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109:開演

 ユーフォリビアは内股になって身体を震わせていた。

 これは・・・演技か?


『ほぎゃあああああ!耳が!耳が!ただでさえ音量上げてたのに!耳がぁ!』


 そんなアマネの叫び声が聞こえてくるあたり、俺だけに起こった出来事でない事を確認する。

 とりあえずうるさいのでアマネとの通信は一旦切っておく。


「君の護衛は?」


「あ、わたくしの護衛は外にいらっしゃる方だけでして」


「にしては入ってくる気配も、連絡さえもないね」


 とてつもない爆発音がしたというのに一向に入ってくる気配はない。

 聞こえてくるのはこの部屋外からの喧騒くらいか。

 庭園から外が見渡せるから現状を把握するには持って来いだろう。


「俺は庭園から外を確認する」


「わたくしも行きますわ」


 ぎゅっとコンパクトを握り締めてから、震えてやまない身体で付いてくる。


「おっ、来た来たぁ。魔王様❤にユーフォリビアちゃん△」


 庭園にはユララが煙を吹かす大きな筒を持って立っていた。

 事の主犯はこいつだな。


「ユララさん、何をしているんですか!?」


「えー、花火」


「はな・・・び?」


「そだよー、空にボカーンって爆薬を打ち上げて、光の色と爆発音を愉しむの。

 スヴェンダでは夏の風物詩なんだよ。

 ほら、そろそろこっちも夏じゃない?だからさ、一発やっておこうかなって」


「急にするのはよくありませんわ。事前に言ってもらわないと」


「こういうのはサプライズの方がい映えるんだよ~。どうだった?」


「び、びっくりしましたわ、まだドキドキしていますわ。

 ね、リヴェンさん。

 ・・・リヴェンさん?」


 俺へと話を振ったが俺が返事をせずにユララを見ている事に不思議に思ってもう一度呼んだ。

 それでも俺は返事をしない。

 今はユララから目を離してはならないのだ。この女、ここに来る前に人を殺してきている。


 気取らせないようにしているが、血の臭いが身体に沁みついている。

 逆に言うと気取れるように敢えて残しているともいえる。


 ユララは笑う。


「こんな時期だからこそサプライズって大事だよね~」


「それ以上近付くな」


 ユララは動き出そうとした足をピタリと止めた。

 こいつが動けば問答無用に人体の肉塊さえも残さない攻撃を放つ。

 その意志を言葉に乗せて言った。


「あ、あの、ユララ・マックス・ドゥ・ラインハルトさんです。

 王国騎士団の特務部隊の隊長さんですわ。

 少しだけ突拍子もない事をしますが、良い方ですわよ?

 だから、その・・・怒らないでくださいませ」


 俺の雰囲気を怒りと勘違いしていて、ユララの奇行に慣れてしまっているユーフォリビアは困ったように言った。


「君にとっては良い奴に映っていたんだろうね。

 だけど今、目の前にいるのは殺人を犯してきた人間だよ」


「た、確かにユララさんは仕事でそういうこともしますが、それは」


「いいよユーフォリビアちゃん△。魔王様❤が言っているのは、それじゃないから。

 ちぇっ、気がゆるゆるなところにグサリと行きたかったのに、やっぱり一筋縄じゃいかなよね。  ま、そうでなくちゃ殺し甲斐が無いよね」


 ユララは騎士団の制服の袖からペンダント型の魔遺物を取り出す。


「それは、ここで使っていい代物ではありませんよ・・・

 いくら冗談でも許されません!」


「うん。誰にも許して貰おうなんて思っていないからね。

 花火を上げたからもう既に開演しているんだよ」


 ペンダントが光り始めたので、極大集中魔光線砲をユララに向けて放つ。


 ユララのいた場所やペンダントはおろか、直線状にあった物は蒸発してなくなってしまう。

 残ったのは焦げた地面だけであった。


 生体反応と魔力反応はまだある。

 ユララは飛び上がって避けていた。

 構えて放つあの一瞬で避けるとはこいつもまた身体能力がずば抜けている証だ。

 だが、所詮は人間だ。


「消えろ」


 もう一度極大集中魔光線砲を放つ。今度は空中で避けらない。


 ユララは着ていた魔遺物を起動する。

 俺が起動した時と同じくらいの魔力値を持った魔遺物であり、生前に見た事があるものだった。


 ユララの背後からは元々の腕とは違う腕が六本生えて、極大集中魔光線砲を防ぎ、それを力業で捻じ曲げて、天へと受け飛ばされてしまう。


「お前・・・それ」


「ん?やっぱわかるの?やっぱり魔王様❤なら分かるよねこの魔遺物。

 ユララちゃん☆のお気に入りなんだよ。

 そして見せた相手はこの世にいないの。

 だからねぇユーフォリビアちゃん△早く死んでくれないかな?」


 ユララが持っている魔遺物の元になっているのは魔王軍四天王、ガンヴァルス将軍の代物である。 あの六本腕は忘れもしない、武骨な手で殴られたり、髪をくしゃくしゃにする程に撫でられたり、認めてもらった時には握手もした。多腕の巨人族の老人であった。

