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113:六十五

 ワワが飛び出てリェンゲルスの前に姿を現してから、自分の間合い手前で止まる。


「ん?結構やれそうな奴じゃねぇか。名前はなんだ?」


「聞きたいのならまずお前が名乗れ」


「おぉそうだな。俺はリェンゲルスだ」


「ワワ・ゲイザーだ」


「お前があのワワ・ゲイザーか!へぇ、そうか。ヴェルが世話になったな」


 上から下まで品定めするようにリェンゲルスは見つめる。そして鼻で息を吐く。


「こんなもんか」


「敵の力量を見余ると足元を掬われるぞ」


「それはお前だろ?おーいメメメ、ワクゥ、こいつも俺一人で充分だからな!」


 と言っても二人はリェンゲルスを相手にせずに自分のやりたいことをやり続けるだけ。

 それは了承であり、リェンゲルスはワワに向き直った。

 その隙をワワは見逃すわけもなく、攻撃をしかけた。


 上段回し蹴り。

 構えの自然体からの片足を軸足にして、鍛え上げられた脚を相手の顔面へと叩きつける蹴りである。


 ワワはそこへ己の魔力を込めて水圧の高い水を纏い破壊力を増している。

 更に今回はヴィーゼル兄弟の鼓吹鼓舞の効果を得ているので人間一人の頭など苺を潰すも同然であった。


 リェンゲルスは防御をする素振りさえ見せないで脚を目で追う。


 上段回し蹴りの弱点は回し蹴りであるが故に自分の脚で相手の存在が見えなくなるところである。 ここに対象者がいるから素早く打たなければ手痛い反撃を貰う技。

 素人相手ならば不意に打てばくらうかもしれないが、初激で放つ技ではない。


 リェンゲルスはワワとヴェルファーレの確執を知っており、ヴェルファーレの事を親しみのある呼び名で呼ぶ仲。

 暗殺ギルドの一員だとワワは認知していて、人間離れの強さを目の当たりにしているにも関わらず、上段回し蹴りを選んだ。


 目で追う最中にリェンゲルスは思う。

 素で受ければ即死はしないが致命傷に近いダメージを負う。

 脚に纏っている水があまりにも厄介。触れれば斬り刻まれるような鋭利さを持ち、当たれば頭は砕け散る。

 単純に避ければいい。

 相手はここだと決めて撃ち込むのが上段回し蹴り、当たる直前までその対象者を見続けることで弱点を克服するのが当たり前だが、この男は目と自分の周りに水の粒を作り上げ、それを鏡として利用し、場所を確実に捉えている。

 だから屈んで避ければ速攻で追撃に移る。この一撃で命を獲ろうとしている攻撃。


 それ程までに脅威だと捉えられたことにより、それでいて的確な攻撃を仕掛けてくるワワの評価を上げた。


 単純明快に後方へ避けるのが今の最善手ではあった。

 しかしリェンゲルスは退くことをしなかった。


 一番近い左腕で受ける。

 左腕からは血が噴き出て、骨が折れる音が身体に響く。

 受けた瞬間に足腰には力を入れずに僅かに空中へと浮く。そうすれば必然的に身体は物理法則に従って力を込められた方向へと吹き飛ばされる。


 上段回し蹴りを放った脚が着地すると同時にワワは高められた身体能力で追撃に走る。


 リェンゲルスが吹き飛ばされた方向は仲間がいる場所とは反対側である。リェンゲルスが一人でやると言ったので助ける素振りさえもしない。


 倒壊した民家へと追撃を行う。

 上段回し蹴りは頭こそには入らなかったが、左腕に多大なるダメージを与えた。

 通常の上段回し蹴りではこうはならなかったので、ワワはヴィーゼル兄弟に感謝をする。


 民家の中は煙に包まれリェンゲルスを視認することはできない。


 リェンゲルスも煙に乗じて攻撃を仕掛けようと考えている。

 それもまたワワは読み、民家の天井に大粒の水を滴らせて雨の如く振らせる。


 煙に乗じて攻撃を仕掛けようと心の準備をしていたリェンゲルスは不完全な状態で煙理が晴れる前に残った右腕で攻撃を仕掛ける形になった。


 閉所においてはリェンゲルスに掴まれば外の死体と同じ結末を辿るはずであり、それを目の当たりにしているワワがわざわざ危険を冒してまでも入ってきたのは勝てる算段があるから。


