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126:出直して

「・・・・今はジョークを聞きたい訳じゃないんだけど」


「ジョークじゃないのじゃ!神水で顔を洗う事によって過去へと戻ることが出来るのじゃ!」


「そんなご都合的な代物があるの?作り話じゃない?」


「あるのじゃよ!

 過去へ戻ると言っても神の身体を持った者の過去限定じゃがの。

 信じられんというなれば余の額にお主の額を合わせてみよ」


 過去へ戻れるなんて言われて鵜呑みに出来る程正常な頭はしていない。

 腰を下ろしてボォクの額に額を当てる。

 すると頭の中に雲海の上に聳え立つ塔の映像が見えてきた。


「これは余の記憶をお主に見せているのじゃよ。

 この塔は空気が薄すぎる場所にあり、塔の中に入るには神の身体を持つ者と神官でないと入れん。生物を寄せ付けんのじゃ。

 そもそも・・・まぁ入ればわかるのじゃ。

 過去に戻ると言うても、既に終わった出来事じゃて未来に干渉することは一切ないのじゃ」


「それじゃあ打開策にはならなくない?」


「主には言っておらんかったが、余はあの暴力魔王と会っておる。

 あれは五百年前かの?そこであやつと関わっておるのじゃ。

 その時余は久しぶりに下界を散歩したくなっての、歩いていたらあやつに襲われたのじゃ。

 なんだかんだありつつ余とあやつは打ち解けたのじゃ。

 その襲われた時に余はあやつから傷を付けられておるのじゃ。

 つまりじゃ、あやつの魔力を内包しておるのじゃ!」


 ボォクは胸を張って偉ぶって言った。


「その時のボォクの身体を見つけて取り込めばリーチファルトの力をボォクが手に入れる事が出来るって解釈でいいかな?」


「その通りじゃ!」


「じゃあそれを現実世界で見つけて来てもらえばいいじゃないか。

 シンクロウが把握しているんでしょ?」


 ボォクの身体はシンクロウのチョウソウ一族が把握している。

 だからそれを取ってこればいいだけだ。


「そうじゃの・・・」


 俺は腕を組んでさっきと同じ目で見てやる。


 ボォクはばつが悪そうな顔をする。


「言うのじゃ、言うから黙ってみるのをやめい!」


「隠し事はなしにしてほしいね」


「余かてこんなことになるとは思っておらんかったのじゃ・・・。

 余は散歩をしたと言ったがの、実は神官には黙って肉体を宿してお忍びで下界へ降りていたのじゃ。

 その目やめい!ほ、本来は下界に降りる時期じゃなかったのじゃよ。

 じゃが当時は降りたくなったのじゃよ!神の世界暇なのじゃよ!」


 チョウソウ家が把握できていないボォクの身体があると。

 大きくため息をつくのとやれやれと言った首を振る動作を大きめにする。


「じゃあどこで死んだとかは?」


「知らぬ、というかそこだけ記憶にないのじゃ。

 気が付いたら死んでいたのじゃ。

 時期は確か暴力魔王と会って四か月後くらいかの。

 直前の場所は覚えておる、なんか彩り豊かな森じゃったかの?」


 名称が出ない辺り覚えているとは言えないし、疑問形だ。


「ふーん。じゃあ行ってらっしゃい」


「待て待て待てい!余は主の身体を生成しているから動くことができんのじゃて!」


「俺も身体がないから動くことはできないけど?」


「安心せい、余とお主を一心同体。余の身体にお主を移す事なぞ造作もない事よ」


 そうくるか。

 俺がネロの身体に入って、俺がその塔へ行って、俺がボォクの死んだ原因を突き止める為に過去へと戻れってことか。

 こいつまだ俺を駒として見ているな。


 言い返して、言いくるめて、くしゃくしゃな顔にしてやりたいが、話を続ける。


「その行為に制限はないの?」


「む、妙に物わかりの良い言い方をするの・・・まぁよいか。

 余の身体へと主を移せば余はここに取り残されるが、ここでも主の身体を生成することはできる。 お主が事を終え、コアに触れればまた交換できるの」


 制限はないようで。

 では最初から俺とボォクが入れ替わってネロの身体に俺が入って全員に指示していた方が良かったのでは?と言いたくなる。


「な、なんじゃ、その最初からしておけと訴えてくる目は!

 余の身体ぞ!なして余がこんな窮屈で退屈な場所に閉じ込めなければならぬのじゃ!

 余は黙々と主の身体を作るだけの都合の良い神ではないのじゃぞ!

 余は自由を謳歌する魔神じゃぞ!

 それに過去の事を引き合いに出すのは無粋じゃぞ!」


 神さながらの開き直りであった。

 話が停滞するので言い返すことはしたくなかったが、一つだけ訂正しておくことがある。


「さっきから自分の身体だと言い張っているけど、あれはネロの身体だからね」


 封印時ボォクは俺の身体の中にいたのだ。

 ネロ・ギェアは封印される際に俺とリーチファルトの魔力が混ざり合って出来上がった人格。

 ・・・いやシステムと言う方が正しいのか?

