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129:寝て起きる

 パチリと瞼を開ける。

 魔力が尽きて倒れてしまったのを思い出す。

 こうやって覚醒するのは何度目になるだろうか。本人としては睡眠して起きていたような感覚なのだけども、第三者視点から見ると、また違ってくるのだろう。


 俺は空を見上げている。

 月は雲に隠れているが、星々が煌びやかに輝く夜空で、周りでは虫が合唱するかのように鳴いていた。

 あれからどれくらい時間が経ったのだろうか?


 そう問うてみても、まだネロは起きていないようだった。


 身体を起こそうとしても、まだ完全に魔力が補給されていないので思うように動かせなかった。

 左腕を動かそうとすると何か人肌温かい柔らかいものに触れた。

 左側を見ると、俺の左手は全裸で寝ているリーチファルトに抱かれるようにしてかなりある胸の間に包まれていた。


「・・・・」


 どうすればいいのか困った。

 手を引き抜こうにもリーチファルトの力には及ばなくガッチリとホールドを決められている。


 なんとか抜け出そうとしているとリーチファルトが唸った。


「うぅ・・・寒い」


 服を着ろ。


 そう唸る寝言を言うだけで起きる気配は無かった。


 隣ですっぽんぽんの女性が寝ているのにも関わらず、何もしないと言うのは据え膳食わぬは男の恥と言ったもの。――なので、魔術で毛布を作り出してかけておいてやった。

 これならば多少の寒さは凌げるだろう。


 全裸にしてしまったのも俺のせい――というかボォクのせいなので、罪の意識が現れた行動だ。


 そもそもこんな床もない場所の青天井で全裸の女性を隣に寝かせているのは不健全である。

 不健全指定図書の指定ができるのであれば、俺はする。これは記憶の世界で本ですらないのだけども。


 極力顔から下、もっと言えば胸にある魔力補給機関から下を見ない様にリーチファルトを見る。

 顔つきは魔王になったリーチファルトよりも少しだけ幼さを感じる。

 このリーチファルトはまだ身長が伸び切っていないのもそうだし、胸が育つのも確定している。

 まだ身体的に育つのだ。

 これ以上に育つのだ。末恐ろしい奴だ。


 傷をつけた部分は、もう既に完治する前であった。

 こいつの自然治癒能力は化け物級だったな。唾つけて寝たら治るがまかり通るのだもの。

 もっと大きな傷だと食べるが追加されるだけ。獣でももうちょっと衛生的な治療をするだろう。


 久々に間近で見るリーチファルトの顔に見とれてしまった。


 それにしてもなぜ共に寝ているのだろうか?

 あれだけ怒っていたのに、こうもあっさりと気を許して一緒に寝ている。


 少し考えてもみるも、どうも魔王になったリーチファルト、俺の知っているリーチファルトに当て嵌めて考えてしまう。

 心情を隠さず言うならば久しぶりに彼女と会って、更には共に寝ている状況にドキドキして、考えが纏まらない。

 ・・・恥ずかしいな。


 リーチファルトの魔力のおかげで魔物に襲われることもないし、ネロも起きてこないことだから、もう一回寝てしまおう。

 どうせ魔力不足で動けないのだ、夜のうちに回復しておかねば。


 リーチファルトの寝顔を目に焼き付けながら、俺は小一時間後くらいに、再び眠りについた。


 _________________________________________________________


「おーい、起きてくださーい」


 そんな間の抜けた女性の声が起床の合図であった。

 眠い目を擦って起き上がって腕を天高く伸ばす。

 そんな呑気な動作をしていてもいいと感じたのでしている。


 俺を起こしたのは三つ編みを二又に別れさせてオーバル眼鏡をかけて、頭の上に耳を生やし、口元にピンとした髭を何本か生やし、なんなら顔全体は毛に覆われている猫の魔族のシークォがいた。


 シークォ=ニャンダワ=キャトルルカ。

 魔王軍四天王の一人で軍師である。

 利発的な顔をしているから賢いのではなく、地頭が良い。

 更にはずる賢くもあり、魔王軍に入った俺を何かと敵視しており、魔王から引き離そうとしてくる。

 そのおかげもあるが、似たような気質なのもあって同族嫌悪状態・・・・あとは同族団の関係のせいで犬猿の仲であった。

 どれが一番の問題で、どの問題から始まっているかは知らない。


 シークォ=ニャンダワ=キャトルルカとは魔王軍に入る前から繋がりはあった。

 お互い顔は知らないが、俺の親が統括していた犯罪者集団と、シークォの一族が統括していた犯罪者集団は同族団である。

 俺が本家で、シークォが分家。まぁそんな一面もあってのことだ。


 そんなシークォがいつものように大人しめの姿で、朝飯を作りながらそこにいた。


「えぇっと」


「ああ、わたしですか?

