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108:ユーフォリビア

 翌日、朝食を食べて終えて、アマネに頼んでいた代物とガストに頼んでいた仮面が出来上がったことで、それらを受け取ってから、廊下で久々にダントと顔を合わせた。


 今のダントはイリヤの執務官である。

 元々執務官であるが、私的に魔遺物を研究しているのが王国にバレた時期が悪く都外追放になって、あそこにいたらしい。ガラルドとは長い付き合いで友人。


「おぉリヴェン、久しぶりだな。最後に会ったのは一か月くらい前か?」


「やぁ、元気そうで何よりだよ」


「お前も元気で何よりだ」


 別にハグをすることもなく、握手をすることもなく言う。

 お互い腹から信用していないので、触るのさえも億劫なのだ。


「今日、ユーフォリビアのところへ行くんだって?」


「もう少しすればね。それがどうかした?」


 ダントは近づいてくる。


「あいつは腹の内がお前さん以上に読めない。

 ガラルドが言うような人格を持ち合わせているとは到底思えない。

 だから会ったらお前さんの意見も聞かせてくれ」


 と、耳打ちする。

 ガラルドやダントは人を見る目がないようだ。俺に託すんだから見る目がない。


「ご褒美は貰うよ?」


「金でも何でもやるよ。ガラルドの言うようなのを見つけ出せたらな」


 そう言ってダントは過ぎ去っていく。


「あ、そうだダント」


「何だって、うおっ」


 ダントの横を蛇腹剣が過ぎて俺の手元へと戻って消える。


「使っているところ見せたからね」


 ダントが着ている王国既定の執務官の服のポケットを指差す。

 ダントはポケットの中から俺が入れた位置感知の魔遺物を取り出した。


「それは返すよ」


「読めねぇやつだよ、お前さん」


 頂戴したのは蛇腹剣だけだから、位置感知はアマネが持っていたのを奪って返しておいた。


 ダント話し終えて、公務をしているイリヤにちょっかいをかけながら時間を潰していると、ユーフォリビアとの会合の時間が近づいてきた。


 キュプレイナが迎えに来るのだけど、一向にやってくる気配は無い。


「何かあったんですかね?」


 イリヤが心配そうに言う。

 この状況下で所定の時間にやってこないのは確かに心配にはなる。

 だがしかし仮にもキュプレイナはメラディシアン支部の支部長を任される人物である。

 ギルド商会は机仕事だけではない、魔窟調査や魔物の排除といった戦闘仕事もある。その上に立つ者だし優れているから、ちょっとやそっとのことじゃ遅れは取らないだろう。


「まぁ来ないなら俺一人で行くしかないか」


 ガラルドもダントも出払っているので、結局は一人で行くことになる。


「わ、私も行きましょうか?

 ユーフォリビアさんとは一度お話していますし、その・・・他の方より話せる方ですよ?」


「イリヤまで来ると、話が変わってくる。

 キュプレイナが何らかの事情で来られないならば他のギルド員を連れて行くまで

 ・・・だけども、他のギルド員は今日は外にいる組と、城内で騎士団との共同訓練組に分かれているんだったけ」


「じゃあやっぱり私が」


「駄目。イリヤはここにいるのが今は安全」


 昨晩バンキッシュがそう告げに来た。

 何か思いつめた顔をしていたけど触れてほしくなさそうだったので触れなかった。

 そのバンキッシュも今は用事ができたらしくいない。

 てことで護衛要員として横にパミュラがいる。


「そうですよ!イリヤ様!

 私がいるからと言っても、いつ、どこから不埒な輩が襲ってくるかは分かりませんからね!