 俺にとっては武術の師にあたる人物でもある。


「どう?昔のお友達にあった気分は?

 ユララちゃん☆は昔のお友達にあっても腹が立つだけなんだけど、気持ち、教えてくれるかな?」


 教えてやろう。

 この気持ちを。


 匡影を起動し、間合いに入った瞬間に斬りつける。


「あはっ、これなんだぁ、ここなんだぁ、ここが嫌なんだぁ」


 匡影を受け止められる。

 ユララの顔が間近でケタケタと楽しそうに歪んでいく。

 俺の過去を抉って、初めて見せた俺の顔に悦びを感じている。


「ぐりぐり~」


 腕が回転して俺の顔面を狙う。

 その攻撃を右腕で防御して後方へと弾き飛ばされる。

 右腕の骨が折れたのだが、折れた傷の治りが遅い。俺の魔分子修復に対応した魔遺物に改造したのか?


 魔遺物同士の力の差は同じか。


「あ、え、ユララ・・・さん?」


「どうしたのさ鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしてさ」


「何を、なさっているのですか?」


「何を、か。言いたいけど、言えないジレンマだね」


 ユララはうーんと唸る。


「一つ言えるのは、ユララちゃん☆は王国に仕えるのは止めたってことだよ」


 騎士団の腕章を千切り、拳で丸めて捨てた。


「反逆ですか・・・どうして?

 わたくし達は共に歩んでいけると仰って下さったではないですか。

 あれは、嘘だったのですか?」


「うん?あぁ、あれね。あれはユーフォリビアちゃん△には言ってないよ。

 ユララちゃん☆が平和主義のユーフォリビアちゃん△と手を繋いで国を紡いでいくと思ったの?

 それだったら、あはっ、想像を絶するお馬鹿さんだ」


 ユーフォリビアは本当にユララが裏切ったのだと面をくらって、額を抑えて打ちひしがれた。


 城の至る所から爆発音や斬撃音や倒壊音が聞こえ始めた。


「ねぇ魔王様❤耳を澄ましてみてよ」


 ユララは目を瞑って耳の後ろに手を当てる。


 聞こえてくるのは喧騒と戦いの音。

 悲鳴、絶叫、雄叫び、金属音、起動音、駆動音、打撃音、術式展開音。

 音が混沌としている。


「最高のハーモニーじゃない?

 ただの日常が戦場に変わる瞬間ってほんっっっっとうに堪らないの!

 いつ見聞きしてもゾクゾクしちゃうの!これだけは飽きないし止められない!

 魔王様❤はユララちゃんの言っていること理解はしてくれるんだよね?」


 理解だけならしてやれる。

 そういう人間が存在しているのを理解だけならばしてやれる。


 できないのは分かり合えないだけだ。


「・・・返答なしっと。

 そんなにこれが効いた?存外魔王様❤も脆いんだね」


 頭の先から足の爪先まで怒った時、俺は黙ってしまう。

 それは反論をする余地などないからである。

 これ以上話す意味はないから、どうせ殺してしまう物と言葉を交わすのが時間の無駄だからだ。


「ユララさん・・・何が目的なんですの?」


「何でもかんでも話すユララちゃん☆だけど、今回は自分達で考えた方が良いよ。

 考える頭が残っていたらだけどね」


「リヴェンさん。わたくしの部屋に戦闘用の魔遺物がありますわ。

 それを取りに行・・・く・・・ので・・・」


 あまり魔術に造士がないユーフォリビアでも気が付いて、言葉を詰まらせた。


 俺の手に魔力が凝縮し、魔力が可視化出来る程に光り放っている。

 可視化できるほどにまで凝縮された魔力は俺の技量に耐えきれなくなり始めて、空気に干渉して耳を劈くような音を鳴らし始める。


 これは魔王の一撃ではない。


 それを超えた一撃である。


「やばぁ・・・流石にそれは避けらんないや」

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