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131:水を浴びる

 リーチファルトに一点集中型の魔術を教え始めて一ヵ月。

 この過去の世界に来て一ヵ月。ひと眠り、ふた眠りすれば時間が早く進んで三ヵ月くらい経っていると希望的な思い込みも現実にはならず、一日一日と、刻刻と、普通に時計の針が進んで行く。


 一ヵ月すれば一点集中型を会得するのは天武の際が合っても無理だ。

 口呼吸から鼻呼吸に変えるのとは訳が違う。

 鼻呼吸から皮膚呼吸を意識的に会得するようなもの。

 今までの生き方を否定するようなものである。


 色々と規格外のリーチファルトでさえも未だに習得はできていない。


 リーチファルトの右手に魔力が集中していくが、弾け飛んだ。


「だー!できねぇ!どうやってんだよ!それぇ!」


 全身から滝のように流れる汗も気にせずに、髪をかき乱しながら、その場に倒れ伏せる。


「言っただろう、こう右手に魔力を集中させているだけだって。

 理屈で解った所で身には付かないよ。結局は何度も試行するのみ」


 最初の方は論理を説明していたが、どうやら過去のボォク自身が論理ではなく身体だけで説明していたようなので、結果リーチファルトが会得することはできなかった。

 俺の教えが下手な訳ではないと分かっていても、不名誉なものだ。


 しかしリーチファルトは最初から一点集中型の魔術を会得していなかったのも初耳だった。

 あれだけ好き好んで使っていたのだから、最初から使えるのだと勘違いさせられていた。


『一点集中型の魔術を会得するのに要する時間は最低でも四十一年かかります』


 四回も訊いたよ。


 ネロも指導している初日に目を覚まして、魔力を使い切らない限り常にいる。


 元の世界に戻った場合の事をネロに訊ねてみても、ネロにも計り知れない事らしい。

 記憶世界の四ヵ月が現実世界の四ヵ月と同期しているのかどうかの場合である。

 もしも現実世界でも四ヵ月経っていればゲーム開始まで二ヵ月になってしまう。


 死んだ場所を確認して、その身体を取りに行く時間がかかるかも皆目見当もつかないし、どれ程の時間で俺の頭と胴体をボォクが作れるかは訊いていない。


 まぁ足掻いたところで四ヵ月は絶対にこの世界にいなければいけないので、そんな焦燥感は最初の二日間くらいだけだった。


「おーい、夜ご飯ですよー」


 今日の泊り宿にしている廃屋の割れた窓からシークォが顔を覗かせて言った。


 修業は夜の食事の前に行うことになっている。

 でなければ体力消費が激しいので日中の旅が出来なくなる。


 本来リーチファルトは武者修行の旅に出ている。

 武者修行に出た理由はこの時代の魔王であるドルツァーリ=タイタニック=ヒュリランケを王の座から降ろす為だ。

 その旅の過程の中でボォクと出会い、一点集中型の魔術を会得する。

 そんな記憶なのだ。


 ドルツァーリは巨人族で全長五十メートルはあるらしい。

 俺は直接ドルツァーリを見たことが無いので、どれくらいのもの体積を持ち、どんな風格で、どんな風に動くのが想像できない。

 肉人の全長がドルツァーリの半分だからな。想像もできない。


 どうやってドルツァーリから魔王の称号を剥奪したかと言うと、五番勝負という一対一で相手が負けを認めるか、死ぬまで戦う魔族代々に伝わる神聖な勝負形式で決着をつけた。

 五回一人で戦ってもいい(リーチファルトはそのつもりだったらしい)がシークォ、ガンヴァルス、ギース、ベリオルの四人で戦ったらしい。

 この四人が後に魔王軍四天王となるのは明白だ。


 ギースは俺が軍に入ったと時期に勇者に殺されたので面識はない。

 この時代のギースはリーチファルトとまだ出会っていない。

 武者修行の旅中に出会って付いて来たとガンヴァルスが言っていたのを覚えている。


 ガンヴァルスはリーチファルトの育ての親であり、武と魔術を教えて人物でもある。