 私はしっかり守りますけども」


「部屋の破壊は駄目だからね」


「大丈夫ですよリヴェン様、アマネさんに出力の調整をして頂いたので心配は無用です。

 リヴェン様と戦った時のようにはなりません」


「ならいいけど。じゃあイリヤをよろしくね」


「任されました」


 イリヤがパミュラの装甲を触りたそうにしていたが、俺の視線に気づいて公務に戻った。


 ユーフォリビアの部屋は中層の真ん中にある。

 何やら部屋の中に庭園がついていて、一番恵まれている部屋だとか。


 またもヘクトルの案内で部屋へとやってきて入室許可を得て入る。


「ようこそいらっしゃいましたわ。

 わたくし、ユーフォリビア・デブレ・ラ・メラディシアンと申しますわ。どうぞよろしくお願いいたしますわ」


 黒色の髪が腰の先っぽまで綺麗に整えられているにも関わらず、天頂部にはぴょんと毛先が跳ねていた。

 柔和な笑顔が張り付いているのかと思うほど優しさを顔で表現した、女性にしては長身であり、バンキッシュよりも背が高いように見える。


「俺はリヴェン・ゾディアック。

 キュプレイナは急用で来られなくなった、俺だけになったのは謝るよ」


「いえいえお気になさらないでくださいませ。

 キュプレイナ様もご多忙の身ですわ。わたくしのことは後回しでよろしいのですわよ。

 ささ、どうぞ、こちらへ」


 ユーフォリビアは庭園へと案内して、そこに備え付けてある白い丸テーブルと椅子へと俺を招く。


「あの御紅茶はお好みでしょうか?」


「好きだよ」


「よかった。

 ではご用意いたしますので、少々お待ちくださいませ」


 まるで自分が使用人かの如くドレスの裾を持って慌ただしく紅茶が置かれた棚へと戻っていく。


 庭園には色鮮やかな花から、雑草と間違われる草、魔草、魔花までもが栽培されていた。

 ちゃんと花の種類や名前がプランターに掲げられており、○○ちゃんや○○君と表記されていた。 草花を慈愛できるのか。確かにそこから残虐性を連想はしにくいな。


「お待たせしましたわ。お口に合うかどうか」


 トレイに茶菓子のクッキーを乗せてユーフォリビアは戻ってきた。


「ありがとう。いただくよ」


 仮に毒が入っていようと俺自身は治せるので問題ない。

 紅茶の香りを愉しんで、口をつける。

 程好い甘さが口の中に広がり、この茶葉独特な香りが口内から鼻へと抜ける。


「キュロスのセカンドフラッシュだね。この日柄によく合っている」


「まぁ、お分かりになって。

 でしたら是非是非こちらともご賞味くださいませ」


 頭の上にある寝癖のような毛を揺らして喜ぶユーフォリビアはクッキーの入った皿を掌で指していた。


 真ん中に果肉が入った簡素なバタークッキーを手に取って口へと運ぶ。

 なんということか、果肉が紅茶の味を助長し、更に深い味わいへと変わった。

 アマネが二日酔いを改善する為に編み出した食べ方と同じか・・・・。

 いやこちらは紅茶をより一層愉しむための食べ方だ。あのただ酒を飲んで現実逃避したい食べ方とは違う。


「これは君が考えたの?」


「そうですわ。

 沢山の方々にお紅茶の美味しさを体験して頂く為に日々公務の合間に研究をしていまして。

 クッキーの果肉は、わたくしがそちらで自家栽培している物を使っていますので、もしかしたら業者さんのよりかは劣るかもしれませんわね」


「へぇ、これ全部君が凄いね、使用人もいるだろうに」


「自分の手で作ったものこそが愛情もありますし、管理もしやすいですわ。

 ・・・・本当はわたくしが自分の趣味が広がり過ぎただけなのですけどね。

 この庭園もお父様が特別に作ってくださったの・・・」


 父、ドレイズの事を思い出して落ち込みを見せる。


「ご愁傷様。心中は察するよ」


「しんみりさせてごめんなさい。

 お父様から頂いたものだからこそ、わたくしが一人で成し遂げなければいけないのです。

 趣味でもありますが、わたくしの責任でもありますの。それを他人に任せられませんわ」


「いい心がけだよ」


「ありがとうございますわ」


 話してみても噂の顔を覗かせないな。

 突飛しているのは責任感が強いくらいか。

 話題を変えてみるか。


「そういえば君は中央遺物協会と関りがあるんだってね、魔遺物が好きなの?」


「好き、というわけではありませんが、公務として扱っていたら詳しくなったくらいですわ。

 リヴェンさんは魔遺物に興味がありまして?」


「君に俺がどう伝わっているかは知らないけど、俺は魔遺物に大いに興味がある」


「あの、勉強不足で申し訳ありません。リヴェンさんの素性は噂程度にしか聞かされておりません」


「それじゃあ今知ってくれたらいいよ。

 その為に俺も来たわけだしね。俺も君のような人の事をもっと知りたいよ」


「ふふ、お口が達者なのですのね。他に何か知りたいことがありまして?」


「あるよ。

 けど、その前に美味しい紅茶のお返しをしないとね。

