123:あれからあいつが
ここは暗殺ギルドミュスティカの拠点の一つである。バルディリス連邦の中にあるロロログ諸島に属する名もなき島。
ロロログ諸島は連邦政府の避暑地として有名である。
その中の一つの島を買い取り、政府の高官と偽ってその島を拠点としている。
避暑地の別荘として作られた木造のテラスから碧色の海を眺め、潮風をそよそよと受けながら思い更ける女が一人。
見た目が馬鹿になる程のピンク髪をサラリと腰まで下ろし、今までの偶像崇拝の為の派手な服ではなく、Vネックと通気性の良いチュールスカートという大人しめの夏服へと着替え、印象が百八十度変わったユララであった。
王国を見限ってから一ヵ月は過ぎた。
王国を潰す宣言をした。
現に王国は住民が魔物に襲われたせいで平民へ疲弊し、貴族は溜めた私腹を肥やしている。
王都内では上下関係の不平不満に亀裂が走り暴動が起こったりしていた。
それに対応できる人間も少なく疲弊して、ゆっくりと死を迎える。はずだった。
そもそも極大魔術で王都内の人間を殆ど殺すのがメインイベントであったのに、それをあれが。
あいつが。
あの憎き奴が。
台無しにした。
人間が必死に藻掻き、足掻き、抵抗し、拮抗し、それを見るのが大好きなのに。
拳に込めた等身大以上の魔力で台無しにされた。
面白くない。
現状メラディシアン王国はイリヤ王を玉座に置いて、魔術教会と中央遺物協会とギルドと共に国を世間一般が喜ぶ良い方向へと立て直している。
綺麗さっぱり柵を取り払ったはずなのに、またあの場所へと赴きたいと思うワタシがいる。
少し、人間味がある。
染まったと言えばいいのかもしれない。
「おうユララ、何物憂げに考え込んでんだ?」
別荘の中から現れたのはアロハシャツを着た髭面でボサボサな黒髪と黒い瞳を隠す為にサングラスをかけた暗殺ギルドのギルドマスター。
「・・・んー?いやいや、君との付き合いも長いなぁなんて」
ユララはテラスの欄干に背を預けて振り返る。
「確かに長いな。桁を省けば三本指程度で数えられるがな」
「にしても君は老けないね」
「そりゃあお互い様だろう。
お前は祭事の終わりはいつもそうだな。まるで玩具を取り上げられた餓鬼のようだ。
他の奴等もそんななのか?」
「ワタシは・・・まぁそうかもね。自覚しているだけマシってやつ」
あいつは自覚していないから本当に餓鬼だ。
「まぁ祭りはこれからだ。
これからは俺とお前で共に騒ぎ立てて行くぞ。期限までもう少しだからな」
「ワタシからすれば年月なんてどうでもいいかも」
「・・・おいおい、お前ガワが剥がれているぞ。
名前を変えて話してやろうか?」
「それはお断り。
今は皆いないんだし、取り繕わないのもいいでしょ?」
「・・・・おセンチなこった。
そんなにもあのリヴェン・ゾディアックが消滅したのが気に障っているのか?」
「そうだね。横取りは良く無い」
「横取りつってもなぁ、あの勇者の子孫がどんなものか気になったし、俺とは因縁浅からぬ仲だしな。
揚げ足を取るならばお前が先に横取りをしたもんだろ」
それはそうだけれども、言葉にされると、ひどく面白くない気分である。
ギルドマスターはユララの横へ移動して同じように欄干に背を預ける。
「でもまぁ、まさかあの場に神がいるとは思いもしないよなぁ」
「神はどこにでもいるし、どこにでもいない。
君の世界でもそうだったでしょう?って言っても君は自分が神になると思っている男だったね」
「今はそうでもねぇな」
「へぇ心変わり?」
「なると思っているではなく、なっているからな」
当たり前のように、当然かのようにギルドマスターは言う。
「確かに、ワタシとまぐわったもんね」
「気分転換にしておくか?」
「嫌だよ、これ以上取られたらたまったもんじゃない」
「お前が性行為を断るたぁ、明日は雨だな」
「台風は接近中だってさ」
閑話休題。
「リヴェン・ゾディアックを侮ってはいけないよ」
「侮る?馬鹿馬鹿しい、俺が対面する人間を侮る訳が無いだろう。
あの勇者の子孫にしてもそうだ。俺は侮らずに謀ってやった。
まぁ力押しで撤退させられた訳だが、そこは侮りというよりも俺の過誤だな」
「スキル三つ消えたもんね。あれレア物でしょ?」
「まぁまぁな品だな。
だがまぁまた集めればいい。堕としたスキルは、またどこかで生れ落ちる。
それがこの世界の輪廻というやつなのだろう?」
「輪廻信じてないくせに」
「今は、と言っただろう。
・・・・今のリヴェン・ゾディアックは俺と目指すところが近い。
あやつは絶対に復活してまた俺達の前に立ちはだかる。
そう感じる。いや、経験則か。
いやはや面白いものよな、一度しかない命を何度でもやり直せる方法があるというのは」
「何度でもは無理だっての、命は一つ。
あのリヴェンは人間でも魔族でもない、遺物だよ。必ずしもどこかにコアがある。
それを潰せば命を絶てる。
どこにあるかは知らないけど、手元には置いている」
「大事な物は手元にだな」
ギルドマスターはユララの右肩に腕を回して身体を寄せさせた。
こんなことで、こんな人間に、こんな気持ちにさせられるのは・・・面白いかもしれない。
自分で笑ってしまう。
嗚呼、人間に成ってしまったのだな。と、笑えてくる。
ユララは肩にある手を優しく取り払ってから、いつもの仮面のような笑顔を作った。
「ユララちゃん☆次の作戦実行が楽しみになってきちゃった」
ギルドマスターは急な心情の変化に鼻白んだが、呆れたように鼻で笑った。
「お前はそれでなきゃ始まんねぇよ。
よし今日は景気づけに俺が料理を作ってやろう」
「えーやだー下手物ばっかじゃーん」
そんな他愛ない話をしながら二人は別荘の中へと入って行く。
ユララ達が再び動き始めるのはリヴェン・ゾディアックが復活を果たした時である。
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