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110:毒女

「珍しいな、ジュリが私を呼び出すなんて」


 王城の裏庭の一角、ユーフォリビアが個人で持っている庭園に収まりきらない手入れをほぼ必要としない植物や菌類が植えられている。

 おかげで人通りが極端に少なく、秘密の話をするにはうってつけの場所であった。


 キュプレイナはジュリからどうしても二人になれる場所で話がしたい。

 と、ジュリの友人であり冒険者ギルド員であるリーアから言伝で頼また。

 最初は警戒をしたが、プライドが高くキュプレイナの事を苦手としているジュリが直接言えずにいるのだと解釈し、ユーフォリビアとの会合の時間の前であれば時間が作れるのでやってきたのであった。


「は?何言ってるの?支部長があーしを呼んだんでしょ?」


 呼んだジュリ本人も同じようなことを言った。

 ジュリが嘘を言っていないのを判断した瞬間にキュプレイナは踵を返す。


 しかし通ってきた道からは緑髪で耳に丸ピアスをつけた女が現れた。


「王国の者じゃないな。お前か?私達をここに呼び出したのは」


「そうだよ。話とかがしたかったんだよね」


「支部長」


 ジュリが攻撃許可を求めている。

 キュプレイナがいるせいで命の危機に瀕した場合の自己判断をする規則を念頭に置いてしまっている。その事にキュプレイナは危機感を感じていた。


 目の前にいる人物は一個人として自分自身と同等の力を持つ相手。

 スキルや魔遺物の相性ではキュプレイナが負ける可能性が十分にある。


 どこかの国の人間が王国に侵入している可能性。

 それは少ない。

 極小の可能性。

 王位継承権を持つ者の手先。

 それが一番在り得る。

 しかしこいつは騎士団や兵士と言った風貌や風格を感じられない。己が我を前面に押し出している。

 つまり、規則なく、そういった仕事を請け負う者。


 暗殺者。


 ここまでの気迫を持った暗殺者となれば暗殺ギルドの一員と思っていいだろう。

 何にせよ暗殺ギルドの情報は少ない。

 名前は世に轟かせているが実体としては人を殺し、ヴェルファーレ・ハングドマンが存在しているくらいのものだ。

 そのヴェルファーレもカイにのされたようで、伝説は破綻したようだが。


 カイの強さを基準にしたところで何の意味もない。

 カイの強さは常軌を逸しているのだから。


「ねぇ、煙草の銘柄は何を吸ってるのさ」


「アルタイルだ」


「へぇもう売ってないやつじゃん。

 あたしもそれ好きでさ、今は似てるロックハートを吸ってるんだけど、これが似てるってだけで違うんだよね。

 久々に吸ってみたいからさ、一本くれない?」


「残念だが初対面の人間に上げられる程、受注をしていない」


「金持ちの癖にケチなんだなぁ。

 個人生産して貰ってるとか優遇され過ぎじゃない?」


「破産しかけたアルタイルを生産していたギルド事私が引き受けたからな。

 私が出資者でギルドのトップだ」


「はぁ・・・・勿体ないな」


「・・・お前も出資者になればいい話だ」


「そっち?いやいや、あんたを殺すのが勿体ないって話だよ」


 それが目的だろう。話すだけなんて在りえない。


「ま、二体一じゃなくなった時点で、あんたは詰みだけどね」


 何を言って、と言いかけた瞬間に緑髪の女の隣へと、ここへと呼び出す言伝をしたギルド員リーアが現れた。


 皮?いや今まで皮はないと確認してきた。

 今朝も確認した時は皮の形跡は誰にもなかった。

 皮を剥いで自分が着るまでは少なくとも三日は要する。そんな時間は一切ない。

 為体な皮であれば自身で見抜いている。


 だとすれば。


「裏切者・・・」


 ジュリが呟いた。


 その目は憎き者を瞳に映し出していた。


「酷いなぁ。自分達の仲間を裏切り者だなんて。

 彼女は君達の為に尽くしたよ、健やかなるときも病める時も共に戦い共に称え合い、そして共に殺し合う。

 いい夢みれたかい?おはようの時間だよ」


 緑髪の女がパンと手を叩くとリーアは笑顔のまま緑色の液体へと変化して、ドロドロと溶けていく。

 緑色の液体の中から一匹の蛇が現れて緑髪の女の身体を這って登って行き、髪の毛と一体化して、襟足が伸びた。


