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134:四天王(三)

 べリオル=アンディアリティ=フェイ=ワインヴォーグ。

 種族は不死鬼。

 不死鬼の種の中でも高貴の生まれであるが両親ともに千年前に他界している。

 それに両親はおろか、不死鬼はべリオルが最後の一人であった。


 不死鬼。

 名前の通り不死である。

 物理攻撃魔術攻撃で絶命させられても灰になっては、身体を生成する。

 昔は魔王として魔の世界も、人の世もすべからず統べていた。

 だがある時に人間が不死鬼を滅ぼす術を手に入れて、一部の魔族と共に反逆を起こした。

 それから人と魔族の世は隔たれて、確執が出来上がり、今に至る。


 べリオルは歴史の生き証人であるが、不死鬼としてはまだ中年にすら至っていない。

 物事に多く触れてきたせいで、元々の性格から少々・・・多少は・・・かなり捻くれた性格になった。


 人と接することを極力避け、自室に閉じこもって趣味に没頭する。

 ただそれだけ。それだけで人生の時間を潰している。魔王城を終の棲家にしているのだ。


 ベリオルは所謂引きこもりって奴だ。

 ただの引きこもりなら害はないのだが、世界を嫌った引きこもりである――大概の引きこもりは世界を嫌っていそうだけども。


 ベリオルが趣味に没頭していない期間がある。

 腹が減った。起床時に寝惚けている。寝ていなさ過ぎて頭が働いていない。趣味がない。多々あるが没頭していない期間は少ない。

 その没頭していない期間時、ベリオルは全てにおいて攻撃的になる。


 攻撃的というか、破壊的というか、とにかく只管に面倒臭い奴だ。


 そんな奴がどうやって手懐けられているかというと、普通にリーチファルトの暴力である。


「よぉベリオル。今回はどんな癇癪を起したんだ?」


 ベリオルに与えられた部屋の扉がへしゃげていた。

 そして部屋の外には日に焼けていない白い肌をした細身で少しだけやつれた白髪の青年が立っていた。

 リーチファルトがベリオルに声をかけると、ゆっくりとこちらを向いた。


 目には生気は宿っているも、どこか夢虚ろのような目。

 その目の奥からは仄かに怒りを感じられた。


「あぁ、リーファか。いつ以来かな?」


「大体三年か?」


「三年か・・・三年も僕は無駄な時間を過ごしたんだね」


「何してたんだ?」


「あやとりさ」


「あやとり?なんだそりゃ?」


「一本の紐を指に引っ掛けてね、特定の物の形にする遊びさ」


「ふぅん、そんなのが楽しいのか」


「楽しいというよりも、楽しかっただね。三年も遊んだもの」


 これは趣味をやりつくして飽きたパターンである。

 何でも、何事も趣味にできるベリオルの精神は尊敬できる。あとはノブレスオブリージュの精神を取り戻してくれたら、かなり好きな部類の性格なのだけどな。


「あれ?その子は誰?新しい小間使い?」


 ベリオルは俺の存在に気付く。

 面倒だから俺も逃げようとしたけど、リーチファルトに強制的に連れてこられた。


「こいつか?こいつは、そうだな。私の先生だな」


「へぇ遂にリーファも頭を使うことを覚えたんだね」


「戦術じゃねぇよ!てか頭使っているわ!

 ・・・・・・・そうじゃねぇ!こいつは私の魔術の先生なんだよ」


「・・・・成程、冗談が言えるようになったんだね。凄いね」


「冗談ぐらい私だって言う。てか冗談じゃねぇんだよな。

 まぁいいや、今回はこいつが相手をする」


「その為に連れてきたのか」


「その為に連れてきたのだ」


「あぁ。あぁ。リーファ、それが新しい玩具ってことか。ならば遊んであげよう」


 静かな怒りを発散させるかのようにベリオルが複数の術式を展開する。

 リーチファルトがスキルと魔術と武術を使って戦い、ガンヴァルスが武術主体で戦い、シークォがスキル主体で戦い、ギースがスキルと武術主体で戦う。

 そしてベリオルは魔術主体で戦うのだ。


 長く生きているからして、魔術の属性は多数ある。

 相手がどんな魔術を使おうが相克にあたる魔術で防ぐことが出来るほどの技術と知識量、そしてセンス。


 床から蔦が伸びて俺の手足を絡めとろうとしたので、手に鋭い風の魔術を発生させて斬ってしまう。


 足元全体に氷が張り巡らされて室温が一気に下がる。

 目の前には氷でできた剣を持った鎧兵士が三体現れていた。

 狙いはもちろん俺で、三体の兵士の攻撃を軽い身のこなしで避けてから距離を取る。


 パンと両手を合わせて、掌と掌の間に魔力を送り込む。

 右手を上へ、左手を下へ弧を描く様に広げて、電気で出来た弓を作り上げる。

 弦を引いてバチバチと鳴っている矢をベリオルに向けて放つ。


 一矢だけで氷でできた兵士三体が砕け散り、ベリオルは矢を握って止めた。


 どうやら、やっとこの身体にボォクの魔力が馴染んできたようで、ベリオルが作る様な複雑な魔術を使えるようになった。

 それでも現状ベリオルに同じような魔術では適わないだろう。


「少しは遊び甲斐がありそうだね」


 ベリオルは空中に文字を描き連ねた。

 そしてそれを円で囲んで法律化させた。


 ベリオルは魔法を使える。

 それがボォクとの差であった。


 法律化されると魔術とは桁違いの威力になり、どれだけ魔術が強くあっても、法の前には術は無力である。

 魔法には魔法でしか対処できない。


 では魔法が使えないリーチファルトはどうやってベリオルを抑え込んでいたのか。

 それも暴力。

 弛まない暴力。

 絶え間ない暴力。

 どれだけ魔法を打たれようが、受け流し、受け止めて、ベリオルを殴り続ける。

 参ったと言っても殴り続ける。

 意識が飛ぶまで殴り続ける。


 傍から見ると酷い有様なのだが、それが二人の間で交わされた約束らしい。


 だから俺も暴力で解決するのだ。


 霧の魔術を掌から放出して辺り一面に自分を隠す。

 魔力感知に引っ掛からないように魔力を遮断してベリオルへと近寄った。

 霧の魔術は基本的に相手を撹乱する為に用いられているので、魂胆を見抜いてベリオルは覆われている霧に魔法を放って廊下事消し飛ばした。


 当の俺は土魔術で床の中に身体を落とし込んでベリオルの背後に移動していた。


 そして右手に一点集中型の魔術を発動する。


 リーチファルトさえも屈した理不尽な暴力。


「成程、それが先生と言われる所以。なら力勝負ですか」


「いいや、勝負にさえならない。この距離ならね」


 背後をとっていても三歩分の距離はあった。

 その距離ならば魔法を撃てる時間もある距離であった。

 だからこそベリオルは余裕にも勝負が出来ると思い込んでいた。


 俺は既にベリオルの懐に潜り込んでいるのであった。

 ベリオルが俺だと捉えていたのは魔術で作った残像。

 その残像に一点集中型の魔術を模しておいただけ。

 複雑な魔術が使えるという事は器用な魔力操作もできる。

 仮にも魔を司る神が降りた身体である。


 腹部で術式が発動して天に向かってベリオルを殴り抜けた。


 ベリオルは海老反になって天へと消えて灰になってしまった。

 不死鬼なのでこの程度では死なないし、殴られる前に何かの魔法を使っていた。


 定着してもこの技だけは一発が限度で、意識が朦朧とし、そのまま、また暗闇の世界へと誘われた。


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