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135:四天王(四)

 リーチファルトの雄叫びが庭園に響き渡る。

 踏ん張り、気張り、右手に魔力を集中させる。

 ゆっくりと着実に右手に魔力が集中していく。

 だが、ある一定量へと達した瞬間に魔力が爆ぜてしまう。


「がああああ、またここかよ!」


 そういっていつもながらリーチファルトは仰向けに倒れた。


 実際はたった数か月で右手に魔力を集中させるだけでも常人離れしているのだ。

 リーチファルトは神に見放されているが、努力だけで自分が所持できる魔術、スキル、武術を会得できる天才なのだ。

 努力の天才なのだ。


「リーファ、一点集中型の魔術はこうやってやるんだよ。

 ほら、ほら、ほらほらほら」


 俺の前で白い庭椅子に座っているベリオルが一点集中型の魔術を使用して見せる。

 魔法を使えるベリオルが一点集中型の魔術を使えない訳が無いのだが、この男に師事されるのは死んでも嫌らしく、そもそもベリオルが教えない。


「うるせぇ!なんでお前は部屋に籠ってないんだよ!籠れよ!」


「籠る必要がないじゃないか。ここに趣味を見つけたんだからさ」


 ベリオルの細い目が俺を捉える。趣味とは俺と一緒にいる事らしい。


 あれから灰になったベリオルは元通りに戻った。

 趣味に飽きたせいで癇癪を起していたが、一度滅してしまえば、感情が通常の状態へと戻るのである。

 だからベリオルが感情的に問題行動を起こせば滅してしまえばいいのである。

 それが出来るのがリーチファルトしかいないのが多大な問題なのだけれども。


 ベリオルの玩具として認められたボォクこと俺は、こうやって常々ベリオルと共に行動することが多くなった。というかこいつが付いてくる。

 ベリオルは一度気に入った相手に対しては執着心が強いのだ。オンとオフが激しいのだ。


「ベリオル様、リン様。お紅茶のお代わりは如何しますか?」


 俺とベリオルは庭園にある白い丸テーブルに対面して座っている。

 そのテーブルには紅茶とバスケットの中に入れられたお菓子類があった。

 俺達の横には侍女見習いのラヴィアンがいた。


 ラヴィアン=インキュベータ=アルフォンド。

 くるりんとねじ曲がった角を頭に二つ生やして、エルフのようにとがった耳がピンと生え揃え、この時代ではまだ子供であるが、お淑やかに、艶やかに、アダルトに振舞う。

 モンドの高祖母である夢魔だ。因みに隙あらば俺の貞操を狙ってくる厄介な侍女だった。


「うーん。僕はもういいかな」


「俺は頂くよ。紅茶は血みたいなものだからね」


「承りました」


 ラヴィアンは紅茶を注ぐ。

 大人になったラヴィアンと違うのは紅茶の美味しさが段違いと言ったところか。

 美味しいは美味しいのだけど、俺が淹れたのと似たり寄ったりである。まだ紅茶の極意を会得していないのだろう。


「つーかお前さ、ツィグバーツカから仕事を請けていたんじゃなかったか?」


 ここでいうツィグバーツカはミストルティアナではなくて、その父に当たる人物だ。

 ツィグバーツカ大臣はガンヴァルスの友人であり、リーチファルトとも付き合いは長い。


 信用に値するからこそ財務大臣の椅子に座っているのだ。


「既に終わっているけど、ツィギィの困り顔がみたいからね」


 四天王には性格ねじ曲がっている奴等しかいなのか?

