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127:襲われる

「へぶっ」


 顔を洗って冷たさを痛感していると、突然身体に衝撃を受けた。

 衝撃を受けたのは顔面であり、鼻先がじんじんと痛みを感じさせる。

 目の前には砂利と雑草の茎、小さな虫達が地面の上でせっせと活動していた。

 どうやら前へ躓いてこけたようであった。


 青臭い匂いと土臭さと痛みに耐えながら鼻先を抑えつつ、俺は立ち上がり、こけた事によりついた砂埃と砂利を払いながら辺りを見回した。


 草原。辺り一面は青緑に染まる草原であった。

 周りには木も林も森も、建物も村も街さえもない、地平線が全て草原だと錯覚してしまう程に広い草原の中に立っていた。


 この草原に見覚えはないので、どこにいるかは把握できなかった。


『解答します。

 ここはレリィカナイの草原です』


「うおっ!?」


 突然の頭の中にネロの声がして身体が飛び上がった。

 いないと思っていたので、かなり驚いてしまった。


 ネロ、いるのか?


『おります』


 一緒に付いて来てしまったのか。

 確かにネロの身体だものな、俺の精神が入ったところで二つの精神がある。

 ボォクが説明しなかったと言うよりも気が付かなかった俺が馬鹿だった。


 来てしまったものは仕方ない。


 それで、ここはレリィカナイの草原って言ったな。

 レリィカナイは遺跡の名前だし、あの一帯は火山地帯だった気がするが、五百年前・・・・俺が生まれる二百年前だと、まだ火山地帯にはなっていなかったのか。

 どうりで見覚えが無い訳だ。


 しかし何故ネロがその情報を知っているんだ?


『解答します。

 私の中にある魔王様の魔力から記憶を摘出しております』


 そんなことが出来るのか。

 じゃあこれから何が起きてどう対処をすればいいかをネロに聞けばいいんだな。


『謝罪します。

 申し訳ありませんが、魔王様の魔力は注がれた当時の分の魔力だけですので、全ての事柄に対して対処対応できません。

 追加情報として五百年前当時の記憶情報は薄いです』


 ドンピシャなところだけ情報が薄いな。


『八百年前から五百年前にかけての情報は薄いです』


 その頃ってあいつが生まれた辺りから武者修行旅をしていた頃か、あいつその時期の話したがらなかったな。

 それと関係しているのかもしれないな。


 とりあえずだ、あいつと会わなければ話は始まらないし、どこかへ向かって歩くか。

 歩いていたら襲われたって言っていたしな。


 一歩踏み出して気が付く。

 自分の歩幅が小さい。実は鼻を抑えた時点で不自然さはあった。

 あまりにもこちらへ来る前と同じであったので気付くのが遅れたと言い訳しておこう。


 歩きながら俺は自分の身体、五百年前のボォクの身体を見る。

 ネロの身体と変わらず子供の小さな手で視界にチラチラと入ってくる前髪を引っ張ってみると、これまた碧髪であった。第三者視点で見られないものか。


『魔術を使用することをおススメします』


 あぁ、そうだな。この身体もボォクならば魔術を使うのは簡単だったな。

 他人、他神?の記憶だし俺の身体とは違うから、つい忘れてしまう。


 魔術の類は文献が頭の中に納まっているので知っていればこちらのものだ。


 それでも、使ってみると文献で見たような綺麗な魔術は発動しなかった。


 自分の身体を映すための鏡を空中に創ったのだけど形が歪で、鏡面がくぐもっている。


『ボォク様がお身体を宿してまだ日が経っていないと推測』


 俺もそう思う。

 実際にネロの身体で魔術を使った時はすんなりと模範的に使用できた。

 こんなにも不格好な魔術になるのは、まだこの身体にボォクが定着していないと言っていい。


 あぁ、だからボォクは襲われた際に後れを取っているのか。

 魔神のボォクがまだ魔王になっていないリーチファルトを簡単にいなせない訳が無い。

 なのにボォクはそこを詳しく語らなかった。あいつの性格なら快勝したなら詳細詳しく語るであろう。

 つまりいい勝負をしてしまったのだ。

 なんやかんやと誤魔化していたのは自分の体裁を保つ為だったか。

 あの魔神、悲しすぎる。


『悲哀ですね』


 本当にね。


「てんんめええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!

 見つけだぞ!!!!!」


 二人でボォクを哀れんでいると草原に耳を塞ぎたくなる怒号が響き渡る。

 怒号は俺の背後から聞こえてきて、大音量と肺活量のせいで草原を靡かせる風となり、草と俺の髪を揺らす。

 ついでに鏡の鏡面が割れた。どれだけの声量をしているのか。


 この草原には俺しかいないので、怒りを向けられているのは俺だろう。

 そしてこのタイミングで出てくるのなら相手は一人しかいない。


 振り向く。


 俺から大分距離がある場所に立っているのは短めの赤い髪の毛に覗き込みたくなる朱色の瞳、開いた口から噛まれたら痛そうな八重歯が挨拶をしている。

 身体は子供ではなく、人間年齢十六歳程の女子と同じくらいの見た目。

 そんな見た目でハイレグ風の動きやすい服、腕には仰々しい籠手と肘まである手袋、胴にはベルトがクロスされて、そのベルトには小瓶が付属している。太ももまである黒いソックスと黒のサイハイブーツを着用して、俺を敵視していた。


 相対したのは紛れもなく五百年前のリーチファルト・ゾディアックであった。


 感情が込み上げてくるが、今はその感情を呑んで対応するべきだ。


『魔王様を確認。ですが、ご立腹のご様子』


 いきなり襲われた。という割にはこちらが何かをした雰囲気なのだが。

 とりあえず普通に話してみるか。


「よぉ、どうかしたのか?」


「どうか、しのか?だぁ?」


 お?落ち着いたか?

 ・・・・・と言うのは冗談。火に油を注いだようだ。


「てめぇ私に何をしたのか覚えてねぇのか?

 いいや、覚えていてそう言っているんだよな?

 あぁ、わかった。

 てめぇがそんな態度ならば私もやることをやるだけだ・・・

 クソガキが、この界隈で舐めた態度とったことを後悔させてやるよ」


 これ本当にあいつか?

 あいつ暴力で解決するけど、ここまで感情に任せて攻撃してくる奴じゃなかったぞ。


『気難しいお年頃なのでしょうか?』


 だとしても荒っぽすぎる。

 ・・・魔王の籍を貰っていないからか?

 ボォクが魔王になっていなから気をつけろと言っていたが、つまり魔王という責任ある立場になっていないから、気性の荒い部分を抑制させるものが無いって事か?


 拙い。

 それだと非常に拙い。

 酒が入ったあいつ並みに拙い。

 あいつが悪酔いした時、古い付き合いのガンヴァルス将軍が言っていた。これは若いころを思い出すと。


 怒りで箍が外れたあいつは止められない。


 酒が無いと止められない。


 あとは・・・撃退するしかないか。


 それがこの過去での正史なのだから、そうするしかないか。


 何をして、何があったかは知らないが、あいつに傷を付けない限り話は進まない。


 俺は構える。


 そして煽る。


「あの程度で声を荒げるなんてはしたない。お里が知れるね」


 ブチン!


 そんな何かが切れる音がした。

 


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