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121:聖剣

 いつになく心がざわついたので俺はボォクとシンクロウを信じてイリヤのいる部屋へと向かった。


 城内は騒然としていた。

 それもそのはずでどこから侵入したのかは知らないが、魔物や自意識を失った遺物人間が暴れまわっている。

 それに対応する兵士と王国騎士の指示系統がないことで統率が取れずにうまいこと機能していなかった。


 それらに巻き込まれない様に駆け抜けていく。

 どうしても行く手を塞がれた場合は魔物を殺し、遺物人間も殺して風のように過ぎ去っていくだけであった。


 行きよりかは時間が掛かったがイリヤのいる部屋までやってくると部屋の前には見張りだった王国騎士団員が首から血を流して壁に持たれるようにして死んでいた。


 俺はアマネとの通信を再び繋げる。


「アマネ生きているか!」


『い、生きていますよ・・・』


 アマネからは震えた声が返ってきた。


 アマネはここから近い部屋にいる。

 性格的に部屋から出ないで状況を把握しているだろう。

 そのアマネが襲われていないのならば、この見張り兵を殺害した人間は直通でイリヤの部屋へと来た。


『どうなってるんですか、皆さんは大丈夫なんですか?

 てか私これ生きてます?本当は死んでいたりしません?

 お酒、お酒、あ、美味いです』


「今からイリヤの部屋に入る。通信はそのままにしておくように」


『わ、わかりました』


 俺は部屋の扉を開ける。認証が機能していなくすんなりと開けられた。


 部屋に一歩足を踏み入れた瞬間に身体が後ろへと飛んだ。

 俺が飛び退いた訳じゃなく、何かに吹き飛ばされたと気付いたのは廊下の角にぶつかったことを認識した時だった。

 俺の身体を吹き飛ばす程に物凄い風圧を受けた。


 視界の奥に映る踏み入った部屋は眩いほどの太陽の光と、瓦礫と煙に塗れていた。


 俺は立ち上がって部屋に入りたいのに、身体は言う事を効かなかった。


 再起動してから初めての出来事に脳が処理を追いつかせない。

 これではまるで俺が身体的ダメージを受けて動けないみたいではないか。


 轟音と共にまた一迅の風が吹いて部屋の中が明瞭になる。


 部屋の半分は形を失って外の景色が眺められるほどに破壊されていた。

 扉側では装甲を破壊されたパミュラの胴体と、パミュラの頭部を守る様に抱きながら、ぐったりと倒れているガストがいた。


 そして部屋の中心には部屋をこんな有様にした人物が一人、身体に似合わない長剣を持って立っていた。


「イリヤ・・・」


 俺の呟くような言葉が聞えたのかイリヤは振り向いた。


「リ、リヴェンさん。私・・・」


 俺を見たせいで、肩で息をしてから持っていた長剣が震えだす。

 抑えていたのであろう感情が溢れ始めている。表情からは恐怖や後悔が読み取れる。


 俺の身体はまだ治らない。


「流石は聖剣本来の威力だな。スペアがなければ死んでいたぞ」


 男の顔が破壊された部屋の宙に浮いていた。

 その顔から下がゆっくりと生成されていく。

 骨、臓器、血管、筋肉、皮下組織、皮膚、爪。そういった順で身体が出来上がっていく。

 男の顔はどこかで見た事あるようで、見たことの無い顔であった。人の顔を思い出せないのは珍しい事なので、自分が如何に今、落ち着いていないのかを再確認する。


「もうこれ以上誰も傷つけさせません!」


 イリヤは男に対して果敢に言い放つ。


 そんなイリヤの言葉も男は悪戯に笑って返すだけだった。


「はっはっは!愉快だ!実に愉快だ!」


「な、なにが――」


「いや何、一言一句違わず同じ言葉を嬢ちゃんの祖先は吐いたのが面白くてな。

 しかも状況が同じときたもんだ。

 それが実に愉快でならん。