 ちょっと立って、俺の手を取ってもらってもいいかな?」


「はい・・・?」


 ユーフォリビアは立ち上がって首を傾げながら華奢な手を差し出す。

 俺も立って彼女の手を軽く握る。


「これはゲームだよ。

 それじゃあ君の大切なモノを探し当ててみようか。思い浮かべてみて」


 そう言うとユーフォリビアは少しだけ目を瞑ってから、また目を開けた。


「じゃあ質問をするよ。

 答えても良いし、答えなくてもいいよ。

 それはこの部屋にあるね」


「はい」


 対面にいる俺に真っすぐ向かって言う。

 手から伝わる鼓動で嘘ではない。

 ゆっくりと引っ張りながら庭園から広い部屋へと移動する。


「それは物であり、どこかに保管されている」


「いいえ」


 脈拍は変わりなし、ただ腕の筋肉には動きあり。

 黙って腕を引っ張って探索をする。脈拍は一切変わらないのは凄いな。

 ただ腕の筋肉はある一定のところで微力ながら強張った。

 身体の反射を自制できる人間はそうそういないね。


 示された場所は扉が設置されておらず中が丸見えなユーフォリビアの寝室であった。


「俺の指先を見てね」


 指を右へ左へ上へ下へとさせる。

 それでまた筋肉が反応したところで止める。

 ここまでくると心拍数が変わってきた。


 指が止まったのはベッドの横に備わっている引き出しだった。

 成程な、大事な物は身近に置いておく人間か。


「あそこに君の思ったモノがある。どう?」


「す、凄いですわ」


 ユーフォリビアは感嘆の言葉を洩らした。俺は手を離して営業笑顔を作ってみせる。


「こんなお返し、どの方にも貰ったことはありませんわ。

 ・・・流石にあそこに何が入っているかは分かりませんわよね?」


 好奇心を駆り立ててしまったみたいで、少し意地悪風にユーフォリビアは言った。

 まぁ勝負に出てもいいだろう。


「コンパクト」


「へ?」


「コンパクトだよ。どう正解かな?」


 表情の変化は少ないものの、生唾を飲んで、瞬きの回数が増えた。


「えぇっと、はい。

 そうですわ・・・・ちょっと待ってくださいね」


 寝室へと入って引き出しを開ける。

 言った通りにお目当てのコンパクト型魔遺物が貴金属やノートと共に入っていて、ユーフォリビアはそれを持ってきてくれる。


『それですよ、それです。

 それだけが異常な反応を見せていますよ!』


 頭の中からアマネの声が響く。結構うるさい。


 アマネに頼んだのは起動していない魔遺物を感知する魔遺物を作れという依頼。

 そんなの無理!と言われたが、ボォクの魔遺物は特別なので人には感じられない何かを放っているのがシンクロウ談――なので能力耐性を使っている時の俺を計測してもらい、それを元に同様の反応を示せる魔遺物を二つ作ってもらった。

 魔遺物に関しては天才だよ、本当に。


 この頭から聞こえるのはこの前奪った通信系魔遺物のスキルで会話している。

 魔術師が使う念術に近い。

 ボォクの魔遺物を探す魔遺物の余った材料で視界を共有できる魔遺物を作ってしまうアマネには色をつけて御金を払っておいた。


 アマネには俺と視界を共有して貰い、判別して貰っている。

 一つは俺がスキルにしようとしたが、受け付けなかった。

 昨夜現れたシンクロウが言うにはオーレの加護が付与されているのでボォクの加護を得ている俺は拒否反応を示しているようだ。

 つまるところ、アマネにはオーレから授かったスキルを持っていることになる。不信者のくせに。


「これは父と母が魔遺物の公務を受け持った時に最初にわたくしに授けてくださったものです。

 幼少期からずっとこれでおめかしをしていますの」


「へぇ魔遺物としては戦闘向きとかじゃないんだね」


「えぇ、この魔遺物には魔遺物としての効果はありませんわ。

 昔から魔力を注いでもうんともすんともいいませんの、ただのコンパクトですわ」


『嘘つけい!滅茶苦茶反応していますからね!絶対ヤバミがある魔遺物です!

 これだから使い方を知らない素人は・・・あれですよ、羽豚に真珠ってやつですよ!

 リヴェンさん奪っちゃってくださいよ!そして持って帰ってきて、私に見せてください!絶対イリヤちゃんも見たいですって!ね!ね!』


 研究者心に火がついて自分の雇い主であるイリヤをダシに使ってくる。後でお仕置きが必要だな。


 そう思った瞬間。


 ドン!!!!!!!!!


 と、耳を塞ぎたくなる程の音と、身体の内側から揺れる振動。それが爆発音ということに気付いたのは幾度も聞いてきたからであった。


感想、評価は継続する意志になります。

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何卒宜しくお願いいたします。

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