑顔で受け答えた。


「あくまで指針ですから、そう重く捉えないでください」


 重い愛の持ち主にそんな言葉を言わないであげてほしい。


「では、そこの碧髪の少年君を占いましょう。

 今度は手相ではなく、精霊に直接問います。

 あまり聞き馴染みのない言葉かもしれませんが、これは降霊術という見えない精霊をこの場に降ろす魔術ですので、不安がることはありません。

 列記とした魔術ですよ。えぇ」


 胡散臭い事この上ないがやってみてもらおう。そんな術は眉唾物なのだが。


「君のお名前は?」


「聞けないの?」


「えぇ、君の精霊は無口なようで、返答は一切ありませんでした」


「リンだよ」


「リンさんですね。では始めましょう」


 シンは指と指を組み、従来の祈る様なポーズをして、聞き取れない程に小さな言葉を呟いている。 雰囲気作りは既にシークォで行われている。シークォとしては噛ませ犬のような扱いをされて気分が悪いだろう。


 シンは祈りを終えて、ゆっくりと目を開き、


「精霊は降りました」


 何もないスクエアテーブルの上を指してそう言った。


 シークォとベリオルは顔を合わせる。

 そして二人して席を立ちあがった。


「これお代です」


「世迷言で金稼ぎなんていい御身分だね」


 精霊は二人の前には降霊しなかったようだ。

 テーブルの上には何も降りなかった。


 では俺の目に映っている、この小さな生き物はなんだろうか?

 いや生き物かどうかも怪しい。

 青白く光る球体に薄く模様がかった翅を宿し、球体の背後から細長い尻尾のようなものが生えている得体の知れないモノ。


『これは一体どういうことでしょう?』


 ネロの声がした。

 しかし、それは頭の中から聞こえるのではなく、目の前の得体の知れないモノからの声だった。


 その有様を理解したせいで、俺はとても対応に戸惑っているのであった。


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