 俺は思うのだよ、血とはこうも濃く残り、こうも継がれるのだと。

 嬢ちゃんは魂の在処はどこにあると考える?」


「え、えっと・・・心臓です」


 律義にもイリヤは答えた。


「お前さんは?」


 今まで俺の事が目に入っていないと思っていたが、男はしっかりと認識はしているようであった。


「細胞だね」


「それもいいな。

 俺は血に魂が宿っていると信じている。

 嬢ちゃんが言う心臓を移植した場合に人格が移る場合もあれば、細胞レベルで刻まれた人格もある。

 血も同じであり、生物、特に人間は血で形成されていると言ってもいい。

 その血がより濃ければ濃いほど魂はそこに存在する」


「血統主義ってやつですね」


「・・・誰もが自分の血を、筋を、通わせるのが当たり前だろう?

 魂は当たり前に存在し、当たり前に宿る。

 まぁ自論だがな!こんな質問はただの世間話でしかねぇよ。そんなきばんな」


「気張ってなんか」


「じゃあ嬢ちゃんにもう一発撃てるのか?」


「う、撃てます、貴方が抵抗してくるならば、何度でも」


「そうか。そりゃあ元気なこったな。

 だが周りの人間が余波でどうなってもいいのか?

 咄嗟に入ってきたそこの男さえも守れていないではないか。それでも撃つと言うのか?」


 男はイリヤを焚き付ける。

 イリヤもうすうすおかしいと感じ始めているだろう、あれだけ再生する俺が全く再生することなく、いつものように飄々とした態度で前に立たないことを。


 俺は自分の傷の治りが遅い事を理解した。

 そして紐づくある事実を理解してしまった。

 理解、というよりも考えない様にしていたことを、自分自身で突き付けてしまったのが正しいのかもしれない。


 イリヤは答えない。


 答えられない。


 決められない。


 決断に至れない。


 俺はイリヤを守ると決め、約束した。


 約束は破るものだ。反故にするものだ。

 俺の手にはリーチファルトの約束で最初から手一杯なのだ。


「イリヤ、撃て。それでそいつを倒せられるのなら、お前が撃て」


「で、でもリヴェンさん」


「俺がそんな攻撃で死ぬと思っているならば甘く見られたものだよ。

 俺がイリヤに嘘を言ったことある?」


「沢山ありますよ!・・・でも、今回は嘘じゃないですよね?」


「ここで嘘をつく必要がある?」


「・・・・」


 イリヤは俺から視線を外して男を見据える。

 俺からは見えないがそれは覚悟を決めた顔をしているのだろう。


 俺の身体はボォクと同化したことで神に近くなっている。

 これが最近知った事実。この事実がなければまだ狼狽していたかもしれない。


 イリヤの持つ長剣は聖剣と呼ばれていた。


 そう呼ばなくても注視して見れば記憶の奥底にある根源的な恐怖の対象の剣であることを思い出す。


 あれは、勇者グランベルが使っていた聖剣グランベライザーなのだから。


 その聖剣が放つ余波は俺にとっては最大級にダメージを与えることが出来る攻撃なのだ。

 だから未だに傷の治りが遅く、身体が傷つけられている。


 あの余波をもう一度くらえば神の身である俺は屠られる可能性は高いだろう。


 ずっと分かっていたことだ。


 イリヤは勇者の子孫。


 あの男が虚言を吐いて言おうが、聖剣が正常に使用できている時点で、子孫であることは確かなのだ。

 聖剣は勇者にしか使えない。


「グランベ!!!!!」


 イリヤは聖剣を振り上げる。


 そうだ。

 そうやって自分の振舞い方は自分で決めていかなければいけない。


 君はそうやって成長していかなければいけない。


「ライザーーーーー!!!!!!!!」


 聖剣が振り下ろされて余波が届く今際の際に見たのは幼き勇者の姿であった。


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