133:四天王(ニ)
「うん。ギースの作る料理は天下一品だな」
早めの昼食を取りながらリーチファルトは言った。
人質にされているギースの一族を救ってから一か月と二週間が過ぎた。
人質がいる街で破壊騒動を起こして、街を統べている巨人族を撃ち滅ぼした。
その街で虐げられていた民はリーチファルトが治める街へと移動させた。
反逆の意思があり、戦いに出てきた者だけをリーチファルトは屠った。
俺も迷いなく敵意があり、命のやり取りをするものだけを殺したつもりである。
そもそもボォクがやった行動である。何をしようが過ぎた事。
現状は避難民を連れて一度リーチファルトが治める街、フォウィアーへと帰還している。
ここが後に魔王となったリーチファルトの拠点となるのだが、それはまだ先の話だろう。
フォウィアーの街並みは俺が着任した時よりも質素であるが、活気は変わらなかった。
多種多様の魔族が住んでいて、それらが喧嘩もするが、皆、表面上の笑顔を絶やさずに過ごしていた。
本当に終わっている国は表面上の笑顔さえない。ギースの一族がいた街がそうだったように。
リーチファルトは街の者から好かれている。
小馬鹿にされる事もあって癇癪を起すが、喧嘩で決着がつく。
統治する者が住民に小馬鹿にされて喧嘩で解決するなんて在り得ない話かもしれないな。
それ程までに垣根が無く、親しみやすい人柄なのがリーチファルトなのだろう。ボォクは殺されかけたが。
魔王城は既に出来上がっていた。城の食堂で遅めの昼食を食べているのだ。
ギースは恩と感謝の念から仲間になってくれた。
仲間になったことにより、リーチファルトから街の者全員を喜ばせる飯炊き係として任命された。 一ヵ月そこらで城内の食糧と、保存食を分け。
街の外から来る業者から卸される食糧の目利きの指導。
需要がある作物の予見。
既存の料理長に白旗を上げさせて、認めさせた上で料理長の座についた。
戦闘面ではガンヴァルスに六本の腕を使わせて善戦させる程強く、決着をつけようとなればどちらかが命を落とさねばならぬとして両人とも手を引いた。
その噂が広まり、この時点でギースはリーチファルトの次に人気な魔族だと認知されつつあった。
俺と言えば、噂通りにリーチファルトの子供やら、弟やらと勘違いされていた。
なぜかこの勘違いだけは正せない。特に弟との勘違いが多かった。
今のリーチファルトに子供が出来るはずがないと街の者は口を合わせて言う。そりゃそうだ。
実際リーチファルトには弟がいた。
だけどその弟とは生き別れになっており、弟は各自に死ぬしかない状況だったので死んだとされている。
まぁリーチファルトの生前も死後もそんな弟の話は聞かなかったし、言われている通りに死んでいるのであろう。
これは俺もリーチファルト本人から聞いているので知っていた。
ボォクもお忍びで身体に身を降ろした立場で、自身が神と言えないが、そこらの魔族と言われるのが癪なので言われるが毎に否定していたようだ。
修業開始から二ヵ月と二週間。
まだリーチファルトは一点集中型の魔術を収得できていない。
しかし二ヵ月と二週間見よう見真似だけで、軽く右手に遅れるようになり、小さな魔力を維持できるようになった。
たった二週間でこれは人間には真似でき似ない芸当であり、魔族の中でもずば抜けて特異な魔術体質と言える。
「褒めてもこれ以上は何もでないぞ。それが俺の法則だ」
エプロンをして腕を組みながら俺達の昼食を見ていたギースが言う。
「私をそんな腹ペコキャラクターにするな。
ただ、美味いと言っただけだろ」
「ごめんねギース君。
リーチファルトはギース君が作る料理が好きで好きで堪らないのよ。
それをちゃんと受け取ってあげてね」
リーチファルトには辱めを、ギースには注意喚起を。
これだよ、これ。この性格の悪さがシークォの代名詞。
おかげでリーチファルトは何も反論せずに顔真っ赤にして昼食をかきこんでいる。
ギースに至っては笑顔の底が見えないシークォに警戒している。
突然だが、シークォはリーチファルトの事が好きだ。
無論、魔族としても好きだし、リーチファルト・ゾディアックという存在としても好きだ。
ライクでもあり、ラブである。
愛していて、愛し過ぎていて、シークォは愛という沼にどっぷりと頭の先まで浸かっている。
だから、シークォはリーチファルトに近づく者には容赦しない。男であろうが、女であろうが、高嶺の花であるリーチファルトという華に悪い虫がつかない様に剪定する。
リヴェンもその一人だった。
ギースは必要だと判断されているけど、目をつけられているのは確かだった。
なぜボォクは認めらているのかというと、シークォもリーチファルトの弟の件を一番近くで知っているからだ。おかげでボォクを排除できないのだろう。
だから俺に対しての一挙一動があまいし、敵意がないので話していても楽しいのだ。
彼女の愛は歪んでいると言えば歪んでいるし、純粋と言えば純粋だ。
愛のカタチなんてあってないようなものだし、それぞれだろう。
普通に当て嵌めて考えてしまうと、シークォは異常者になってしまう。
「リーチファルト大変だ!大変だ!」
そう慌てて食堂に入ってきたのは球体に蝙蝠の羽が生えた生き物。
球体には丸く赤い瞳と逆三角に尖った牙を二本口から出している謎の生物。
これはべリオルの眷属だ。
名前はトマト。べリオルの非常食でもあるので、そんな名前。
救われないね。
「なんだ、うるさいな。べリオルがどうかしたのか?」
完食寸前で乱入してきたトマトを睨む。
「そうだよ!主様が、主様が!」
「落ち着けって、べリオルがなんだ?
干乾びたのか?一ヵ月徹夜して死んだか?自分が自分と判らなくなったのか?
まぁどれでもいいが」
べリオル起こった事象をリーチファルトは冗談めかしく述べるが、どれもありそうなので笑えない。
「主様が外に出ようとしているんだよ!」
その一言で食堂にいる全員に緊張感が走る。
もちろん俺もそれが一大事だと解っているので身体を強張らせた。
リーチファルトが昼食を完食して、ナイフとフォークを置いた。
「じゃあ、いっちょ話し合いに行きますか」
そう言って立ち上がった。
ここでいうリーチファルトの話し合いは、拳と拳をぶつけ合った物理的な話し合いを意味するのは誰もが理解していた。
だから皆一斉に城から避難した。
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