 武者修行中はリーチファルトが統括する街を代わりに統括している。


 シークォは護衛と荷物持ちと日常生活の世話を兼ねて武者修行の旅を共にしている。

 リーチファルトとは幼馴染の関係だ。


 べリオルは・・・まぁあいつのことは追々語れそうだな。


 と、まぁ不遜に、不敬にも、不適合ながらも、リーチファルトは魔王ドルツァーリに下剋上をしようとしているのであった。


「うっし、じゃあ水浴びするか」


 背筋でぴょんと立ち上がるとリーチファルトは俺に向かって言った。


 俺の見た目はネロそのものであり、性別は男であった。

 なのにも関わらずだ。リーチファルトは共に水浴びをしようとしてくるのだ。

 一緒に修行をしたら共に汗を水で流すのは当たり前だろうと言われて、初日に無理矢理水浴びをさせられて以来逆らわない。

 逆らっても腕力では勝てないし、ボォクも諦めていたようだ。


 シークォはボォクの気持ちを察してか共に水浴びをすることはなかった。

 たまにラフな格好でリーチファルトの背中を流す時はあったけども。


 手を轢かれると千切れるかと思う程に痛いので自主的にリーチファルトの後ろへついて行く。


 近くに小川があり、そこで水浴びをする。

 ただ水で汗を流すのもどうかと思うので、俺は魔術で石鹸を作り出してしっかりと汗を流す。

 リーチファルトは最初渋っていたが、今では石鹸の虜である。


 鼻歌を歌いながら泡塗れになっていくリーチファルトを毎日見ていると、流石に見慣れていくものだと思っていたが、見慣れないものである。


『魔王様は綺麗な肉体をしていますね』


 肉体美を褒める発言なのだろうけど、セクハラ発言にしか聞こえないのは俺の心が汚れているからか?


『洗い流しましょう』


 汚れている前提だね。


『ご主人』


 はいはい、またあいつらね。

 ネロが周りに増えた魔力を感知する。

 同じ体なのにネロの方が感知するのが早いのは何故なのかは不明。


 リーチファルトがドルツァーリに下剋上するという情報は大々的に漏れている。

 リーチファルトが宣言したからだ。

 ドルツァーリは矮小な存在が喚いているとしか捉えていないらしいが、周りはそうはいかない。

 ドルツァーリの機嫌を取り、威厳を守る為に、そんな存在は消したがっていた。


 だからリーチファルトはそういう奴等に命を狙われている。


「おーい、リーチファルト」


「んー?あーまたか。たっく飯前にくんなよな」


 泡立った身体を水で流してから、服を生成して着る。


「んじゃ、ちょっとぶっ殺しますか」


 リーチファルトを狙った暗殺者の中にリーチファルトの力に適ったものは一人としていなかった。 準備運動程度で軽く捻られるのだ。


 今も、魔術の発動と同時にやってきた暗殺者が空中へ飛ばされて星が輝き始めた夜空に消えて行った。


 俺と出会ってから六回目か。

 俺が送り付ける立場だったら、もっと骨のあるやつで、狡猾なやつを送り付けるね。

 人質とか普通にとって、相手の弱みに付け込む輩。


「動くな、動いたら殺す」


 男の声と共にピタリとナイフが喉元につけられる。

 そうこういう奴。


「喋ってもいいのかな?」


「叫ばなければな」


「これって人質になっちゃったってこと?」


「そうだな。あいつらがやられている間にお前は来てもらうぞ」


 抵抗してもいいけど、これはあいつに課された試練のようなもの、だったら素直に掴まってしまおう。

 どうせ四ヵ月後までは死なないと確定している命だ。

 ついでに演技しておこう。


「わあ、逆らわないから殺さないでー」


「なんかくせぇが、まぁいい」


 俺は男に抱えられながら誘拐されてしまった。


『洗い流しましょう』


 俺のきな臭さは洗い流せないだろう。

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