 わたしはリーチファルトの良き友人のシークォ=ニャンダワ=キャトルルカと言います。

 お坊ちゃんのお名前は何ですか?」


 こういう奴だ。

 まるっきり俺と同じような問い方、人を見下した言い方をしてくるのだ。


「リ・・・・」


 素直にリヴェンと答えてもいいものなのか?

 こちらが何をしようと、何を言おうと未来に関係ないのだから、どう答えてもいい。

 でもボォクの言葉を逐一信用していられないので、念には念を入れて偽名を使っておく。


「リ?」


「ン」


「リン。リンね。いい名前だね」


 シークォは復唱してからうんうんと笑顔で名前を褒める。

 形式ばった褒め方である。


「リン君はヒダマムシ食べられるかな?」


「多分」


「じゃあ大丈夫だね」


 朝ご飯であろう、鍋の中にヒダマムシの切り身と野菜が入った紫色の毒々しい液体をかき混ぜながらシークォは言った。


 ヒダマムシは爬虫類クサリヘビ科のマムシ属に分類されていて、非常に強力な毒を体内に宿している蛇。

 魔族には食用として親しまれており、毒のピリッとした食感が人気である。

 しかし調理方法を失敗すれば中毒症状が現れるので注意。

 この身体が人間だとしても魔術全般が使えるならば耐毒で何とかなるだろう。


「にしてもリン君は凄いねえ、リーチファルトを寝かしつけちゃうんだから」


「そういうのは日常茶飯事だったから」


 リーチファルトは寝ない。

 寝ないと言うのは語弊があるか、深く寝られないのだ。

 いつも浅い眠りだけで終わり、直ぐにでも飛び起きてしまうのだ。

 俺はそれを知っていたし、知っていたからこそ、知らぬふりをして夜に茶会をよく開いていた。

 だからああして過去のリーチファルトがぐっすりと眠っているのを見ると安心する。


「苦労したんだね」


「それ程でもないよ」


 当のリーチファルトはまだ寝ていた。

 いつの間にか俺の腕とカエルの縫ぐるみとすり替えられていたのはシークォの仕業だろう。


「怒らないのかい?」


「怒る?何でかな?」


「俺はリーチファルトと戦ったんだよ?

 しかもかなり激昂していた」


「まぁ軽くぶつかって無視された程度であそこまで怒れるのは才能だよねえ。

 リン君もリン君であの魔力をぶつけられて路肩の石扱いは肝が据わっているけども。

 リーチファルトが認めたのなら私も認めるかな」


 当時の俺に対しての当たり方と違い過ぎて気持ち悪すぎる。

 口を開けば嫌味と悪態しか言わないシークォが純粋に褒める行為をしているだけで鳥肌ものである。


「認められているのか?」


「認められているよ。

 ほら、首元を見てごらん」


 見られないので魔術でまた曇った鏡を作って首元を見る。

 細い首元にポッカリと黒い穴が二つ開いていた。


「これドレインされてないか?」


 リーチファルトが何の魔族かと言うと、魔鬼。

 身体のどこかに角を持ち、細身の身体からは考えられないとてつもない強い力を内包している。

 身体能力の他に優れた特技が一つある、それが相手に噛みついて魔力か血を吸うドレインであった。


「されているよ。じゃないと魔力を分け与えられないからね。

 そのおかげで魔術もちゃんと使用できているでしょ?

 リーチファルトが認めないとドレインしてくれることなんてないからね」


 ドレインで魔力成分を摘出して、その人物に最も適した魔力を触れて分け与えるんだ。

 シークォはそう続けた。


 そんな力だったのか。

 それで俺は胸の間、胸に付いている魔力供給機関の角の近くに腕を入れられていたのか。

 全ては魔力を回復させるため。か。


 分け与える力としか聞かされていなく、問いただしてもはぐらかされていた。

 なのにシークォは知っているのは少し疎外感がある。

 別にシークォを羨ましくは思っていない。

 ただ、疎外感があるだけ。


 何にせよボォクの身体はリーチファルトに傷をつけら、魔力を注入された。


 これで目的の第一段階は果たされた。

 後はどこで死んだかを確認して帰るだけである。


 浮足立っていポイント一つ目だ。

 この世界に入る時代設定とやらはボォクがしてくれていた。

 おかげでリーチファルトと出会うところからこの記憶は開始した。

 では終わりはどこであろうか。


 ・・・そう、死ぬまであと四か月である。


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