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130:飯を食う

「時にネロ君、質問をしていいかな?」


 思い知った現実に打ちひしがれていると、火を弱めながらシークォは訊く。


「何でもどうぞ」


 俺がどこの出身で誰かを聞きたいなら適当に答えるだけだ。


「語尾ににゃをつける猫の魔族ってどう思う?」


 脈絡もない質問であった。


 試されているのか?

 シークォなりの人を測る技なのか?

 だとすれば意図を汲み取って答えるしかないな。


「猫はニャーと鳴かない」


 にゃあと聞こえるのは俺のような織田信長がいた国にいる人間だけだろう。


「そうだよね。

 猫はなーとみーとか言うけどにーとは言わないよね。

 だけどね、私達猫族の中では地域事に、にゃと語尾をつけるあざとい方々がいるのよね。

 でもその地域のオノマトペを否定するのはよくないし、大々的には言えないよね。

 なのでコッソリとひっそりと私的にはにゃよりも、甘え声という本能的に近いみぃとなぁを推していきたい所存なのですよ」


「そ、そうか」


「そうなのです」


「じゃあ自分で言えばいいんじゃない?発信者がいないと推しも何もないでしょ?」


「だって私が言ったら世界一獲っちゃうじゃない?」


「何の世界一だよ」


「可愛さの世界一みぃ」


 シークォは右手を丸めて顔の横に持っていき、手首を前へ折り、左手は右手よりも少し下げて同じあざとい仕草をして言った。

 自意識過剰にも程があるだろうこの猫。

 だがしかし少し可愛らしいと思ってしまった自分が悲しい。犬派なんだけどなあ。


「ね、私が言っちゃうと、私しか使えなくなっちゃうじゃない?

 だから私は推す側でないといけないの」


 俺が何も反応していないのにそう自信たっぷりに言い切れるのは、大した度胸持ちだと言える。


「その理由なら俺に言う必要はなくないか?」


「ネロ君もこれから長い人生の中で色んな猫族に会うことがあると思うと、布教活動はしておかないとね。

 思っているだけじゃにゃにもおきにゃいからにゃ」


「にゃって言っているよ?」


「おや、噛んでしまったみたいだよ」


 器用な噛み方だな。


 シークォは木でできた椀を隣に置いていたアウトドア用のリュックサックから取り出して、ヒダマムシがメインの煮込み料理をよそって、俺へと差し出した。


「ネロ君、ご飯だなぁ」


「せめてどちらかに統一してくれ」


「私は欲張りなんだよみぃ。

 どちらかを選ばなければならない時は、どちらも選ぶなぁ」


「そうみたいだね」


 こんなにもか。


 こんなにも悪態と嫌味を言わないシークォとの会話は楽しいのか。


 現実へと帰って生き残っている猫族がどんな語尾をつけているかを確かめる為に探してみようか。

 嫌いだったけど、根まで嫌いって訳じゃなかったしな。

 嫌な奴、付き合いたくない奴なだけだ。


 言うまでもないが、死んでほしくなかった。


「なんだよ、朝からうるさいな」


 俺に絶対見せ無いシークォの一面を見つつ、俺は食前感謝をしてからヒダマムシの煮込み料理を食べていると、リーチファルトがそう言って眠いを擦って起きようとしていた。


「おはようリーチファルト。朝ご飯出来ているよ、食べる?」


「ふわああああ、食べる」


 俺と同じように腕を天高く伸ばして、うんと背筋を伸ばし、大きな欠伸をしつつ言う。

 俺の首元に突き立てたであろう白い歯が朝日を反射せていた。


「服は着てね」


「うん」


 自身の魔力で服を生成してからリーチファルトは俺の隣に座って、シークォが同じようによそってリーチファルトへと渡すと、受け取った側からリーチファルトは口につけた。


 シークォもようやく自分の分をよそって三人で朝ご飯を食べる。


 リーチファルトが一番早くに食べ終えて、シークォへと椀を、ん、と言って差し出したところで、隣にいる俺の存在に気付いた。


「お前、なんで飯食ってんだ?」


「シークォがご馳走してくれているから」


「そういう意味ではなくてな。

 もう固形飯が食えるのか?普通だったらまだ流動食だぞ」


「お陰様でね。それともまだ寝ていなきゃ駄目?」


「お前が大丈夫と思うならば大丈夫だろう。

 ・・・お前も治りは早い方なんだな」


「まぁ、そうなんじゃないかな」


 自分の事ではないので他人事のように言ってしまう。

 リーチファルトはお代わりを貰ってから興味無さそうにふーんと言った。


 リーチファルトが二杯目を食べ終えるのと俺が食べ終わるのは同時であった。

 シークォは何度も冷ましながら食べているのでまだ半分も食べられていない。

 猫だから猫舌って言うのもベタだなぁ。


「ふぅ食べた食べた。よし、じゃあやるか」


 椀をその場に置いてリーチファルトは立ち上がって、準備体操を始めた。

 食後に運動とは健康志向・・・なのか?


「お前も早く立てよ」


 準備体操をしているのを見ていると催促されてしまった。

 一緒に食後の運動をするのは好きじゃないんだが、戦い以外ならば共同で何かをするのは嬉しい事だ。


 俺も椀をリーチファルトの椀に重ねて置いて立つ。見様見真似で準備体操をする。


「んじゃ、あれをどうやってるか教えてくれ」


 あれとは・・・。

 リーチファルトに見せたのは魔王の一撃くらいなものだから、それが正解だろう。


「一点集中型の魔術だけど使えないの?」


「う、うるせぇ、だから頼んでるんだろ」


 頼む態度なのか?

 俺は優しいし、リーチファルトにはあまいけど、ボォクなら断っているだろう。


「そのためにお前に止めを刺さずに回復させてやったんだから感謝しろよな」


 なんという横暴な発言だろうか。

 魔王ではないリーチファルトは傍若無人だ。

 よくここから、思いやりのある魔王になれたな。


「リーチファルト、リン君引いているよ?」


「うるさい。教えるのか教えないのか、どっちだ?」


 シークォは本気で助ける気も無く朝ご飯を食べ続ける。

 どうせ四か月はここにいないといけないのだろうし、暇つぶしにリーチファルトに教えておくか。


「いいよ。

 但し、教えている時は俺の事は先生かリン様と呼ぶように。

 お前って言うのは頂けないかな」


「んなっ呼べるかそんなもん!」


「じゃあ無理だね。

 あーあ呼び方を変えるだけで知りたいことが知れるのにな。美味しい条件なのになあ」


 シークォが何か言ってくるかと思ったけど、まだ朝ご飯と格闘中であった。

 リーチファルトは唸りながら考えに考える。

 自分よりも弱い者に教えを乞うのはプライドに反するのであろう。


 リーチファルトは意を決したか目を見開いて叫んだ。


「教えろ!先生!」


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