「どういうこと・・・・リーアは完全に人間だった」


「人間だったよ。だっただけ。それだけのこと」


 魔遺物の効果とは思えないので緑髪の女のスキルだろう。

 だとすれば何のスキルだ?自身の身体を蛇に変化させるスキル?そこは付属したものだ。

 身体を変化させる方、主に緑の液体の方がスキルだろう。その証に液体は形も残さずに蒸発してしまっている。


 スキルだからこそキュプレイナの培った慧眼から逃れられた。

 だとしても精巧過ぎた。あれはリーアという人間であった。


 リーアは一年半前にギルド商会へと入会した。

 魔物の集団に襲われた村の娘をジュリが助け出し、面倒を見ている内に冒険者になった。

 同年代で同じ家族を亡くした境遇でもあるジュリとは打ち解けていた。


 この緑髪の女は一年半もの間スキルを維持し続けた。もしかしたらそれ以上かもしれないが。


「ヴェルファーレがいたのもお前が仲介か」


「正解。この子を使ってね。他にも色んなことをしたものだよ」


 しみじみと思い出しながら緑髪の女は言う。


「二対一にはなってないっしょ、あんたの不利は変わらない」


「ははっウケる。朝起きて、顔洗って、着替えて、飯を食う。一般的だよね」


 その言葉が意味することは。


「毒ね。あーしは毒には徹底的な免疫を持ってるつーの」


「それも知り得ている情報。

 植物毒から魔物毒まで網羅しているのはユララなら解剖したがる程の希少価値のある人間だね。

 うんうん。だけどさ、それがどうして分かったのは覚えているかな?」


「は?それはあーしが子供の頃・・・」


 ジュリは言葉を発している最中に気付く。


 ジュリの一家が住まう住居が襲撃されたのはジュリがまだ五歳の頃である。

 両親、家政婦全員が毒による殺害であり、ジュリも投与されていたが、奇跡的に生き残っていた。 そこからジュリは毒に耐性があることが発覚した。

 これを知っているのはジュリとキュプレイナだけである。


「リーアには・・・話してない」


 緑髪の女は笑った。


「ハハッ超ウケる。特別にこれで殺してあげるよ」


「それって・・・・」


 緑髪の女が持ち出したのは短刀。

 それはカンロヅキ家が襲撃された時に奪われていた代物。

 カンロヅキ家が代々家宝として持っていた聖遺物。


「ジュリ!」


 キュプレイナは怒りを抑えるように呼んだが、絶対に無理だと悟っていた。

 ジュリがギルド商会に入った理由は犯人を見つけて、復讐することである。

 その人物が目の前に現れたのだ。気持ちを抑える方が無理ってものだろう。


 ジュリが剣を抜いて走り込もうとした瞬間に膝から崩れ落ちた。


「な――な、なにこれ」


 脚はから始まった痙攣は身体全体に広がっていき、行動をさせないように身体の自由を奪った。


「言ったじゃん、二対一は終わったって。

 その毒で即死していないのが凄い事なんだよ。

 にしても朝ご飯食べないのは不摂生じゃないか?」


「ジュリ、これを飲め」


 キュプレイナは緑髪の女の言葉を無視して、少しでも毒を緩和するために症状に近い解毒薬を自分で用意した水と共に飲ませる。


「敵に背中向けるとか、なめられてる?」


「お前の強さは十分に把握しているさ、その襟足が戻ってきたことによって、最初よりも力が付いているだろうから私一人ではかなりの痛手を負う可能性があるだろうな」


「だったら、こっちを向いて欲しいな。

 好みが合う人間はサクッと終わらせたい」


「好みが合うか。まぁそうだろうな。

 この煙草は濃すぎて一般受けはしなかった。本当にただの趣向品に落ちて、売れずに世から消えて行く。

 こいつのリピーターはな、全てが犯罪者だった。特に暴力を主にしたな。

 この煙草、糞不味いのにな、常習したくなるんだよ。

 開発者に訊いたら被虐心が強い者に作用するように作ったんだとさ。

 まぁそこはさして重要じゃない。

 お前は私の大切な家族を二度も傷つけた。つまりだ」


 キュプレイナは煙草に火をつけて、ふぅっと美味を感じてから溜めて言った。


「死んで償え」


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