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118:ユーフォリビア・二

 術式を展開する瞬間にユララの声と共にシンクロウの声が聞えた。


「そこまでですよ、リヴェン様」


 目の前に鴉の羽が舞い、俺とユララの前にシンクロウが降りたった。


「それを撃ってしまえば、貴方は成ってしまう。

 怒りは収めなくていいですよ、オレが引き受けましょう。

 オレの羽に触れて貰ってもよろしいですか?」


 シンクロウが現れても俺の怒りは収まることは無かった。

 ユララへと打ち込むためのこの拳を振りたかった。

 しかしシンクロウの言う通りに魔力が溜まった拳ではない方の手で羽へと触れると、怒りの感情がスゥーッと消えていく、まるで吸い取られていくような感じだ。


 シンクロウの羽に赤色のメッシュが増えていく。


「ど、どなたですの?」


「これは失礼、オレはチョウソウ・シンクロウ。リヴェン様の配下ですよ」


「え、でも、そのお羽は人・・・では・・・ない?」


「えぇオレは魔族ですから。ユーフォリビア様には危害を加えませんよ」


 魔族だからと言っても今はユーフォリビアを守る立場にいるし、敵意さえもないことを示す。


「へぇ・・・チョウソウか・・・

 チョウソウ・・・

 あぁ!ライト・エヴァ・グリスティンと戦った魔族だ!

 へぇ伝説の生物だ!すっごぉい」


「物知りですね」


「物は知り、記憶するものだからねぇ。

 で?どうするの?君がユララちゃん☆とやるのかな?