 ここはネロも俺も知らないので予想でしかないが、俺が封印から起きた時に困らない為にリーチファルトが仕込んだとしか思えない。

 あいつは脳まで筋肉が詰まっている発言をして脳筋馬鹿と言われやすいが、思慮深いやつなのだ。


「あの魔遺物は余に委ねると言っておるのじゃ、じゃからあれは余の身体なのじゃ。

 どうしても?どうしてもとお主が頼むならば、お主の主張を尊重し、余らの身体と言い換えてやらんでもないがの?」


 神のツンデレなんてどこに需要があるのであろうか?

 だがしかし不快感を取り払えるならば言っておくか。


「オネガイシマス、ボォクサマ」


「角ばった文字で喋っておるの!」


「へぇ片仮名知っているんだ」


 こちらの世界では平仮名はあるが片仮名はない。

 まぁ転移とかできるし、他の世界の文字を知っていても不思議ではないか。


「勿論じゃ。どの文字も武器として使えそうじゃからの」


 結構物騒な理由で知識をつけているようであった。


「とにかくお主が過去に戻れば万事如意よ。過去へ戻る時代設定は余がしっかりと記憶しておるし完了させておくから安心するのじゃ」


 ボォクの口から出る安心という単語が一番安心できない。


「今回は甘んじて俺が行くけど、今度からは頭の中に手を突っ込んでも記憶を思い出すように」


「善処しておくのじゃ」


 一番期待外れな返し言葉である。


 ネロ・ギェアの身体には俺がこの精神世界にいる間に膨大な魔力を蓄積されている。

 ――ボォクが中にいるおかげで魔力総量が無尽蔵なので限界が無い。

 それに加えてボォクは魔神。

 全ての魔術はお手の物であり、自由自在に使える身体になっている。

 そこに俺が所持していたスキルも持っているので、駆け引きに向いていない性格を除けば現状でどの勢力よりも最強と言える。


 俺が他に何か言っておくことがあるかと考えていると、ボォクの眼が虚ろになっている。


 ここにいるボォクの眼が虚ろであったり、あらぬ方向を向いていたりすると、ボォクが現実世界へと戻っている証である。

 おそらくシンクロウに報告しにいったのだろうな。


 過去に行ってリーチファルトと出会う・・・か。

 妙に物わかりの良い言い方と言われたが、もしかすると俺はリーチファルトと出会えることが楽しみなのかもしれない。

 本来ならばグダグダといちゃもんをつけてから出発するが、今回はスムーズな進行を心得ていた。


 事象としては既に終わった事であろうが、それでも、それでいても、もう二度と出会えない人物に再び会えるのは心が躍る出来事なのだろう。


 そのせいでどこか気持ちが焦っていたのであろう。


「お、そうじゃ、そうじゃ言い忘れておった。

 あの暴力魔王まだ魔王にはなっておらんから気を付けるのじゃぞ」


 唐突に帰ってくるのはいつものことなので気にせず会話する。


「どういう意味?何をしても未来には干渉しないんでしょ?」


「結果が決まった事柄に関しては干渉せん。

 例えばじゃな、暴力魔王に襲われたとするじゃろ、そこで打ち解け合うという結果は変わらん。

 こちらが何をしようが、どう転ぼうがそうなっておる。

 但しあちらの行動が間違った行動、要は記憶違いの行動になると整合性が取れなくなってくるんじゃの。

 そうなってしまうと結果は変わらんが、過程が変化するのじゃ。

 余だって記憶違いや服を互い違いに着ることもあるが殆どの場合問題はないのじゃ。

 だが過去へ飛ぶのが余ではないのじゃから問題が絶対無いとは言えん」


「過程が変わった所で結果は変わらないんだったらいいんじゃないの?」


「でじゃ、言い忘れておったことじゃ。

 過去の記憶から帰ってくる方法じゃの」


「死んだら帰って来られるんでしょ?」


「そ、そうじゃ、なんじゃ分かっておるのか、肩透かしじゃの・・・」


 不服そうな表情をする。

 この魔神、長く存在している分の自分の知識量を持って、上から目線で他人に言うのが大好物なので、その鼻っぱしらをへし折ってやるのが楽しい。


「分かっておるのなら良いのじゃ。余が少し過保護じゃったの。

 シンクロウには伝えたのじゃ。外には誰もおらんし、準備は完了じゃ」


 俺が俺の身体で復活するまで誰ともコンタクトを取らないと決めていて、ボォクと仲間はそれを承知してくれていた。

 俺がいるかいないかあやふやな状態が世界各国に対して抑止力になる。

 思惑通りに、疲弊した王国に手を出す国はまだいないらしい。

 極大魔術を消す何かを持っているのだ、手も出せまい。


「じゃあ直ぐにでも行こう」


「うむ。では余と接吻じゃ」


「・・・・」


「接吻じゃ」


 どうやら聞き間違いではないようだ。

 ボォクは恥ずかしげもなく手を広げて唇をむにゅっと前へ出す。

 自分と似た顔と接吻するのは嫌悪感があるのだが、医療行為と思って済ませてしまおう。

 何がどうやって接吻に至るかを問うたところで時間の無駄である。


 雰囲気も情もない接吻を済ませると、俺は半年ぶりに肉体へと精神を戻したのであった。


 そして、過去へと戻った。


 今にして思えば、俺は少々浮足立っていたのだろう。


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