 この水はワワの魔力からできた水であり、自分の魔力に触れているリェンゲルスの位置は特定済みであった。

 煙を晴らす目的と見せかけて、手負いのリェンゲルスに確実に止めを指すための攻撃への布石でもある。


 今度の攻撃は位置を特定しているからこその三日月蹴り。

 上段回し蹴り同様に足には水を纏わせているために、当たれば鳩尾はミンチになるだろう。


 リェンゲルスは身体を捻って鳩尾を回避して右の脇腹で攻撃を受ける。

 臓器までいかれると致命傷なので筋肉でなんとか耐え忍ぶ。


 敢えて受ける。

 それが次の攻撃へと移行するからである。

 抉られている最中に身体を曲げて、唐突に振り上げていた右腕を降ろして脇を閉める。


 リェンゲルスは筋肉を破壊して臓器にまで達しようかとしていた足を医者が診断すれば粉砕骨折と診断する左腕で弾いて、締めた脇でガッチリと掴んだ。


 そんなことをすれば右腕も壊れ、右脇までもが破壊される。

 ワワは完全に予想外の行動によって対応が遅れた


 右腕と脇の筋肉だけでワワの身体を空中へと持ち上げて、民家から投げ飛ばしてしまう。


 広場に着地をしようとするが、今の一瞬でワワの三日月蹴りを放った右脚は折られていた。

 肉体も防具も強化されているにも関わらずである。


「いってぇなぁ!傷が増えちまったぜ!」


 着ていた服は自身の血と返り血塗れで赤く染まっていた、それを破り捨てて上半身半裸になった。 リェンゲルスの上半身にはおびただしい程の数の傷跡があり、今ワワが付けた傷もその一つになっていた。


 リェンゲルスは自身の傷の具合を見る。


「六十五ってところか」


 ワワは自分の評価点だと思い、見くびられたものだと考えるが口にはしなかった。


「あ?なんだ?お前の点数みたいなもんだぞ。因みに八十がマックスだ」


「まだ人を採点している余裕があるんだな」


「あぁ、俺の本領はここからだからな。

 お前みたいな素の俺と拮抗した奴と最初に会えて運が良かった」


 早く止めを刺した方がいい、何か取り返しのつかないことになる。

 ワワは折れた脚を気にせずに突っ込む。


「血肉の解放だ!」


 ワワの攻撃が当たる手前でリェンゲルスの身体からかなりの熱を持った蒸気が湧きだして、片足の折れたワワでは踏ん張りもきかずに後方へと吹き飛ばされる。


 吸ってしまえば喉が焼ける程の蒸気を間近で受けてしまい、ワワの肌は少しだけ爛れた。


 蒸気の煙の中からは影が見える。

 それはリェンゲルスであったものとは大きさが一回りも違う影であった。

 体長は大凡四メートル、長いだけだった腕は巨腕になり、魔族のように突起した何かが至る所から出ている。脚も同様であり、背中の肩甲骨あたりからはへの字に曲がった巨大な突起がある。


 煙は晴れてその姿は顕現する。


 肌は赤みがかって顔面から全体的に筋が浮き、身体の全体からは骨が武器のように出ていた。

 それが突起の正体。もはや原型をとどめているのはツンツン頭くらいであった。


 何か、何か言葉を発したかったが、言葉としては言えなかった。

 冷静な判断が取り柄のワワが臆してしまう程に力の差が歴然としていた。

 今までは同等であったが、これはその次元を超えた。今すぐにでも逃げないと自分は死ぬ。

 過去の襲撃時と同じ感覚が身を襲った。


 肉人よりも禍々しく、どんな魔物よりもおどろおどろしい。


 化物のようになったリェンゲルスの拳が大きく引かれる。


 何をするか、何をするべきか、頭で考えようにも纏まらない。


 何も聞こえない程に音が消え、リェンゲルスの拳だけが眼前へと迫りくる。


 放心状態に近いワワがとった行動は攻撃であった。


 しかもそれは直系の師であったハクザ・ウォーカーが最も得意とする正拳突き。

 ワワの型とは全く違う技。

 走馬灯が見せた幻覚。若き頃に憧れたハクザ・ウォーカーを真似ただけ。


 呆気なくワワはリェンゲルスの拳の前に散った。


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