 ライト・エヴァ・グリスティンと戦った魔族と戦えるなんてゾクゾクする。

 ま、さっきまでの状況の方が刺激的だったけどね。びしょびしょだよ」


「安心してください、オレにはリヴェン様の怒りも乗っているので」


 シンクロウは剣を抜く。

 あまり剣には詳しくはないが、いい出来の剣は斬らずとも見れば分かった。

 この剣は聖遺物である。能力としては夜から朝方にかけて切れ味が増す。そんな説明を聞いた。


 日中はというと。


「んー?それ本当に剣なの?」


「剣だ。其方には何に見えている?」


「鞭」


「ではそうなのだろう」


 日中は姿を変える。

 それは見たい人の思考によって変わる不思議なものだ。


 聖遺物はスキルが付与されている代物だ。

 神が物体にスキルを付与させて遺物にした。

 そう伝わっている。

 この剣トゥナイトが付与されたスキルは朝暮夜。日中は相手に見せたい姿に変わる。


 俺には剣に見えているが、ユララには鞭に見えているようだ。


「あーはん。そっち系ね。じゃあ試しにやってみようか」


 ユララが自分の二本の腕を広げて間合いを詰めてくる。

 シンクロウの力量を試しているのだろう。

 ボォクが復活する夜分にしか会話をしたことがなく、戦闘時を見た事が無いので俺も気になっていた。


 あのライト・エヴァ・グリスティンと痛み分けならば、当時の俺と同じくらい強いはずだが。


 ユララとシンクロウの間合いが重なった。


 シンクロウが先に剣を振り下ろす。

 ユララは鞭に見えているがしっかりと剣を掴んだ。

 ユララは鞭だと認識しているが、想像だけで剣を受け止めた事になる。

 こいつは頭脳も身体能力までもが、そこらの人間とは違う。


 右と左で圧力加えて剣を折られる前にシンクロウは羽を使って攻撃する。


 羽を大きく羽ばたかせると抜けた羽がユララを襲う。

 赤と黒の羽がユララの六本腕に刺さる。

 この羽の色が変わるスキルは触り程度にしか聞いていない。

 何でも感情を吸い取って、それを力にする力らしい。

 神官であれば神の感情を制御するのも仕事の内、ボォクが感情気ままな性格のせいもあるが、そのスキルを身に着けたらしい。


 六本腕で防御したのはユララとしては正解だったが、不正解でもあった。

 六本の腕がまるで違う意思を持つようにユララへと襲い掛かる。

 殴られる瞬間にユララは魔遺物の起動を停止してシンクロウから距離を取る。


「んあ?そっちはそういう系統か」


 一度くらっただけでスキルの系統を読み、距離を取ったのか。

 こいつは魔王の一撃を見ている。

 だからこそそれを超える一撃を撃ち込もうとした。

 その攻撃は人間なんて跡形も残らないだろう。

 もしも、もしもそれを見られたとしたら、この女は対策を取ってくる。

 今はまだそれを超える攻撃手段を持っていない俺は、ユララに敗北する可能性がある。


 シンクロウは一年後の事を気にして、どんな相手にも手の内を見せたくなかったのだろう。

 だから自分が手の内を見せることにした。いい家臣だ。


「うーん。もうちょっと引き延ばしたかったけど、いっか。

 ねぇねぇ高級な魔遺物にはさまだ意思が残っているのは知っていた?」


「えぇ、貴方のもそうでしょう?」


「そう!君も物知りだね」


 ここでの高級は年代物の事を指している。

 つまり俺が会得したジャモラの魔遺物やボォクの魔遺物には意思があった。

 だからこそ昔の記憶を思い出したりしているのかもしれない。


「魔王様❤はさ、高級品とは違うよね。

 遺物人間でもない。

 元から意思があった、まるで生きながらにして魔遺物になったような感じだよ。

 神様でさえも死んでからしか遺物にならないのにね。凄くユララちゃん☆気になるなぁ」


「撃つぞ?」


 手を閉まってから明らかな時間稼ぎ、手を変えてきた。

 それを悠長に聞いてやるほど今は許容量がない。


「おぉっと怖いなぁ。分かったよ、本題を言うよ」


 折角お話しようって気になったのに。とユララは両手を上げて言う。


「ユララちゃん☆が王様×を殺した」


 いとも容易く白状した。


「な・・・え?ユララさん?」


「王様の喉を斬った。これが証拠の品」


 手に持っていた短剣を見せる。

 短剣はメラディシアン王国の紋章がついていた。


「それは・・・お父様の・・・」


「殺してやったよ。

 怠惰で、強欲で、色欲塗れ。国民の事を一切考えない糞な王様。

 弱き者から搾取し、搾り取れなくなったら排斥する。

 人間の最も愚かで醜い感情を惜しみもなく表に出す醜悪な男。

 死んで当然だし、殺されて当然だよね。

 こういうのを神の鉄槌って言うんだよ」


「正当性はないね。ユーフォリビア、聞かなくていいよ」


「いいえ、いいえ!私は聞かなければいけません!

 お父様を殺害したのならば、その罪を吐き出すというのならば、娘である私は聞く権利がありますわ!」


「いいや、駄目だ。荒唐無稽な事を言っている。

 罪の意識に苛まれた訳でもなかろうに、目的はこれを君に聞かせることだ」


 ユララの眼が少し大きくなる。

 当たりである。

 ではなぜそんなことをするのか、推測するにはもう少し時間がいる。


 しかしユララは時間を与えない。


「そもそも王様×も兄弟姉妹を沢山殺して今の玉座についたんだよ。

 あーいや他にも殺していたね。

 貴族に、士官に、自分に害があろうもの全員。

 本当はユーフォリビアちゃんも殺す予定だったんだよ。実行犯はユララちゃん☆ね」


「な、何を言っているのです?」


「だってユーフォリビアちゃんは民から好かれていたから。

 後の王女になりうる力がある。

 国を作るのは民、民があるからこその国。

 王道を行く王女様。邪魔な訳が無いよね」


「私を・・・殺す?」


「だって未だに処女を貫いているのも原因だよ。

 知らないだろうけどあの王は自分の姉妹はおろか娘とも身体の関係があるんだよ。

 その中でユーフォリビアちゃんだけは求めようにも求められなかった。

 何故だと思う?って聞いても答えられないか。

 答えはね、綺麗すぎるから。

 あれは少し綺麗なのが好みなの。物凄く綺麗な物は手をつけずに見物しておくの、そして手に入らないと確信した時には壊す。

 その考え方は戦争なら褒められた考え方だね」


 ユーフォリビアは信じられない事実を突きつけられ、呼吸を荒くする。

 こんなにユーフォリビアを追い詰める事実を言ってどうなる?

 精神的に殺そうとしているのか?

 だが彼女は気丈な女性だ。確固たる優しさを持っている人間の八割方は気丈である。彼女もそれが見受けられる。


「ユララのいう事は真に受ける必要は無い。

 この女は君を貶めて反応を見て楽しんでいる」


「魔王様❤に何が分かるのさ、ポッと出の癖にさ。

 ユララちゃん☆は何年もこの国に仕えているんだよ。

 ねぇユーフォリビアちゃん、どうしてユーフォリビアちゃんは今生きていると思う?」


「どうして?」


「だってユララちゃん☆が殺す予定だったんだよ。

 甘々なユーフォリビアちゃんを殺すのなんていつでもできたのにさ。

 どうして今生きているのかな?」


「それは・・・お父様が・・・わたくしを」


「いや王位継承の時点で王は殺すと決めていた」


「ユララさんが、わたくしを」


「ユララちゃん☆が仕事をしっかり果たすのは知っているよね?」


 問答を続ける。ユーフォリビアが自分で気づく様に誘導している。


 この質問で解った。

 これ以上続けられると不味いが、俺が何かを言えばそれは助長するだけ。

 口を挟もうにも挟めない。

 ユララは俺が黙っていても、口を出したとしても、どちらでも目的を果たせるようにしていた。


 これはもうお手上げだ。


 俺の想像が正しければ、ユララは仕上げに入る。


「王は自分に害がある人物を殺す」


「わたくしは害ではありません。

 ずっとお父様に良くして貰ってきました」


「そうだね。ずっとそうだったね」


「そうですわ、わたくしに害はありませんわ」


「本当にね。

 王様に対しては無害だった。

 なんなら有益だったよ。

 草木に関しても、有害な奴らを殺すにしてもね。

 ほら?思い出して、今まで自分がしてきたことを」


「わたくしが?殺人?」


「放火に拷問もかな」


「そんなこと、そんなことを」


 ユーフォリビアは大事なコンパクトを床に落として頭を抱える。


 ユララの目的はユーフォリビアにストレスを与える事だ。


 最初から、最初からそうだった。

 このユーフォリビアにはキュプレイナがいた孤児院を燃やし、殺人を使役した疑いがかかっていた。


 俺の見立てでは、そんなことをする人物ではないと判子が押せる。

 ユーフォリビアはそんなことはしない。ユーフォリビアという性格はな。


「殺した。

 殺せと命じた。

 ユララちゃん☆とも対峙した。

 そしてまた押し殺した」


「あぁ・・・ああああああ!」


 頭を抱え、爪を立て、悲鳴のような声をあげる。


 ユーフォリビアは記憶を失っているにも等しいだろう。


 叫ぶのを止めて静かになった。 


 垂れた髪の毛を掻きあげて大切なコンパクトを踏みつける。


 そこにいるのはユーフォリビア・デブレ・ラ・メラディシアンであるが。そうではない。


「ようやくお目覚めだね」


「糞みたいな寝覚めよ」


 彼女は、ユーフォリビア・デブレ・ラ・メラディシアンは二重人格である。


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