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122:それからそれで

 気が付けば。


 気が付いたら。


 俺は懐かしむべきである魔王城の玉座の間で玉座に座っていた。

 あの一緒に封印された玉座と何ら変わらず、肘掛も、背もたれも、三百年間座り続けていた椅子だと身をもって知れる。三百年の間意識は殆どなかったけども。


 玉座の間には誰もいなかった。

 人っ子、魔族っ子一人もいなかった。

 とうの昔の日常の景色の一部なのに、何故か懐かしくも感じなかった。

 この景色を見て思うのは、殺風景だなとの感想だけ。


 立ち上がって歩き回り、玉座の間の扉を開けようとしても開かなかった。

 力任せに押してもビクともしない。外に出たくても出してくれる扉ではないらしい。


「なんじゃ、起きたのかの」


 他に出口はあるか探そうと扉から踵を返したところで、玉座の間の真ん中に立っているボォクがそんな言葉を投げかけてきた。


「あれからどうなった?」


「・・・どれを訊きたいのかの?」


「まずは極大魔術をどうしたかだね」


「極大魔術の。

 無論あれは余の力で破壊してやったわ。

 じゃからあの国の住民に極大魔術では被害はでとらんの。

 余に感謝するんじゃぞ?敬うんじゃぞ?」


「そっか。ありがとうボォク」


「うむ。くるしゅうない」


「イリヤ達も無事かな」


「無事も無事じゃな。

 まさかあの娘っ子が勇者の子孫じゃとは余も気づかんかったわ。

 主はつくづく配下に恵まれておるの」


「俺じゃなくてイリヤが恵まれているんだよ」


「謙遜とはよほど傷を負ったようじゃの」


「そうでもないよ。

 ・・・俺はこうして生きている・・・とは言えないんだろうね」


 ここは現実ではないことは俺自身が最も理解できる。

 何せイリヤが持つ聖剣で俺の身体は朽ち果てる程にボロボロになったのだから。

 所持していた魔力も全て失い、俺は身体を失った。のだろう。


「はぁ・・・今はお主の身体を生成中じゃの。

 お主の配下全員が各地から魔遺物と余の身体を集めておるわ。

 それらを余と主のコアと複合させて、以前のお主よりも最強の身体にしてやるのじゃ。

 あんな聖剣などの余波で粉々になどならん身体にの!

 あの程度の攻撃で身体を無くすとは全くもって情けないの!」


 言いたいように言われたが、まぁそんな身体だったので甘んじて言わせておこう。


「あれからどれくらい時間が経っているのかな?」


「んー?えーっと、あれじゃな・・・ちょっと待つのじゃ」


 そう言ってボォクが固まって、目の焦点が下へ行く。


 数秒して俺と目を合わせる。


「半年じゃの」


 あれから半年か、三百年と言われたら流石に動揺していたが半年ならば予定範囲内と言えるだろう。

 その半年で誰も死んでいなくて、誰も傷ついていないならば身体を無くしたのも悪くはない。


「驚かないようじゃの?」


「驚くほどでもないからね。

 それよりも情勢とかを詳しく知りたいね。

 半年も経っているならばメラディシアン王国の王も決まっているだろう?」


「主は自分の身体よりも、世界の情勢が気になるのかの?」


「仲間やボォクが直しているんでしょ?じゃあ問題ない」


「・・・おぉ、なんじゃろうか、お主が言うと薄ら寒いの」


 強めに「それで?」と訊くとボォクは喉を鳴らしてから話し始めた。


 あの一件で多くの候補者が殺された。

 最初に死体として見つかったのがカレイズとジライズの死体。

 カレイズは胴体が、ジライズは首が鋭利な刃物で斬り落とされており、宝物庫前の廊下で亡くなっていた。襲撃者は不明。


 次に見つかったのがハトハル王妃。自室にある椅子の上で絞殺されていた。

 これには目撃者が残っており襲撃者が誰だか判明している。

 襲撃者はユーフォリビアである。突然ハトハルの部屋に侵入し、衛兵の腕を手刀で斬り落とし、無力化。

 そして「あの時のお礼だよ糞婆」と言って首を絞めた。これが腕を斬り落とされながらも辛うじて生きていた衛兵の証言である。


 カナビナの死を報告したのはバンキッシュらしい。

 襲撃者は暗殺ギルドの一員である人物。容姿は女性としか情報は無かった。

 バンキッシュはそいつと対峙して、お互い血で血を洗うような戦いを繰り広げたらしい。極大魔術を破壊した音で襲撃者は去って行ったらしい。


「かのバンキッシュとかいう魔族。いいスキルを持っておるの」


 話の途中で思い出したようにボォクは言う。

 確か最初にバンキッシュと会った時もそんなことを言っていたか。


「確かに逸嗅覚は良いスキルだね」


「いやそっちではない。未来予見のほうじゃ」


「あぁ、あれね」


「なんじゃ知っておったのか?

 主の態度からしててっきり知らぬのかったと思っておったわ」


「詳しいことは本人からは聞いていない。ただそうなんじゃないかなと思っただけだよ。

 俺も未来予知を持っていたからね。あれは未来を変える事が出来るんだよね?」


「そうじゃったの。

 ふむぅ、まぁそうじゃの。

 予見した未来を変える事もそのままにすることもできるスキルじゃな。

 あやつが変えなければ被害が広がっていたの。

 あの男と戦っていたのが勇者の娘ではなくお主になっていたと言っておったわ」


「バンキッシュにはうんと礼をしないとね」


「そうしてやるとよいわ、奴はお主のほの字じゃからの

 ・・・・話が逸れたの」


 シーマは頭だけを残して死んでいた。

 身体は爆ぜたのか、部屋一面に内蔵物が張り付いていたらしい。

 襲撃者は不明であり、シーマの部屋の外は同じような死体が多かったようだ。


 後ろ盾のない継承権を持つイリヤと同い年のルルレイズは妹のラレイズと共に焼死した。

 王城に火の手が回り彼らの部屋の引火し、逃げ遅れた。

 同じ死因でもう一人の王位継承権を持つ赤子のメトハレイズも乳母と共に亡くなっていた。


 残った王位継承権を持つ人間はキュレイズとイリヤと三歳になったばかりのガレシルだけとなった。


 そして王となったのはイリヤであった。


 キュレイズは王国騎士団と王の執務を熟せない上に、疲弊した王国を、メラディシアン王家を支える為にイリヤに譲った。

 そう言えば聞こえはいいが、イリヤが勇者の子孫であり、今回の騒動の決着をつけた張本人だとガラルド達が民衆に広めたのが一番大きいのだろう。


 だがまぁしかしキュレイズの性格上、王になるよりも、王補佐になる方が俺も向いていると思う。


 結局今回の騒動。

 ユララ・マックス・ドゥ・ラインハルトとユーフォリビア・デブレ・ラ・メラディシアンが起こした反乱により王位継承戦は幕を下ろした。


 これは俺の身体が消えた一週間後の話。


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