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125:顔を洗って

 あれは今後の話をしている時のことだったか。


「俺の身体を生成しているのはいいけど、あとどれくらいかかる見積もり?」


 ボォクは暇があれば俺の元へとやってきて他愛ない自慢話と三百年前の愚痴を話しに来る。

 今回は鼻歌交じりで上機嫌に魔神賛歌とやらを歌ってやってきた。


 この場所は俺の精神が作り出した世界で、俺と一心同体であるボォクは簡単に出入りすることができる。

 俺とボォクの間にはプライバシーの垣根など一切ない。

 この精神世界はコアの中にあるらしい。

 

 ボォク曰く退屈は人を殺すので来てくれているらしい。


「半年以内には完成する見積もりじゃよ」


「具体的にどれくらいかかるか、そして現状どれほどの生成を完了していて、あと何かに躓いていないかを教えろ」


「な、なんじゃその物言い!

 余が嘘を言っているとでも言いたいのかの!」


「答えろ」


「わ、分かったのじゃ・・・。

 お主の身体は七割方は完成しておる。

 たった半年で七割も生成できたのは主の従者がよっぽど優秀であったと言えるの!

 して、そこから完成までには概ね半年以内じゃ」


「・・・・・」


 訝し気な目線でボォクを見つめる。

 俺に曖昧な表現を使って嘘をつくのはやってはいけない行為だ。

 旨いことは二度考えよと言うように都合の良い部分だけ抜き出してボォクは話している。


 期日を概ねと言う奴にロクな奴はいない。


「な、なんじゃその目、余の言っていることを信じていない目じゃぞ」


「・・・・・・」


「や、やめい、主が黙ると虫唾が走る。何か反論せい」


「・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・」


 精神世界に沈黙が訪れた。


 俺は黙ってボォクを睨み続ける。

 その目線と空気に耐えられなくなったのかボォクは堪忍して口を割った。


「・・・わかったのじゃよ、言うのじゃよ。

 主の身体は七割方は完成しているのは本当じゃ。

 ただ、そこからの生成は進んでおらん。

 んむぅ表現が違うの、進める事ができんと言った方が正確かの?」


「つまり問題に突き当たったと」


「突き当たった。

 とは言いにくいが、あり大抵に言えばそうじゃの」


 曖昧な言葉を返し続けるボォク。

 こんなのだから信仰心が無くなるのだ。


「お主の身体を生成するのには魔遺物と余の身体が複数必要と言うのは話したの」


「コアと複合して身体を生成している。だったね」


「そうじゃ。余の身体を素体として多数の魔遺物でお主の身体の諸部分を作り上げていくのじゃ。

 身体の七割は完成していると言ったが各パーツがバラバラなので片腕はないわ、腰がないわで見た目は面白人形みたいになっておるの」


 俺はプラモデルか何かなのだろう。

 機械だし別にそんな扱いでも構わないが。


「してじゃの、魔遺物集めはあの勇者っ娘と邪教徒に任せておって、そこは安泰なのじゃがな。

 問題――時間がかかっとる問題じゃぞ。

 それは余の身体の方なのじゃ。

 シンクロウが余の身体の場所を覚えてくれているおかげで場所は判然としているのじゃが、何かと小難しい場所らしくての。

 宗教やら国境やら提供やらで聞かされている余は狂ってしまいそうじゃ」


 他国に、多国に渡ってしまったボォクの身体。

 最初にボォクの身体が国外にあると訊いた時からこうなるのは予測していた。

 その為にイリヤの王位継承を手伝って、ある程度イリヤが権力を持ってくれるようにしたかった。 まさか王になるとまでは予想はしていなかった。


 因みに勇者っ娘がイリヤで邪教徒がアマネ。


「余の身体は十一個は集まったかの、着々と余が練って粉ねって生成中じゃ」


「ふーん、で?」


「正直これを言うのは余が言い訳しているようで気が進まんのじゃが・・・いずれは知る事じゃからの。

 主の身体を生成するのには時間は要しなかったのじゃがな、頭部と胸部が作れないのじゃよ」


「それはボォクの手際が悪いじゃないって事でいいよね?」


「当たり前じゃ。良し悪しを決めるとなると主が悪いのじゃぞ!」


「どうしてだい?」


「主があの暴力魔王の力を持っておるせいじゃ!」


「俺がリーチファルトの力を持っているのと、頭部と心臓部が生成できないことに何が関係してくるのかな?」


「主は知らんと思うが暴力魔王と余は水と油なのじゃ、反発する力なのじゃ。

 余も分け与える力で、あの暴力魔王も分け与える力じゃ。

 先にあの暴力魔王が分け与えたせいで主の身体の一部を生成する権利があの暴力魔王に移っておるのじゃよ」


「それってつまりは完成することはないってことだよね?」


「今は、じゃ。

 余は魔神ぞ?魔王如きの力なぞねじ伏せて見せるわ!

 かっかっかっか!」


「そのねじ伏せるのにどれくらいかかるのさ」


「そ、れ、は、じゃの・・・」


「半年以内にねじ伏せる意味で概ねの半年以内なんでしょ?

 言ってしまえば行先行きが不明瞭なのに期日を提示している訳だ。

 それでは確実に半年後のゲームには間に合わないね。不甲斐ない介添神だよ。

 これではまた君の信仰心は失われるだろうね」


「ぬ、ぬぅ。元はと言えばじゃの!」


「過去の話を掘り出すのは無粋だよ。

 それは君の落ち度だって言ったでしょ。

 過去の事をとやかく言って現状が変わるのであれば話し合おう。

 そうでなければ、どうやって問題を対処するのかを話し合おう」


 打たれ弱いボォクは見るからにしょげてしまう。


 ここが精神世界であったとしても時は外の世界と同様に進んで行く。

 神は時間を有限視していない節がある。

 このボォクに関しては自分の力に絶対的な自信を持っていて、そのせいでどれくらい時間がかかろうとやってのけられると信じ込んでいる。

 質が悪いったらありゃしない。


「話し合おうって言っているでしょ?

 それとも何?ねじ伏せる案しかないの?

 まさかあの魔神と言われたボォクが一つの案しかないなんて訳ないよねぇ」


「うぐっ」


 どうやらその案しかなかったようだ。

 案を練る才能がないな。


「君の問答に付き合えるならば、俺だって過去に戻ってやり直せるならやり直したいよ」


「・・・今、なんと言ったのじゃ?」


 ボォクが神妙な顔つきで言う。

 流石に癪に障ったか?


「過去に戻れるなら戻りたいね」


「それじゃ!

 それじゃよ、それじゃよ!

 流石は余が見込んだ魔族よのぉ。

 常人ではそんな発想は至らぬよ」


「バカにしてるね」


「しておらぬわ!

 褒めておるわ!褒め千切っておるわ!」


 褒める才能も無いらしい。


「オリュンデス山には神が舞い降りる塔があるのじゃ。

 そこの水桶に神が降りると水は血となり肉となり、そして生物になるのじゃ。

 して、その水は神水と呼んでおってな、肉体を生成する他にも効能があるのじゃ」


「奇妙で便利な水もあるもんだね。

 それでその効能はどうやったら受けられて、どんな効能なのさ」


「顔を洗うのじゃ、そうすればじゃな」


 ボォクは溜めて、ここぞという間をつくって言う。


「さすればじゃな!出直すことが出来るのじゃ!」


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