 ・・・俺も合わせるとギースとガンヴァルス以外性格は外に出したら恥ずかしい位酷い有様であろう。


「お前そのうち全員から嫌われるぞ」


「嫌われてもいいさ、それでも僕が必要だろう?」


「そーいうとこだぞ。そーいうとこ」


 ベリオルは趣味に没頭している時でも雑務を熟している。

 気分が乗らなかった場合でも、このフォウィアーが発展するならば力を惜しまない。

 ここが発展すればする程に、自分の生活が潤うからだ。あくまで、自分基準である。

 こいつはそんなねじ曲がった性格の自己中心的な奴なのだ。


 ラヴィアンからお代わりを貰ってから紅茶を嗜んでいると、庭園の入り口からガンヴァルスが入ってくるのが見えた。


 夕飯前の時間は修行の時間なので必ずと言って庭園にいる。


 ガンヴァルス=ヘカトンケイル=パビワン。

 多腕の巨人族。現魔王に従わない巨人族。

 巨人族とは言うも身体は八メートル程度である。

 巨人族としては小さめの身体だが、唯一無二の複数の腕が生えている。

 しかもそれぞれの腕が成人した巨人族に値する程に強く、巨人族同士の戦いでは体格差など物ともしない。


「リーチファルト、少しいいか?」


 綺麗なほうれい線が入った渋みがある顔で言う。


 リーチファルトはクタクタになっているであろう身体を起こしてからガンヴァルスの方へと歩いて行った。

 どうやら俺やベリオルには訊かせたくない話のようだ。


「ねぇリン。君はどうやって一点集中型の魔術を身につけたんだい?」


 二人が話し始めたのを見てから、揶揄う相手がいなくなって暇になったベリオルが質問してくる。


「生まれつき出来るようになっている。俺は特別だからね」


 どうせこのニュアンスでボォクも言っているだろうと予想して自慢げに言っておいた。


「へぇ、凄いね。僕も教育上で身につけただけだから、リーファと同じようなものだよ。

 最初から出来るなんて僕はこの目で見た事がない。

 まぁ、書物では見聞きはするけどね」


「魔神?俺が?冗談も程々にしてほしいね」


「そう?魔神ボォクが宿った身は魔術に長けていると聞いているけど」


 疑ったような目では見ていないが、確実にボォクが中にいると疑っている。

 ボォクはお忍びで降りてきたのだ、ここでボォクだとバレてシンクロウ家に見つかっては叱られる。とかそんなことを考えていそうだ。


「まぁ、ボォクだったら魔法も使えないとね。リンは魔法使えないんでしょ?」


「うん。からっきしね。魔法なんて使った事もないよ」


 魔法とは魔力を法律化したものである。

 法律化には自分の魔力を頭の毛先から足の指先まで意識的に移動させる技術。

 世界の漂う魔力を意図的に吸収し、分解し、世界の法則を逐一理解しなければ法律化はしない。

 ただ文字を連ねて円で囲っているだけで魔法は使えないのである。


 空中に書いている文字は法律であり、本則と附則を書いている。

 例えば、火を放つ魔法ならば本則が第一項に自分の魔力を火へと変換する。

 第二項に漂う魔力は火属性となる。

 附則として第一項に火は球体となって相手を追尾する。

 等と本則に附則を追加する事で、より複雑で強い魔法になっていく。

 魔法使いに至った時点で上位の存在なのだが、その中でも法律化を素早く熟すことによって、唯一の弱点である法律化の手間を補っている魔法使いがいるとかなんとか。


 勇者一行の魔法使い、ライト・エヴァ・グリスティンはベリオルよりも法律化が遅かった。

 が、頭のネジが一本飛んでいるので無茶苦茶な魔法を撃ってくる。


 因みにベリオルは勇者が持っていた不死鬼を屠る力を授かったライト・エヴァ・グリスティンに葬られた。


 魔法。

 確かに言われてみれば――言われなければ気づけなかったのは愚かだった。

 ボォクの身体なのに魔法を使えないのは不思議である。

 そもそもボォク自身が魔法を撃っている瞬間を見ていない。


『ボォク様は魔法が使えないのでは?』


 それもあるかもしれないな。

 あのポンコツ阿保魔神が法律化を順当にできるようには思えないが、そうだとすれば魔を司る神とは一体全体何のなのかとなってしまうので、使えるけど、使えないふりをしていると思っておこう。

 そんな性格でもないがな。


『この身体でも魔法は使えない模様』


 魔術に関しては鋭く研ぎ澄まされている。無尽蔵に魔力が宿ると思ったが、そこまで定着していないようである。

 ネロ曰く、ボォクの身体が定着するには一年はかかるらしい。

 ネロ自身は既に三百年かけているので数週間で定着したようで。


「おや?リーファ、どうしたの?秘密の話は終わりかい?」


 ベリオルと話していると、ガンヴァルスを置いてリーチファルトが俺達の元へとやってきていた。 面倒くさそうな顔つきからして厄介事であろう。


 いーっと嫌そうに歯を出してため息をついてからリーチファルトは言った。


「ベリオル、お前私と一緒に旅に出ろ」


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